見出し画像

「夫を撃たないで!」。警官による射殺映像にインスパイアされたファレルとケンドリックの曲を読む。(N.E.R.D. - "Don't Don't Do It" feat. Kendrick Lamar)

昨年末に発売されていた、N.E.R.Dの『No One Ever Really Dies』。

その中に、鬼才ケンドリック・ラマーを迎えた、"Don't Don't Do It"という曲があります。

この曲は、Charlotteという町で、Keith Scottさんという黒人男性が警官に射殺された事件にインスパイアされて作られた曲です。

※なお、本事件については、Keith Scottさんの妻と警官側で言い分違っており、警官側はKeith Scottさんが銃を保持していて、たびたびの警告にも関わらず銃を手放さず、警官に対して攻撃するかのように見えたという説明をしています。Keith Scottさんの妻は、夫は銃を保持していないと述べています。また、本事件でKeith Scottさんを射殺した警官は白人ではありません。

今回は、この曲を見ていきたいと思います。

サビ

They tell you pull over, tell you get out the car
(Something says)
Don't do it, don't don't do it
(Something says)
Don't do it, don't don't do it
(Something says)
Don't do it, don't don't do it

【意訳】
あいつらは言う、車を止めろ。あいつらは言う、車から出ろ。
(何か言う)
やめて、それをしないで!
(何か言う)
やめて、それをしないで!
(何か言う)
やめて、それをしないで!

サビの部分は、Keith Scottさんが射殺されたときに、車の外に降りていて、その一連の流れをビデオに撮っていた妻が、警官に対して繰り返し叫んでいた「Don't do it!」から来ています。

(閲覧注意)

Keith Scottさんは、TBI(外傷性脳損傷)を患っており、警官の要求に対して、きちんと答えられず、警官が不審に思って射殺するのではないかと心配した奥さんが「撃たないで!」と叫んでいるシーンなのです。

ファレルは、この部分について、とあるインタビューで、ニュースを見て、この映像をみたときに、このシーンにはメロディだけが欠けており、ここをサビにすべきだとピンと来たと言います。

1バース目(Pharrell)

最初のバースは、先ほどのKeith Scott氏が射殺された部分の情景描写です。

We were going home
Waiting for the kids
School bus to arrive
Oh, but you know, they're gonna do it anyway

【意訳】
俺たちは家に向かっていた。子どもたちを待っていた。
スクールバスが到着するのを待ってたんだ。
ああ、でも分かるだろ、あいつらは関係なくやるんだ。

Keith Scottさんは、スクールバスで子どもたちが近所のバス停まで帰ってくるのを待っていました。そこに警官が職質に現れます。

Reaching for your keys
Wait, is that your phone?
Got a TBI
Wait, is that police?
Get out for what?
I'm not your guy
(But you know, they're gonna do it anyway)

【意訳】
車の鍵に手を伸ばす。あれ、待って、これは電話だっけ。
外傷性脳損傷があるんだ。
んん?ちょっと待てよ、あれは警察だっけ?
何から出ろって?俺はお前の下僕じゃないぜ。
(でも分かるだろ?あいつらは関係なくやるんだ)

ここでは、TBIのKeithさんが、突然の警官の登場にパニックになり、上手く対応できていない様子が描かれています。

Wife behind the trees
Tryna to tell you don't
They're about to fire
(They're gonna do it anyway)

【意訳】
木々の後ろに妻がいる。お前に「やめろ」って伝えようとしてる。
あいつらは、俺を撃とうとしてる。
(あいつらは関係なくやるんだ)

ここは先ほどの動画の通りです。木の後ろにいたKeith Scottさんの奥さんが、撃たないで!と叫んでいます。

2バース目(Pharrell)

2バース目では、過去に黒人への警官の理不尽な暴力があり、抗議活動が行われた地域を列挙しています。

Whoa Ferguson, oh Baltimore
Raleigh, North Carolina
But you know, they're gonna do it anyway
Wisconsin, Tulsa, Oklahoma
Cleveland, Ohio
Montgomery, Baton Rouge, Cincinnati car
Dayton, Ohio
But you know, they're gonna do it anyway
New York, New Jersey, Phoenix, Minnesota
South Carolina
They gonna do it anyway

