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不器用なエミネムが、長い間、喧嘩を続けた母親に今、伝えたいこと。(Eminem - "Head Lights" feat. Nate Ruess)

今回は、少し古い曲ですが、エミネムで何か一曲というリクエストをいただきましたので、エミネムの「Head Lights」を解読したいと思います。

この曲を理解するためには、エミネムが母親と揉めてきた過去を知る必要があります。エミネムが主人公を演じた半自伝的映画「8 Mile」でも母親との喧嘩シーンは出てきますが、エミネムと母親の関係は良好とは言い難いものでした。のちに触れますが、エミネムは曲中でもたびたび母親を強烈に攻撃しています。

そんなエミネムですが、今となって母親に伝えたいことが、"Head Lights"には詰まっています。その内容を読んでいきたいと思います。

イントロ(Nate Ruess)

イントロはNate Ruessによって、エミネムの子どもの時期の、母親への抗議する気持ちが歌われています。

Mom, I know I let you down And though you say the days are happy Why is the power off and I'm fucked up? 

【意訳】
ママ、俺はあなたを失望させたよね。でも、あなたは毎日が楽しいという。
どうして電気が切れたの?なんで俺はめちゃくちゃなの?

And, Mom, I know he's not around But don't you place the blame on me As you pour yourself another drink, yeah

【意訳】
それでママ、あいつが俺たちを捨てて出て行ってしまったのは分かるけど、またお酒をもう一杯グラスに満たすとき、それを俺のせいにしないでくれ。

エミネムの父親は、エミネムが赤子のときに家を出て行ってしまっています

エミネムは母親との緊迫した親子関係をリリックに綴ってきたが、赤ん坊のときに姿を消したまま、一度も会ったことのない父親について語ることはあまりない。
「もし俺の子供たちが地球の反対側に行ってしまっても、俺は探すだろう」と彼は述べた。「絶対にそうするよ。金も何もなくたって、俺は子供たちを探し出す。そんなの言い訳にならないよ」。

エミネムの母親は、母子家庭でエミネムを育て上げましたが、その過程では精神が不安定になり、薬物中毒になりました。公共料金の支払いにも苦労したほか、エミネムにも、自分を必要とさせるために、薬物を摂取させていました。

エミネムは楽曲でそんな母親をたびたび非難してきており、母親とエミネムの関係はWikipediaによると、母親が名誉毀損でエミネムを相手に訴訟を起こすほどに、悪化していました。

1999年には、エミネムの母親が、The Slim Shady LPに含まれる歌詞中の彼女に関する中傷で約1000万ドルで彼を訴える。彼女は2001年に約1,600USドルを勝ち取った。

コーラス(Nate Ruess)

母親がエミネムにどのような仕打ちをしてきたかをイントロで再度確認した後、コーラスでは、この曲の主題が歌われます。

I guess we are who we are
Headlights shining in the dark night, I drive on
Maybe we took this too far

【意訳】
きっと、俺たちは自分以外の何者にもなれない。
真っ暗な夜にも、俺は前に進み続け、ヘッドライトは光っている。
もしかすると、俺たちはこの問題を大きくしすぎたのかもしれない。

エミネムの母親は、完璧な親からは遠い存在だったかもしれないけれど、人は完璧な存在にはなれないのだから、それでも関係性を続けていくしかないというエミネムの気持ちが表現されています。過去には曲で批判し、母子関係を名誉毀損の裁判沙汰にまで発展させてしまった後悔も感じられます。

バース(エミネム)

続いて、エミネム自身によって、母親への気持ちが、誠実に綴られています。

I went in headfirst, never thinkin' about who what I said hurt
In what verse, my mom probably got it the worst
The brunt of it, but as stubborn as we are, did I take it too far?
"Cleanin' Out My Closet" and all them other songs

【意訳】
俺は頭から突っ込んだ。俺の発言が、誰を傷つけるかも考えずに。
どのバースか分からないけれど、ママはきっと最悪の受け取り方をしたんだろう。
「Cleanin' Out My Closet」や他の曲で、その矛先に向けて、俺はやりすぎたんだろうか。俺たちはとても強情だからね。

若い頃につくった曲について、どのくらい誰を傷つけるかを考えずに、突っ走っていたことが綴られています。「Cleanin' Out My Closet」は、母親への非難の曲としても、最も強いものです。

But regardless, I don't hate you ‘cause, Ma
You're still beautiful to me, ‘cause you're my mom

