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LogicがベテランMCを迎え、多様な視点からアメリカの問題点を浮き彫りに。【前編】(Logic - "America" feat. Black Thought, Chuck D, Big Lenbo, No I.D.)

Logicが2017年にリリースしたアルバム『Everybody』からは、人種や性的指向などのあらゆるステレオタイプから自由になることを歌う"Black Spiderman"、自殺防止を訴える"1-800-273-8255"が特に話題を呼びました。

上の2曲は特に注目されていると思いますが、『Everybody』には、他にも印象的な曲が並んでいます。特に、攻撃的なビートに乗せて、多面的にアメリカを見たコンシャスな曲"America"はアクの強い強烈な曲です。

Logic自身がインタビュー内で、この曲では多くのコンシャスでリリカルなラッパーたちも招いて、様々な視点からアメリカをどう見ているかを描いたと言っているように、トランプ政権下の今のアメリカに対する様々な想いが見てとれます。客演には、The RootsのメンバーであるBlack Thought、Public EnemyのメンバーであるChuck Dが迎えられています。

今回は、この曲を中心に、今のアメリカの様子を探ってみたいと思います。

さて、こちらの曲、なんと5バースほどもあり、とてつもなく長いので、2回に分けてお送りしたいと思います。

それでは、さっそく内容を見ていきましょう。

サビ

Hey mothafucka, I’m real as shit
Everything I’m talkin' 'bout real as, real as shit
Aw yeah, I’m back in this bitch
And you don’t gotta like it but get off my, off my
Hey mothafucka, I’m real as shit
Everything I’m talkin' 'bout real as shit
Aw yeah, I’m back in this bitch
And you don’t gotta like it but get off my dick

【意訳】
ヘイ、クソ野郎、俺はめちゃくちゃリアルだぜ
俺が言うことば全て超リアルな話なのさ
そうさ、俺がここに戻ってきたぜ
もし嫌いなら、俺に関わるのを止めな

「この曲はめちゃくちゃリアルだぜ」という内容が、セルフボースト風に歌われていますが、この曲の場合は、文字通り、本当にリアルな内容が並んでいるため、ダブルミーニングで捻りのある面白いサビとなっています。

1バース目(Logic)

1バース目を担当するのはLogicです。

Fight the power, fight the power
Fight for the right to get up and say fuck white power
Everybody come and get up, get on
And no matter what you fighting for I promise that it’ll live on

【意訳】
権力と戦え、権力と戦え!
立ち上がって「白人の権力なんて糞食らえ!」って叫ぶ権利を得るために戦え
みんな集まって立ち上がれ!この動きに乗ってくれ!
お前が何のために戦っているとしても、その想いは生き続けると約束するぜ

「Fight the power」は、この曲にも客演参加しているChuck Dの所属する伝説的なグループ、Public Enemyの代表曲のタイトルでもあります。

この曲では、白人に対して、敢えて過激に口撃するリリックが点在しています。これは、トランプ大統領が移民等に対して過激に口撃する様子を、白人に対して同様に行うことで、トランプ大統領の発言の異常さを浮き彫りにしようとする意図があるようにも感じられます。トランプ大統領のような白人が他の人種に対して口撃しても安全なのに、他の人種が白人を口撃しづらい社会だとしたら、そこには平等ではないアメリカの縮図が既に見えてくるでしょう。

Like make America great again
Make it hate again
Make it white
Make everybody fight
Fuck that

【意訳】
「もう一度、アメリカを偉大に!」
もう一度、憎しみ合う国にしよう!
もう一度、白人の国にしよう!
みんなが互いに戦うようにしよう!
そんなアメリカなんてクソだよな!

「もう一度、アメリカを偉大に!(Make America Great Again)」は、トランプ大統領のスローガンです。

このような過去のアメリカを美化する保守的なスローガンは、人種差別や性差別の問題等を少しづつ解決してきたリベラルな立場の人たちからすると、全てを元のアメリカに戻してしまうというのかと不安になる表現です。ここでは、そうした内容が端的に述べられています。

元はといえばアメリカは、アフリカから"輸入"された奴隷によって初期を支えられた国です。その後、北部と南部の奴隷に関する価値観の違いは、アメリカ最大の危機である南北戦争に繋がりました。こうした過去の「白人の優越性」や「国家の分断」は、本当に「偉大なアメリカ」なのだろうか、ということをLogicはリスナーに問うています。

