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「アメリカをもう一度クリップスにする」。トランプ大統領に反発するスヌープドッグの真意とは?(Snoop Dogg - "M.A.C.A.")

スヌープドッグの新作『M.A.C.A』(Make America Crip Again)が話題を呼んでいます。

Cripは「ブラッズ」(赤)と構造を繰り広げるカラーギャング「クリップス」(青)のことです。スヌープドッグはもともとクリップスの構成員であり、トランプ大統領の「Make America Great Again」に対して、「Make America Crip Again」だと述べているわけです。

その意図として、スヌープドッグは以下のように述べているとFNMNL誌では紹介されています

「貧困地域に暮らす若い黒人の男たちが自分たちのコミュニティを助け、彼らの面倒を見るために団結していたのがそういう時代だ。なぜなら社会は基本的に彼らを見捨てていたから。たくさんの人たちがCripsのギャングによる横暴や暴力を取り上げるが、その始まりについては忘れてしまっている。Cripsの主な、そして唯一の目的は、ブラックパンサーの反映であったということだ。彼らは、子供達の面倒を見て、放課後のアクティビティを提供し、彼らに食事を与え、子供たちの手本となり父親の役割を果たしていた。」

また、スヌープドッグは、過去にも『Lavender(Nightfall Remix)』のPVでトランプ大統領に似せたピエロに向かって銃を放つといった過激な描写を取り入れています。

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そのことをトランプ大統領は以下のようにツイッターで非難しています。

もしも、落ち目のキャリアのスヌープドッグが、銃をオバマ大統領に対して放っていたら、結果はどうなっていたか想像できるか。刑務所行きだ!

2人の因縁は今に始まったことではないということですね。

それでは、Make America Crip Againの中身を読んでいきたいと思います。

イントロ

'Cause I'ma keep it G real. I don't fuck with you, cuz
You disrespected me. You disrespect my hood by telling me
Take off my flag, asking how gangster I was, nigga
You lucky on that day I was acting cool, cuz
I told you I ain't got time for that, but nigga, today I got time, cuz

【意訳】
だって、俺はめっちゃリアルに保つからな。お前とは交わらない。
だって、お前は俺を舐めてるからだ。
お前は、俺の地元への尊敬が欠けている。
俺の旗を外せって言ったり、俺がどのくらいギャングスタなのかって尋ねたりよ。
お前は、あの日ラッキーだったな。俺がクールに振舞ってたから。
あのとき、俺はそんなことにかまってる時間はないって言ったけど、だけどよ、今日は時間があるぜ。

イントロには、黒人のギャングの青年と思われる声のサンプリングが使われています。(サンプリング元は分かりません、すみません)

これは当然、スヌープドッグからトランプ大統領への意見が内包されていると考えられます。つまり、大統領はマイノリティへの配慮と尊敬が足りないということです。

("You know what? We likes to party...We likes to party
We likes to party
We don't cause trouble, we don't bother nobody...")

【意訳】
だって、知ってるだろ?俺たちはパーティーが好き。
俺たちはパーティーが好き。俺たちはパーティーが好き。
俺たちは問題なんて起こさない。他人のことなんて気にしない。

スヌープドッグは政治的な要素を含む曲でも、ヒップホップの根源である「Unity」「Have Fun」といった要素を取り入れて、エンターテイメントとして仕上げることを忘れていません。

サビ

Ay young world, the world is yours
Ay young world, the world is yours
Young world, young world
The world is yours
Young world, the world is yours
The world is yours
The world is yours
The world is yours

【意訳】
おい、若いの、世界はお前のもんだぜ。
そうさ、若いの、世界はお前のもんなんだ。

「The World is Yours」はスカーフェイスという映画で現れるフレーズであり、それをNasというラッパーが曲名に採用しています。ヒップホップでは有名なフレーズだというわけです。

バース前

The president say he wants to Make America Great Again
Fuck that shit, we gon' Make America Crip Again, cuz

【意訳】
トランプ大統領は、アメリカをもう一度、偉大にしたいと言う。
だけど、そんなの糞食らえさ、俺たちはアメリカをもう一度クリップにするんだ。

ここでは、さっそく今回の曲の主題がラップされています。

スヌープは、トランプ大統領の「Make America Great Again」なんて糞食らえだと言っています。それは、トランプ大統領が言っている「アメリカが偉大だった時代」というのは、黒人が差別されていた時代だからです。トランプ大統領の支持層は、アメリカや世界のリベラル化に反対する保守的な白人層だと言われています。

1バース目

As I look around I see so many millionaires
With skin like mine, don't pretend like I'm
With that bullshit, your president been tweeting

【意訳】
周りを見回すと、たくさんの億万長者が目に入る。
俺と同じ肌の色をした奴らさ。
俺がトランプがツイートしてることを支持するなんて思うなよ。

人種に関係なく、成功することができる時代となったことをラップしています。

Them black boys is balling out, the whole block been eating
You punk pigs we calling out
I'ma line y'all on up
Then start my own league, I'ma sign y'all on up

【意訳】
あの黒人の若いやつらは、めちゃくちゃ羽振りがいい。
あの区画では全員が飯を食えてる。役立たずの糞豚どもを呼び出す。
お前たち全員を並べて、俺が自分のリーグをはじめてやるよ。
お前ら全員と契約してやる。