【意訳】
俺は曲で散々に言ってきたけど、ママのことは嫌いじゃないよ。
あなたは今でも俺にとって美しい存在だ。だって、俺のママなんだから。

どれだけ悪口を言っても、母親は1人であり、母親の大切さは変わりません。

Though far be it from you to be calm
Our house was Vietnam, Desert Storm
And both of us put together could form an atomic bomb
Equivalent to chemical warfare

【意訳】
あなたは落ち着いた人間とは程遠かったけれど。
俺たちの家はベトナムや砂漠の嵐みたいだった。
俺たちが揃うと、まるで原子力爆弾をつくれそうな状態だった。
化学戦争に等しかったね。

エミネムと母親が、家に揃うと、戦争のように激しく喧嘩をしたことが、比喩を尽くして語られています。

And forever we could drag this on and on
But agree to disagree, that gift for me
Up under the Christmas tree don't mean shit to me
You're kicking me out? It's 15 degrees and it's Christmas Eve
"Little prick, just leave!" Ma, let me grab my fuckin' coat

【意訳】
これをいつまでだって続けられるよ。
だけど、同意しないという点においては、同意するね。
クリスマスツリーの下に置いてあったプレゼントは、俺にとって何の意味もなかった。
俺を追い出すんだって?外は15°Fで、今日はクリスマスイブだぜ。
「ゲス野郎、出て行け!」だなんて、ママ、俺のコートくらい取らせてくれよ。

記憶が回想されています。エミネムが欲しかったのは、母親が親として正しく振舞ってくれることであり、クリスマスプレゼントくらいでは、普段の親らしくない振る舞いを帳消しには出来なかったという、子供の頃の気持ちが綴られているのでしょう。

Anything to have each other's goats
Why we always at each other's throats?
Especially when Dad, he fucked us both
We're in the same fuckin' boat
You'd think that'd make us close (Nope!)

【意訳】
お互いを怒らせることばかり。
どうして、いつもお互いの喉を締めてばかりだったんだろう。
特に父親が俺たちをどちらも裏切ったとき。
俺たちは同じ糞みたいな船に乗り合わせたってわけだ。
あなたは、それが俺たちの距離を近づけると思ったんだろう。(そんなわけけあるか!)

エミネムの父親、エミネムの母親にとっては夫が、家族を裏切って出て行っても、敵の敵は味方ということで距離が縮まるということはなかったようです。

Further away it drove us, but together, headlights shine
And a car full of belongings, still got a ways to go
Back to grandma's house – it's straight up the road

【意訳】
随分と遠くまで来てしまった。でも俺たちのヘッドライトはまだ光ってる。
車には俺の持ち物がたくさん。まだ道には先がある。
おばあちゃんの家に戻る。道をまっすぐ進んだところさ。

エミネムは、トレイラーハウスで母親に育てられました。エミネムをモチーフにした映画『8マイル』では、このトレイラーハウスが出てきます。

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エミネムが19歳のとき、エミネムはトレイラーハウスから出て行くように命じられ、持ち物や思い出が詰まったトレイラーハウスを後にして、祖母の家に移ります。

And I was the man of the house
The oldest, so my shoulders carried the weight of the load

【意訳】
俺は一家を引っ張る男だった。俺は長男だったし、肩の荷は重かった。

エミネムは、一家の長男として、家族の生活のために働きました。やがて、 Dr.Dreと契約してカリフォルニアに移るまでは。

Then Nate got taken away by the state at eight years old
And that's when I realized you were sick
And it wasn't fixable or changeable
And to this day we remain estranged, and I hate it though, but—

【意訳】
それで、Nateは8歳のとき、州に保護された。
そのときに、俺はあなたが病気だって気づいたんだ。
それは治せない病気だし、あなたは変わらないんだって気づいた。
今日この日まで、俺たちは疎遠なままだし、俺はそれが嫌だけど、だけど、、

弟が保護されたとき、エミネムは、家族がトラブルばかりなのは、自分と母親の相性の問題ではなく、母親に問題があるということに気づいたのでしょう。

母親が病気だと気づいたというのは、色々な曲で歌われており、それが原因で上でも書いたように、エミネムと母親は疎遠な関係となりました。

2バース目(エミネム)

‘Cause to this day we remain estranged, and I hate it though
‘Cause you ain't even get to witness your grandbabies grow
But I'm sorry, Momma, for "Cleanin' Out My Closet"
At the time I was angry, rightfully? Maybe so

【意訳】
今日この日まで、俺たちは疎遠で、俺はそれが嫌だけれど。
だって、あなたは、自分の孫が育つ様子さえ見られないんだから。
だけど、「Cleanin' Out My Closet」の件は、本当にすまなかった。
そのときは、俺は怒りに取り憑かれていたんだ。
それは当然のことだった?そうかもね。

