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やっちまったなあ

「生の人間は胃にもたれる」と、友人が言う。
わかる。確かに、生身の人間ほど消化に悪いものはなく、たくさんの人と会うと胃がもったりする。会食で食べ過ぎるせいかな、と思っていたけれど、そうじゃない。近ごろ、年をとったのでよけいに「人間消化酵素」が減ってきて、大量の人間関係を消化できない。

成長期は人に会えば栄養になった。他者の影響をどんどん受けてそれを自分の血肉にしていく体力があった。50代の半ば頃からだろうか。もう、人間とこれ以上は会えません……という限界を感じたことがあった。ネットで関係するだけで手いっぱい。生の人間はずんっと胃にもたれて、翌日は肩や背中、首が凝る。人は嫌いではないが、たくさんと会えなくなってきた。

そして思う。あの、20代の頃の人恋しさはなんだったのだろう?

20代〜30代は、生身の人間を切望していた。なんとか人と関係して人の肌触りを感じたかった。一人でいると取り残されたように感じ、淋しくてたまらなくて、どんな相手とでもいいから一緒にいたいと思うくらい、人と一緒に居たかった。あの感じは、なんだったのか?

ドラマだ、と思う。私はテレビドラマや漫画や映画のような人生を望んでいて、そこに描かれるような「ラブコメディ」や「友情」や「シティライフ」を手に入れることが幸せなのだと錯覚していた。なのでテレビドラマを夢中で観ていた。そして、ああいう人生を送らなければ、と、悲しいくらい真剣に考え、ドラマのような人生を演出すべく、日々、人生のドラマ化に真面目に取り組んでいたのだ。

しょせん、テレビドラマのまね事だから、陳腐なのだけれど、それはそれで楽しかったのでよしとする。人生とテレビドラマの区別がつかず、ドラマのようなことを演じてきた。他人の色恋沙汰に首を突っ込み、わざとそのドサクサに巻き込まれたりした。

今なら、友人と彼氏が目の前で険悪になり別れ話になりそうな気配を感じたら、気を効かせてさっさと帰るのだが、若い頃はまるでそれが自分と無関係とは思えず、別れたがっている男に向かって「彼女のことどう思っているの?」と偉そうに問い詰めるめんどくさい女だった。早い話、すんげえおせっかいだった。
うざい奴だった。思い出すと恥ずかしい。

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