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11歳からラップを続けたJoey Bada$$が訴える「根気」の重要性。(Joey Bada$$ - "Devastated")

今回は、Joey Bada$$というニューヨーク出身のラッパーが2017年にドロップした『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』から、PV曲の"Devastated"を紹介したいと思います。

Joey Bada$$は、インタビューで"Devastated"について、アルバムが野菜のように良いアルバムだと言ったことに加えて、"Devastated"はオーガニック・キャンディのような曲だと例えています。

ポップなトラップ曲が溢れる中で、そうしたものを子どもたちが欲しがるキャンディに例えた上で、"Devastated"は、そうした子どもたちも聴けるようなキャンディなキャッチーさもありつつ、内容は野菜のように良いものだから、まるでオーガニック・キャンディだということです。

『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』は今は亡き親友のCapital Steezのミックステープ『AmeriKKKan Korruption』へのリファレンスでもあり、それらはどちらも、Ice Cubeの『AmeriKKKa's Most Wanted』の意図的なミススペルをサンプリングしたものです。KKKはアメリカの白人至上主義の人種差別集団であるKu Klux Klunへの批判から来ています。

トランプ大統領候補の登場で、アメリカ国民が分断された2016年から2017年という時期に制作され、リリースされたのは、当然に意図されたことだと思われます。

それでは、リード曲の"Devastated"を解読していきたいと思います。

イントロ

Yeah, can you feel it? (yeah)

【意訳】
そうさ、共感してくれるかい?

サビ

I used to feel so devastated
At times, I thought we'd never make it
But now we on our way to greatness (greatness, greatness)
And all that ever took was patience

【意訳】
俺は途方にくれた気分だった。
その当時は、俺たちは成功なんて出来っこないって思ったもんさ。
でも、今では偉大なミュージシャンへの道を歩んでる。
この成功のために必要だったのは根気だけだった。

Joey Bada$$は、若くして売れたというイメージがありますが、彼がラップを始めたのは11歳のときでした。Joey Bada$$のフリースタイル動画がWSHHに掲載されて、Jonny Shipesの目に留まり、Cinematic Music Groupとの契約に漕ぎ着けたのは2010年なので、最初の5年間という長い歳月は特に注目を集めることもなく活動していたということになります。

その契約からさらに2年後の2012年に『1999』というミックステープを出して、ついにヒップホップシーンでの認知を獲得します。当時18歳くらいだと考えると、まだまだ若いとはいえ、Joey Bada$$は、まさに忍耐力で成功を勝ち取ってきたラッパーだということが分かります。

1バース目

Okay, just gettin' better each day
Stackin' that cheddar, cheesecake
Look up to the Lord, we pray, tryna be my best each day

【意訳】
オッケー、毎日少しづつ良くなっていく。
チェダー(お金)を積み上げる。まるでチーズケーキさ。
俺たちは神の方を向いて祈る。毎日、自分のベストでいられるように。

cheddarはお金のスラングです。「一晩にして大金持ち」というシンデレラボーイ的な価値観ではなく、少しづつ忍耐強くお金を稼ぐようになってきた、Joey Bada$$の価値観が反映されたラインとなっています。

And 'til I'm laid to rest we lay, yeah
'Til the time bein', we lit
Hopin' I don't let it get all in my head
I don't need the money just to say that I'm rich

【意訳】
俺たちが横たわって死ぬ日までさ。
そのときまで、俺たちは燃え続ける。
俺は全部が頭の中に入ってこないように願ってる。
俺は自分が金持ちだっていうためだけにお金が欲しいなんて思わない。

Instagramなどを活用して、一夜にして成功してお金持ちになったラッパー像を演じるよりも、Joey Bada$$は地道に積み上げて、より良い作品をつくることの尊さを知っています。ただのハイプではなく、積み上げた末の成功を手にしたことを噛み締めています。