「Cleanin' Out My Closet」では、エミネムは、「ヘイリー(エミネムの娘)が育っているけど、あなたには絶対に会わせない。ヘイリーには、あなたの葬式にさえ顔を出させない。」と、母親への嫌悪感を強く歌っています。

その「Cleanin' Out My Closet」でのラインを受けて、母親がヘイリーに今も会えていないけれど、本当はそんな疎遠な状態を解消したいという、エミネムの後悔と前進の気持ちが綴られています。

ちなみにエミネムの娘のヘイリーですが、1995年生まれなので、現在は22歳ということになります。

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Never meant that far to take it though
‘Cause now I know it's not your fault, and I'm not making jokes
That song I no longer play at shows
And I cringe every time it's on the radio

【意訳】
こんなに引っ張るつもりはなかったんだ。
それに、今では、あなたのせいじゃないって気づいた。
これは冗談じゃないぜ。もう、あの曲はライブでは演奏してない。
それに、ラジオからあの曲が流れるたびに、俺は縮み上がるんだ。

「Cleanin' Out My Closet」をつくった後悔が綴られています。もうライブでもやっていないし、ラジオから流れるたびに、曲をつくったことを後悔すると。

And I think of Nathan being placed in a home
And all the medicine you fed us
And how I just wanted you to taste your own

【意訳】
俺は、家にいるNathanのことを考える。
それから、あなたが俺たちに飲ませた薬のことを考える。
俺は、あなた自身に飲んでほしかったんだけどな。

"My Mom"という曲では、エミネムたちの食事などに母親がジアゼパム(valium)という抗不安薬を入れていたことが歌われています。

But now the medication's taking over
And your mental state's deteriorating slow
And I'm way too old to cry, the shit is painful though
But, Ma, I forgive you, so does Nathan, yo

【意訳】
でも今じゃ、薬が徐々にあなたを蝕んでる。
それに、あなたのメンタルの状態は少しづつ悪化してる。
俺は泣くには大人すぎるけれど、心は痛いよ。
ママのことを俺は許すよ。Nathanも許してるさ。

母親をディスし続けてきたエミネムですが、母親が徐々に年老いて死が近づいていくなかで、ついに母親を許す気持ちになったようです。

All you did, all you said, you did your best to raise us both
Foster care, that cross you bear
Few may be as heavy as yours, but I love you, Debbie Mathers

【意訳】
あなたがした全てのこと、あなたが言った全てのこと、俺たちを育てるために精一杯だったんだろう。
児童養護施設は、あなたが背負うべき十字架さ。
あなたのほど重い十字架は少ないだろう、だけど愛してるよ、Debbie Mathers。

児童養護施設というのは、Nathanを引き取られたことを意味しているのでしょう。子どもを虐待していたことで、エミネムの母親は、エミネムとも喧嘩し、Nathanとも引き離されました。

それはとても重い十字架ですが、エミネムはそれでも母親デビー・マザーズを許しています。

Oh, what a tangled web we have ‘cause
One thing I never asked was
Where the fuck my deadbeat dad was

【意訳】
なんて複雑に絡まった状況になってしまったんだろう。
俺が一度も聞いてないことがある。
あの怠け者の父親はどこにいるんだって。


Fuck it, I guess he had trouble keepin' up with every address
But I'da flipped every mattress, every rock and desert cactus
Owned a collection of maps
And followed my kids to the edge of the atlas

【意訳】
どうでもいいぜ!なんども引っ越ししたから、住所が分からなくなったんだろう。
だけど、俺だったら全てのマットレス、全ての岩、それから砂漠のサボテンまでもひっくり返して、自分の家族を探すけどな。
たくさんの地図を集めて、アトラスの果てまで子どもを探しにいくだろう。

父親がなぜ会いに来ないのかということについて、住所が分からなくなったんだろうと茶化しています。一方で、もしも、エミネムが同じ状況だったなら、世界中、子どもを探して回るだろうと。

If someone ever moved 'em from me
That you coulda bet your asses
If I had to come down the chimney, dressed as Santa, kidnap 'em

【意訳】
もしも、誰かが俺の元から子どもを連れ去ったら。
掛けてもいいぜ、俺はまるで煙突からサンタの格好をして降りてくるようにして、子どもを連れて帰る。

And although one has only met their grandma once
You pulled up in our drive one night
As we were leavin' to get some hamburgers

【意訳】
俺の子ども(ヘイリー)は、おばあちゃんに一度しか会ったことないけどな。
あなたは、俺たちの駐車場の前にある夜にドライブしてきた。
俺たちはハンバーガーを買いに行くところだった。