【意訳】
ファーガソン、ボルチモア、ローリー、ノース・カロライナ。
でも分かるだろう?あいつらは関係なくやるんだ。
ウィスコンシン、タルサ、オクラホマ、オハイオのクリーブランド、
モンゴメリー、バトン・ルージュ、シンシナティ・カー、オハイオのデイトン、
でも分かるだろう?あいつらは関係なくやるんだ。
ニューヨーク、ニュージャージー、フェニックス、ミネソタ、サウス・カロライナ
あいつらはどうせやるんだ。

3バース目(Kendrick Lamar)

You better duck, run fast from the mania
Don't stare, don't laugh at the media
Brake free, press gas when it enter ya'
Don't let it go bad when he ante up

【意訳】
さっさと屈むことだな、躁鬱病の野郎どもからはさっさと逃げろ。
ぼけっと見てるんじゃねえ、メディアを笑うんじゃねえ。
逃げ出せ、お前のところに来たら、アクセルを踏め。
お前に理不尽な支払いを要求したら、それ以上の悪化をさせないことだ。

躁鬱病というのは、突然、銃をぶっ放す警官のことを指していると思われます。警察に車を止められたら、いつ撃たれるか分からないという様子を表現するために、止められても逃げろと逆説的に歌っています。

また、メディアの傲慢な態度に対する怒りも見て取れます。

Highway, get out the way
Black man do your great escape
Pac-man wanna prosecute you
Raise your hand up, and they'll shoot ya'

【意訳】
高速道路、道を開けやがれ。
黒人男、お前の過去最高の逃走劇を繰り広げてみろ。
パックマンがお前を起訴したがってるぜ。
手を上げろ、そしたらあいつらがお前を撃ち殺すんだ。

パックマンはアーケードゲーム発のキャラクターです。警官が追いかけてくる様子をパックマンに例えています。

画像1

Face off, face off Adolf Hitler
Grandkids slayed off
Niggas, same rules, same chalk
Different decade, same law

【意訳】
アドルフ・ヒトラーの登場だ。孫たちが殺されるぞ。
同じルール、チョーク、違うのは年代だけ、同じ法律。

ヒトラーの時代から、少数派の人間が苦しめられている状況が変わっていないことを嘆いています。年代が変わっても、同じようなルールが適用されていると。

Keep focus, you wanna get caught with your eyes open
You wanna stay clear of the prognosis
Pride provoked him, watch demotion
Watch em' close enough

【意味】
集中しろ、目が開いた状態で捕まりたいか。予測には敏感でいないとな。
プライドがあいつを刺激した、降職にも注意しろ。しっかりと観察しろ。

降職した警官ほど八つ当たりをする可能性が高いということでしょうか。不勉強ですが、このような事件があったのでしょうか。

Don't let the holster break or roast ya'
Rollercoaster ride that bitch
Soon or later sides gon' switch
You know Johnny got that itch
How many more of us gotta see the coroner?
Slain by the same badge, stop, wait, brake, fast!

【意訳】
ホルスターに、お前を壊したり、焼かせるんじゃないぞ。
車をローラーコースターみたいに運転して逃げろ。
そのうち局面は変わる。ジョニーには熱望があるのを知ってるだろ。
あと何人が、検視官に会わなきゃいけないんだ。
同じバッジをつけたやつらに殺害されて、やめろ!待て!止まれ!さっさと!

ホルスターというのは銃を入れる革の入れ物のことです。つまり、1行目は銃に撃たれるんじゃないぞということです。

画像2

また、ジョニーというのは、ケンドリックの過去の曲「Ronald Reagan Era」にて、警官の暗喩として使われている言葉です。ここでは、ジョニー(警官)が黒人を射殺したがっていると歌っています。

ということで

バイラルした事件現場のビデオにインスパイアされ、リリックにサンプリングしながら作られた曲でした。テーマはシリアスですが、音楽としてはキャッチ—で聞きやすい曲に仕上がっていました。

ここから先は

0字

¥ 300

「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」を読んでいただき、ありがとうございます! フォローやSNSでのシェアなどしていただけると、励みになります!