Couple little honeys wanna get in my bed
But they used to run from me when I had nothin'
Now they want to fuck 'cause they see me stuntin'

【意訳】
女の子が数人、俺のベッドに入りたがる。
だけど、そいつらは俺が一文無しだった頃には、俺から逃げていった女さ。
今では、俺が魅力的だから、俺と寝たがるんだ。

自分の成功を噛み締めつつも、お金をはじめとした物質的な成功には捉われていない自分を、物質的な成功に捉われているグルーピーと比較することで、浮き立たせています。

Nigga came up off the hustlin'
Livin' in the lap of lux and I'm feelin' like the man
If you ain't in my Chucks, then you wouldn't understand
Homie, 'bout these rubberbands on me

【意訳】
努力して、ここまでやってきた。
豊富なお金で安心して暮らしてる。俺はやっぱり持ってる男だと感じるぜ。
俺のChuck Taylor Allstarsを履いてなきゃ、俺の言ってることは理解できないさ。
お前たち、俺が稼いでるこの金の話さ。

貧困から抜け出して来たことを歌っています。

「Chucks」とはChuck Taylor Allstarsのことだそうです。

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「俺の靴を履いて、俺の歩いてる道を見なけりゃ、俺の考えや言ってることは理解できない」という意味です。

Make her wanna dance for me
Prolly leave her man for me, standin' in the stands, goddamn
(She used to front way back, now she just a fan, yeah)

【意訳】
彼女は、俺のために踊りたくなる。
多分、彼女は俺のために、彼氏を放り出して来るさ。
スタンドに立って、ガッデムってね。
ずっと昔は俺に対してカッコつけてた。今じゃただのファンさ。

昔はカッコつけていて、自分を相手にしなかった女性も、1人のファンになって、自分のために彼氏を放ったらかしてやってくる。ここも成功を噛み締めているラインですね(笑)。

2バース目

I put my pain on the cadence
Turn my brain up a wavelength
Now we're flowin' and sailin'
So just go with the feelin'

【意訳】
俺は、自分の痛みを韻律に乗せる。
頭の中身を波長に変える。
今じゃ波の上を漂って、帆を張って進んでる。
だから、この感情の赴くままに進もう。

自分の経験して来た苦痛や感情を素直に曲に表現することで、高いレベルのコンシャスさを手に入れたJoey。

ここでは、音が音波という形で届くことから、頭の中身を波長に変えると歌ったところから、波のイメージによる連想を「sailin'」などと続けています。

また、"Waves"は、Joey Bada$$がシーンからの注目を獲得したミックステープ『1999』の中のPV曲でもあります。

Baby, soak up the vibe
Let's roll some dope up, get high
We gon' blow smoke in the sky
'Til we can't open our eyes

【意訳】
ベイビー、熱意を吸い上げろ。
マリファナを巻いて、ハイになろう。
煙を空に向かって吐くんだ。
目を開けられなくなるまで。

ここは特に深い意味はないと思いますが、煙や充血で目が開けられなくなるまで大麻を吸おうと歌っています。

以下、繰り返しのため、省略します。

I put my pain in the cadence
Turn my brain up a wavelength
Now we're flowin' and sailin'
So just go with the feelin'
Baby, soak up the vibe
Let's roll some dope up, get high
We gon' blow smoke in the sky
'Til we can't open our eyes, yeah
Yeah yeah, yeah yeah
Yeah yeah, skrrt skrrt
Woo, yeah

ということで

Joey Bada$$の人気曲"Devastated"を解読してみましたが、"Devastated"は、そんなに特にコンシャスな中身がある曲ではありませんでした(笑)。

ただ、アメリカがトランプによる劇的な変化を望む国家となっていった中で、根気よく地道に積み上げることの重要性を訴える曲を作ったのは、偶然ではないでしょう。

またの機会に、もっとコンシャスな曲も解読してみたいと思います。

それでは、次回もお楽しみに!


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