Street’s disciple
My raps are trifle
I shoot slugs from my brain just like Cobain
And everybody wonder why the world insane
Why the world insane
Why the world insane
Why the world insane

【意訳】
俺はストリートの門弟、俺のラップはしっかりと伝わる
俺の知性って弾丸で打ち抜くぜ、まるでコバーンさ
みんな、どうしてこの世界がおかしくなっちまったのかって不思議に思ってる
どうしてこの世界がおかしくなっちまったのか!
どうしてこの世界がおかしくなっちまったのか!
どうしてこの世界がおかしくなっちまったのか!

「Street's disciple My raps are trifle」は、ニューヨークが誇るカリスマMCであるNasからの引用です。

また、カート・コバーンは拳銃自殺しましたが、その頭から弾丸が飛び出す様子を比喩として用いて、ここでは知性を用いた攻撃的なラップをするということを表現しています。

2バース目(Black Thoght)

2バース目はBlack Thoughtが担当しています。

内容は、知識の豊富さを感じさせる引用を用いながら、今のアメリカの問題を浮き彫りにしていて、ベテランMCの実力を堪能することができます。

The world going mad over one drug
I'm filling up a bag at the gun club
In the shadow of a nation that it once was
All this false information I'ma unplug, young blood

【意訳】
世界は、ひとつのドラッグのせいで狂っちまってる
俺は、この国の昔の姿の影に隠れて、銃見本市で買い物袋をパンパンにしている
この嘘ばかりの情報源から自分を切り離そう、若者たちよ

ひとつのドラッグのせいで世界が狂っているというのは、アメリカと南米を混乱させ続けるコカインのことを言っているのかもしれませんし、トランプの熱狂のことを言っているのかもしれません。

また、一代前のオバマ元大統領は、涙ながらに銃規制の強化を訴え、銃購入時の身元確認を徹底させる等の大統領令を発令したのに対して、保守的なトランプ大統領は銃規制に消極的です。トランプ大統領が昔のアメリカを賛美する様子を連想させて、古き良きアメリカでは銃を買いたい放題だと皮肉を歌っています。

また、「嘘ばかりの情報源」であるフェイク・ニュースは、いま世界的にホットなテーマです。アメリカでは日本以上にフェイクニュースが当たり前のように溢れており、SNSを通じて拡散されています。これは少なからず大統領選挙にも影響を与えたと言われており、Facebookなどもフェイクニュースが拡散されないよう、取り組みを始めています。

It is not love, up at TrumpThugs, dot gov
The man in the high castle in a hot tub
We locked in a pine casket

【意訳】
トランプ・サグや政府に向けて、これは愛じゃないぜ
高い城でバスタブに浸かってる男
俺たちは松の棺に閉じ込められてる

トランプ・サグというのは、明確な説明は見つからなかったのですが、ツイッターで#TrumpThugsのハッシュタグがつけられた発言を読む限りでは、トランプ大統領を支える人たちのことを皮肉をこめて呼ぶときに使われる呼称のようです。トランプ政権を支える保守派の政治家や、右寄りのFoxNewsの関係者などがTrumpThugsと呼ばれています。

『The man in the high castle』(『高い城の男』)は、枢軸国である日本とドイツが第二次世界大戦に勝利した世界を想定して書かれた架空の小説です。小説内では、アメリカは第二次世界大戦後に冷戦に突入した日本とドイツによって、アメリカ合衆国と、アメリカ太平洋岸連邦の2つに分割されています。これは、分断が進む今のアメリカを想起させる表現でもあるのでしょう。また、小説内では「高い城の男」は、連合国側(アメリカ・イギリス・ソ連・中国)が勝利した世界についての小説『イナゴ身重く横たわる』を書いたことで保安警察に命を狙われているホーソーン・アベンゼンという人物のことですが、ここでは自分をホーソーンに例えているのかもしれません。

it's botched up
Like plastic surgery, classic perjury
The way they can plead the fifth to the 13th
And stop to search me, controversy
Them boys in the klansmen hoods is thirsty but hey motherfucker

