見出し画像

資本主義をゾンビに例えるガンビーノが視た社会。(Childish Gambino - "Zombies")

今回は、少し短い上に、ラップでもないのですが、Childish Gambinoの"Zombies"を解読してみたいと思います。こちらの曲は2016年12月に発売されたアルバム『Awaken, My Love!』に収録されています。

まず、Childish Gambinoは、本名をドナルド・グローヴァーといい、ラッパーとしてだけでなく、俳優やコメディアンとしても活躍する、非常に多才な人物です。

しかし、Childish Gambinoはヒップホップ界ですんなりと受け入れられた訳ではなく、そのスタイルの変遷は『That Shit Cray!!』さまの記事をお読みいただければと思います。

 巧みな言葉遊びを駆使した「パンチラインの応酬」をもってミックステープ・シーンで名を馳せたC・ガンビーノ。そのコメディアンゆずりのユーモア炸裂スタイルそのままに、満を持して1stアルバム『Camp』(11年)を発表する。しかし同作への批評家たちの評価は厳しいものだった。特に、C・ガンビーノの作風とは親和性の高いと思われたピッチフォークで酷評されてしまう。
 続いて発表したミックステープ『Royalty』(12年)はそんな批評家たちへの逆襲とばかりに、作風を一転。それまではC・ガンビーノとプロデューサーのLudwig Göransson(ルドウィグ・ヨーランソン)の二人三脚での制作スタイルだったのが、同作では外部プロデューサーや豪華客演アーティストを多数起用。リリックの内容も「俺のチンコが云々」といった十八番の下ネタパンチラインを封印し、金持ちボースティングや地元のレペゼンなど、いかにも「ラッパーらしい」スタイルへと変化した。「おふざけラッパー」、「セレブのサイドビジネス」などとはもう言わせないぞ、というC・ガンビーノの意思がひしひしと伝わってくる作品であった。

さて、前作のアルバム『Because the Internet』は、Kendrick Lamarの『Good Kid Maad City』などのコンセプチュアルなアルバムが評価された時期にドロップされたものらしく、混み入った設定のある作り込まれたものでした。

そして、ミックステープを一枚挟んで、出されたアルバムが『Awaken, My Love!』ということになります。

その内容は、基本的にはラップをせず、ファンクなビートの上で歌うという古さ故に新しいスタイルで、Questloveなどに絶賛されました。(Questlove「Childish Gambinoの新譜が衝撃すぎて朝4時にD’Angeloを起こしてしまった」

『Awaken, My Love!』はチャートアクションでも、前作�『Because the Internet』のUS最高7位を上回る、最高5位を記録しています。

そんなアルバムから、Childish Gambinoの表現力が味わえる一曲『Zombies』を読んでみます。

1バース目

All I see is zombies
Walking all around us
You can hear them coming
(They come to take your life)

【意訳】
俺の眼に映るのはゾンビばかり。
俺たちの周りをうろついている。
あいつらがやってくる音が聴こえるだろ。
(お前の命をもらいにやってくるのさ)

周りにゾンビがうろついている様子を描写しています。

これは筆者の解釈ですが、このゾンビは資本主義の中で、お金を稼ごうとしている人々です。

ということで、続きを読んでいきたいと思います。

You can hear them breathing
Breathing down your spine

【意訳】
あいつらが息をする音が聴こえる。
お前にしつこく付きまとう。

ゾンビがしつこく付きまとってくるということを歌っています。

さて、1バース目はゾンビが命を奪いにやってくるということだけが歌われています。

ゾンビとは何か、命を奪うとは何か、探るために2バース目を読み進めてみます。

2バース目

All I see is zombies
Hear them screaming at her
They can smell your money
And they want your soul

【意訳】
俺の眼に映るのはゾンビばかり。
彼女に向かって叫んでいる。
あいつらはお前のお金を嗅ぎつけるのさ。
それで、お前の魂を欲しがるんだ。

ここでゾンビの生態系が描写されています。

ゾンビは、お金を嗅ぎつけてやってきて、魂を欲しがります。

資本主義下の企業や人々は、お金がある場所を「市場」として嗅ぎつけて、製品を投入して、マーケティングを行い、人々のお金や時間、心や魂を食い尽くしていきます。

また、資本主義は、その市場を広げるために、次々と新しい市場を資本主義経済の中に組み込んでいきます。欧米や日本といった列強諸国が、第二次世界大戦までの間に植民地政策で世界中を資本主義経済に取り込んでいったように、人々の魂を変えてしまうのです。

その様子は、まさにここに描かれているゾンビの生態系そのものではないでしょうか。

Here they come behind you
Try to stay alive

【意訳】
お前の背後にやってくる。
死なないように頑張るんだな。

そんなゾンビは、個々人にも忍び寄ってきます。

そんな社会の中で、死なないように頑張れとガンビーノはニヒリスティックに歌っています。

サビ

We're coming out to get you
We're all so glad we met you
We're eating you for profit

【意訳】
俺たちはお前を捕まえにいくぜ。
お前に出会えて、本当に嬉しいよ。
利益のためにお前を喰わせてもらうぜ。

サビはゾンビの立場から歌われています。

「利益のためにお前を喰わせてもらうぜ」という表現から、ゾンビの正体がやはり資本であろうということが予想できます。資本(ゾンビ)にとっては、消費者というのは利益を生み出すための市場なのです。

There is no way to stop it
You will find there is no safe place to hide, hide
(That's right, that's right)

【意訳】
止める方法なんて一つもないのさ。
安全な場所なんてどこにもないって気づくはず。
(その通り、その通り)

この曲のおもしろいなと思うところは、 Childish Gambinoはこうしたゾンビや資本主義を批判する形ではなく、淡々と描いている点です。『Awaken My Love!』は全体として俯瞰的な描写が目立つアルバムだと思います。

3バース目

All I see is zombies feeding all around us
All they eat are people (and you won't survive)
They don't know what happened, they just stay alive

【意訳】
俺の眼に映るのはゾンビばかり。
俺たちの周りで食い漁ってる。
あいつらは人間だけを食うのさ。(そして、お前は生き延びられない)
何が起こったかも分かってない。ただ生き続けてるんだ。

ここでは、ゾンビがどんどん増えていく様子が描かれています。

ゾンビは人間だけを食べます。言い換えると、資本主義は、お金という概念を持っている「人間」だけをその経済圏に組み込んでいきます。

そして、資本主義の経済圏内に一度組み込まれた人間は、お金に支配されて一生を過ごすこととなるのです。資本家は、少しでも高い利回りや運用先を求めて、お金を増やし続けます。労働者は、リタイアを目指して、自分の人生をお金に変えて生き続けます。

多くの人は「何が起こったか」も分からずに資本主義の中で生きているというのが、Childish Gambinoから視た社会の在り方なのではないでしょうか。

アウトロ

Do you feel alive, yeah?
Do you feel alive, yeah?
Doo-doo, doo-doo-doo
Do you feel alive?

【意訳】
生きた心地はするかい?生きた心地は?
生きた心地はするのかい?

そのような社会の中で生きていて、本当に生きている心地はするかい?というのがChildish Gambinoがアウトロに残した問いかけです。

ということで

少し短い曲で、歌詞の文字数も少ないのですが、すごく比喩や描写が上手で、おもしろい歌詞だなと思ったので紹介させていただきました。

Childish Gambinoの『Awaken, My Love!』、音楽性も温故知新という感じでフレッシュなので、まだ聴いていない方は、ぜひチェックしてみてください。

ここから先は

0字

¥ 300

「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!