Me, her and Nate, we introduced you, hugged you
And as you left I had this overwhelming sadness
Come over me as we pulled off to go our separate paths

【意訳】
俺と、ヘイリーとNathan、俺たちはあなたをヘイリーに紹介して、ハグをした。
あなたの帰り際、お互いにそれぞれの道を運転していったときに、俺は堪え難い悲しさを感じたんだ。

エミネムは、母親に対して、ヘイリーとは絶対に会わせないと歌っていましたが、実際には一度、会ったことがあるようです。

エミネムの母親が、エミネムの家にやってきて、たまたまエミネムが出掛け際だったために遭遇したようで、これに似たシーンがPVで再現されています。

And I saw your headlights as I looked back
And I'm mad I didn't get the chance to
Thank you for being my mom and my dad

【意訳】
振り返ると、あなたの車のヘッドライトが見えた。
俺はどうかしてたんだ。あなたに、母親と父親の両方の役割を果たしてくれてありがとうと言う機会がなかったなんて。

たまたま出会えたときにも、エミネムは感謝の気持ちを伝えられずじまいで、すれ違いを解消することができませんでした。

So, Mom, please accept this as a tribute
I wrote this on the jet, I guess I had to get this off my chest
I hope I get the chance to lay it 'fore I'm dead

【意訳】
だからママ、この曲を贈り物として受け取ってくれ。
この曲をジェット機の中で書いたんだ。
きっと、この感謝の気持ちを告白しなきゃいけなかったんだ。
俺が死ぬ前に、この気持ちを届けられればと思うんだ。

The stewardess said to fasten my seatbelt, I guess we're crashin'
So, if I'm not dreamin', I hope you get this message that
I'll always love you from afar, ‘cause you're my mom

【意訳】
ステュワーデスがシートベルトを締めろと言ってる。衝突するのかもな。
だから、もしこれが夢じゃなければ、このメッセージを受け取ってくれることを願ってるよ。
「俺はいつでもあなたのことを愛してる。あなたは俺のママだから。」

母親も歳をとって、自分もいつ死ぬか分からない。そんな人生の儚さも知ったが故でしょうか。エミネムは、これまで言うことができなかった母親への感謝と許しの気持ちをついに書き記すことができたのです。

ブリッジ

ブリッジは、親子の絆を再確認したエミネムは、もう死ぬことも怖くないという内容が歌われています。

I want a new life (start over)
One without a cause (clean slate)
So I'm coming home tonight
Well, no matter what the cost

【意訳】
俺はあたらしい人生が欲しい。(やりなおしたいんだ)
原因のない人生さ。(まっさらな白紙だ)
だから、今夜、家に帰ることにするよ。
どんなコストを支払うことになってもね。

And if the plane goes down
Or if the crew can't wake me up
Well, just know that I'm alright
I was not afraid to die

【意訳】
それに、もし飛行機が墜落しても、もしくは、俺が目覚めることがなかったとしても。
これは分かっていてくれ、俺は大丈夫、俺は死ぬことなんて怖くないんだ。

Oh, even if there's songs to sing
Well, my children will carry me
Just know that I'm alright
I was not afraid to die

【意訳】
もし、俺が歌うべき曲があったとしても、俺の子どもが、俺を運んでくれるさ。
これは分かっていてくれ、俺は大丈夫、俺は死ぬことなんて怖くないんだ。

もしも、エミネムが亡くなったとしても、子どもがこのエミネムの気持ちを届けてくれるということでしょう。

Because I put my faith in my little girls
So I never say goodbye cruel world
Just know that I'm alright
I am not afraid to die

【意訳】
だって、俺は自分の運命を、俺の小さな娘たちに託したんだから。
だから、俺は「残酷な世界よ、さようなら」なんて言わないぜ。
これは分かっていてくれ、俺は大丈夫、俺は死ぬことなんて怖くないんだ。

まとめ

過去には、様々な曲でディスの対象とし、裁判まで繰り広げ、母親デビー・マザーズとの大喧嘩を経験してきたエミネムでしたが、大人になり、母親も自分も歳をとったことで、疎遠な状態を解消したいという気持ちが生まれました。

初期のエミネムは「マーシャル・マザーズ」や「スリム・シェイディ」といったキャラクターを作り上げて、やや狂気的な仮面を被って、ラップを通じて暴言を放ってきました。その作風によって、一躍有名となったエミネムですが、母親や元妻のキムなど、多くの人を傷つけることにもなりました。

そんな中で、過去につくってしまった曲を、こうして上塗りできるのも、アーティストとしてのキャリアを続けられているからこそだと感じます。エミネムだからこそ作れた一曲の解読でした。


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