【意訳】
形成外科みたいに台無しさ
あいつらが憲法の5条(黙秘権)を13条(奴隷解放宣言)に対して申し立てることができるなんて、古典的な偽証だ
俺を捜索するのをやめろ、論争するか
KKKの奴らは血に飢えてるようだけど、おい、クソ野郎

ここでは、人種差別が今も残るアメリカの様子を、奴隷解放宣言に対して黙秘権を行使しているという比喩的な表現を用いて描いています。「俺を捜索するのをやめろ」というフレーズは、先ほどの「高い城の男」のホーセーン・アベンゼンとも繋がってきます。

KKK(クー・クラックス・クラン)は、白人至上主義団体のことで、2017年にも死人が出る痛ましい事件が起きました。

シャーロッツビルは大規模な白人至上主義者の集会によって非常事態宣言が出されるほどの混乱に陥り、その過程で集会に抗議する人々に車が突っ込み、一人が死亡、十数人がケガをするという事態となった。

アメリカ・シャーロッツビルに白人至上主義者が集結 その背景と経緯、そして今後より)

3バース目(Chuck D)

3バース目は、Public EnemyのChuck Dが担当しています。

Young blood, it takes another look and feel
Slap that fear monger at that wheel
Olive branches in the arrow seal
Alternative facts mean to lie and steal
Gotta to go to ban the whole

【意訳】
若者たちよ、別の視点と感情が必要だ
あの恐怖を利用してアメリカを牛耳る奴を引っ叩け
矢の紋章にもオリーブの枝があるんだ
「もうひとつの事実」は嘘をついて奪うことを意味する
全てを禁止しなければ気が済まないんだろう

「恐怖を利用してアメリカを牛耳る奴」は、もちろんトランプ大統領のことを指しているのでしょう。

矢の紋章とオリーブの枝というのは、アメリカのワシの紋章のことです。

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左のオリーブは平和、右の矢は対立の象徴となっています。ここでは、アメリカの紋章は対立だけではなく、平和も表しているということを思い出させています。

「もうひとつの事実」(オルタナティブ・ファクト)は、大統領顧問のケリーアン・コンウェイがトランプ大統領の就任式の様子を「過去最大の人々が就任式をこの目で見るために集まった」と賞賛したけれど、実際にはオバマ大統領の就任式の方が参加者が多かったことが空撮写真によって露呈し、記者に問いただされた際に、嘘ではなく「もうひとつの事実だ」というふうに用いたフレーズです。つまり、トランプ大統領やトランプ政権の、事実とは無関係に、印象を操作するような虚偽発言を繰り返す態度の象徴として用いられる言葉です。トランプ大統領の虚偽発言も、選挙期間中に問題視されていました。

Refugee population from the land they stole
In the name of the government
Rich white man while the rest be suffering
Run from the locked down borders

【意訳】
政府の名の下に奪った土地から来た難民人口
白人の裕福な男がいる間にも、残りのみんなは苦しんでいる
閉ざされた国境から逃げる

アメリカは、冷戦期に南米が左派に寄らないよう、たびたび国家的な介入を続けてきました。アメリカでは、移民が社会問題となっていますが、例えば、そうした南米の国から来る移民というのは、自らが招いたものではないかと、Chuck Dは疑問を呈しているのではないでしょうか。

Ain’t like Flint ain’t got clean water
Dirty politics never come clean
Can ya'll believe this shit in 2017?

【意訳】
フリント市と違って、綺麗な水は得られない
汚染された政治は、絶対に綺麗にはならないんだ
2017年に、こんな状態だって信じられるか?

ミシガン州フリント市では、2016年に水道水の鉛汚染が発覚したことで、非常事態宣言までが出ることとなりました。このときは、最終的に州の財政で水道菅工事が行われたようです。また、企業等から綺麗なミネラルウォーターがたくさん寄付されました。一方で、政界については、同じように汚染はされているものの、いつまで経っても、誰も綺麗にしようとしません。Chuck Dは、そこに苛立ちを覚えているようです。

後編ではカニエへの想いなどが歌われます

前編はここまでです。

後編では、Logicが尊敬しているカニエ・ウエストへの複雑な想いなどが歌われています。楽しみにお待ちいただければと思います。

また、今年はこれが最後の更新となると思います。

8月に開始してから、読者の皆さまのお陰で、少しづつ形になってきました。楽しんで読んでいただけていたら幸いです。

来年もどうぞよろしくお願いいたします!

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