ここで、自分のリーグを始めると言っているのは、9月に発生したトランプ大統領とNFL選手との抗争に基づくものです。

NFLでは昨年夏、コリン・キャパニック選手が警察暴力に抗議して国歌演奏時の起立を拒否し、膝をついたのを機に、複数の選手がこれに同調した。24日はそれ以来、最も大勢の選手がこれに賛同した。
トランプ氏は22日、キャパニック選手たちの行為を念頭に、支持者集会で「我々の国旗に不敬な態度をとる奴に、NFLチームのオーナーが『あのクソ野郎をすぐにグラウンドからつまみだせ。出てけ。クビだ』と言ったら最高じゃないか」と発言し、声援を浴びた(訳注・「クソ野郎」と訳した元の発言は、「son of a bitch=直訳・あばずれの息子」という罵倒語)。

もしも人種差別でNFL選手がクビになるなら、俺が全員を雇ってやるというわけです。「You punk pigs we calling out」のラインだけ、いきなり入っていて、ちょっとどういう意味か分からないのですが。。

I'm thinking who my heroes be, thank God for the Negro League
Colin Kaepernick was blackballed, ah, nigga, please
This still America with three K's, believe that shit

【意訳】
俺は自分にとってのヒーローが誰になるかを考えてる。
二グロ・リーグに感謝するんだな。
Colin Kaepernickは排斥された。マジかよ、ありえない。
これはまだKKKが生き残ってるアメリカなんだ。そういうことだよ。

Colin Kaepernickは、もともと2016年に国家への忠誠斉唱を拒否したNFL選手です。(以下、Wikipediaより)

2016年8月26日に行われたプレシーズンマッチで試合前の国歌斉唱でベンチに座ったまま立ち上がらず、起立を拒否した。「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」と理由を述べ、人種差別への抗議であるとした

Colin Kaepernickは2017年からフリーになり、どのチームとも契約していません。これをスヌープドッグは「排斥された」と表現しています。

KKKは、Ku Klux Klunという白人至上主義の人種差別団体です。

The world is yours my nigga, so go and see that bitch
Every chance you get hit that lick and get that shit
Put your name down and your thang down
We gon' Make America Crip Again

【意訳】
世界はお前のもんだ、兄弟たち。だから、自分だけの人生を見に行け。
チャンスがあるたびに、たっぷり稼いで、そいつを摑み取れ。
お前の名前を書き記して、お前のブツを下ろせ。
俺たちが、もう一度アメリカをクリップにしてやるのさ。

こんな社会だけれど、強く生きて成功しろとスヌープはギャングの先輩としてアドバイスします。

「see that bitch」は、直訳すると「ビッチを見に行け」ということになりますが、その直前の「The World is yours my nigga」がNasの『The World is Yours』へのリファレンスだと考えると、ここでのビッチは同じくNasの『Life's a Bitch』(人生はビッチだ)へのリファレンスだと考えて、「人生」と訳すのが適切だと思います。自分だけの人生を見に行けという意味です。

2バース目

Don't ya look strange?
Having all that power but you won't make change
But don't trip we Crip and we gang up too
And if I do a count, I'm sure we got more guns than you

【意訳】
不思議だと思わないか?
それだけの権力を手にしていて、お前は何も変化を起こさない。
酔っ払うなよ、俺たちはギャングを結成するぜ。
もしも俺が数を数えたなら、俺たちの銃の方が多いに決まってるさ。

権力を手にしても、世界をいい方向に「Change」しようとせずに、保守的なアメリカに戻そうとするトランプ大統領への反発を表明しています。「Make America Great Again」がトランプ氏のスローガンであるのに対して、「Change」は、前大統領であるオバマ氏のスローガンでもありました。

Now just imagine if we stop shooting our own kind
I'm a Crip with no color lines, that mean I'm colorblind
I learned that, turnt that, Willie Lynch, burnt that
G status earned that

【意訳】
さあ、想像してくれ。もしも、俺たちが自分たちの仲間を撃ち殺すのを止めたら?
俺はクリップスだけれど、色で区別はしない。俺は色盲なのさ。
俺はそれを学んだ。それに興奮した。ウィリー・リンチ、そいつは燃やした。
ギャングのステータス、そいつを手に入れた。

ここでは、冒頭の部分で書いたように、クリップスの成り立ちが「唯一の目的は、ブラックパンサーの反映であったということだ。彼らは、子供達の面倒を見て、放課後のアクティビティを提供し、彼らに食事を与え、子供たちの手本となり父親の役割を果た」していたということを思い起こさせます。

ブラックパンサーというのは黒人の自警団です。「Make America Crip Again」と言っても、ギャングが支配する国、ブラッズとクリップスが同じ人種で殺しあう国を意味するのではなく、初期のCripsのような、仲間と結束して、自分たちの生活を守っていくということをイメージしているのでしょう。

Now that I'm your OG, it's my job to teach you
Show you, look out, reach you
Every chance you get hit that lick and get that shit
And put your name down and your thang down
We gon' Make America Crip Again

【意訳】
さて、俺がお前らのOGだ。お前たちに教えてやる義務が、俺にはある。
お前たちに見せて、お前たちの面倒を見て、お前たちに届ける義務がある。
チャンスがあるたびに、たっぷり稼いで、そいつを摑み取れ。
お前の名前を書き記して、お前のブツを下ろせ。
俺たちがアメリカをもう一度クリップにするんだ。

OGはオリジナル・ギャングスタ、つまりギャングの先輩という意味です。

Cripsの初期の在り方を知るスヌープドッグとして、今こそ仲間たちで団結することの大切さを教えようとしています。

まとめ

以上、エミネムのフリースタイル動画も話題になっていましたが、アメリカのヒップホップシーンではトランプ大統領へのアーティストからの反対の態度表明が続いているようです。

それと同時に、スヌープドッグのこの新曲からは、初期のヒップホップが大切としてきた「Unity」「Peace」「Have Fun」といった概念がしっかりと詰め込まれていると感じます。

皆様はどのように思われますか。


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