見出し画像

定年廃止と生涯現役時代の到来

1. はじめに 

 昨今、少子高齢化の影響で企業の定年が60歳から65歳へ、続いて70歳へと見直されつつあります。将来的には75歳までの延長及び定年制の廃止論まで議論が進むものと考えられます。 

 とはいえ高齢者になると肉体労働が厳しくなったり認知能力が低下したりする恐れがあり、現役時代同様に働くことが難しいことも予測されます。本稿ではこれからの社会で労働が人生においてどのように位置づけられ、金融がどのように作用するかを考えます。

2. 生涯現役は天国か地獄か

 平成の前半までは60歳で定年を迎え老後生活に移行するのが一般的な社会人のモデルケースでした。現在は平均寿命の延長、少子高齢化による労働力の減少、社会保障費の増加と年金財源の不安などが合わさり定年の延長・年金受給年齢の切り上げが進められており今後もこの傾向は続きます。 

 近い将来、定年は75歳あたりが議論のボーダーラインとなり、定年廃止論も本格的に議論されることになることは間違いありません。並行して年金支給年齢も現在の65歳から70歳を基準に変更されることも想像に難くありません。 

 年金は老後の生活資金というより長生きをヘッジする「保険」という立ち位置となります。平均寿命の方は払い損確定の制度になる可能性があります。拠出金を自身で年率4%複利で運用した額よりも将来受け取る額の方が少なくなる方の方が多いのではないでしょうか?年金は自身の老後資金の備えではなく再分配色が強くなると想定されます。 

 現在進行形で推進されている定年延長は労働者側から自発的に提議されたアジェンダではありません。財政の観点から政府主導で強制的に枠組みの変更が進められているのが実態です。よって制度としては定年の延長は実現しますが、実態としては政府の考える雇用延長と相当なギャップが生じると予測されます。 

 時代の変化・テクノロジーの変化に柔軟に立ち向かいキャッチアップ可能な高齢者にとっては活躍の幅が広がる面白い時代かもしれませんが、そうではない多くの高齢者にとっては非常に厳しい時代となりそうです。 

 既に定年引退した高齢者の再雇用は難儀しており、人脈や特別なスキルの無い労働者は警備員やビル管理など限られた選択肢の中で再就職を余儀なくされています。これらの職種は高度な知識や体力を必要としない反面、低スキル労働に分類されるため給与も安く抑えられがちです。 

 結果として高齢者の低賃金労働者が増加します。しかしながらこれらの職種もAIの発展に伴い置換が進んでいくことが予測され今後は狭き門となる可能性が高いです。結果として能力選別による無職が加速します。 

 今後は現役時代(新卒から)の計画的な貯蓄・資産運用がこれまで以上に重要となります。23歳から40年間、計画的かつ効率的な貯蓄と資産運用が出来れば65歳からは働かなくても問題ない従来の老後引退プランを謳歌できますが、失敗すると死ぬまでお金の奴隷になり続けるかもしれません。 

 この辺りの社会の変化を若い世代ほど敏感に感じ取っているかと思います。私は現在38歳で日本の未来を悲観しておりますので、20代の若者や学生はもっと大きな悲観を抱いているのではないかと思います。 

 これは普通にやっていては勝ち筋が見つけられない状況であり、マイナススタートの人生ゲームです。よって、相当慎重に振る舞い計画的・合理的に行動しない限り人生のどこかのタイミングで金銭的に詰んでしまう可能性が高いゲームです。やり直し不可能な無理ゲーをプレイさせられている状況です。 

3. リアル人生ゲームの攻略法

 難易度MAXでリセットボタンが存在しないリアル人生ゲームが若者を取り巻く状況です。条件を変更したければ「日本」から脱出する必要がありますが、多くの方にとって非現実的かと思います。本稿では日本という所与の条件を前提にどのように振る舞うべきかを検討します。 

 まず政治への期待は出来ませんので、政策的な救済は当てに出来ません。今後も国民負担が増加する方向で改悪が進むと想定されます。社会保障費という名の税金と各種税金は緩やかに増加する前提です。よって今後も可処分所得は低下し続けることとなります。経済規模は縮小均衡でスリム化されることとなります。 

 これまで以上に「自助」が求められる社会となることは間違いありません。しかしながら本当の意味で自助を理解している国民が少ないことから「経済的な難民」は増加の一途を辿ることになると思われます。 

 対応策は資本収益の効率化しかありません。日本という局所では経済は縮小傾向に陥りますが、世界全体で見ると人口は100億人程度までは増加傾向にあり、世界経済は拡大が見込めます。よって経済成長が期待できる地域・産業に対して効率的に2,000兆円に及ぶ日本の個人資産を投資し、外部からリターンを稼ぐしかありません。 

 ピケティの21世紀の資本で「r>g」が示されておりますが、資本収益の活用なく効率的に資産を構築することは不可能です。パイが縮小する日本に資本を投下しても期待値は低いことから投資先は必然的に海外となります。 

 どの地域がどのような発展を遂げるかはわかりませんので投資の際は広く全体をカバーするような全世界株などが良いです。インドやアフリカなどの地域が大きく発展しそうだからといって特定地域への集中投資は新興国のリスク管理上、好ましくありません。 

 アリとキリギリスの童話は誰もが知っていますが、投資の話になると多くの人はキリギリスを目指してしまいます。人生は80年・100年にも及ぶ長期戦です。短距離走ではないことから短期間ダッシュ(短期運用)ではゴールは難しいのが現状です。 

 マラソンにおけるペース配分と同様に資産運用にも長期運用戦略が不可欠です。多くの社会人は長期運用戦略無しで日々の人生(マラソン)を意識することなく走り続けています。資産運用は一日・一週間・一か月程度では変化を感じることが難しいことから、多くの方は即効性を求めキリギリスになる方法を求めます。 

 それがレバナスやSOXL・仮想通貨といった投資に繋がります。確かに短距離走ではレバナスやSOXLはロケットダッシュに成功する可能性がありますが、長期で評価した場合には抱えるリスク・コストが尋常ではありません。使いどころを見極める必要があります。(決して使うな、という趣旨ではありません。使い方次第です。) 

 反対にアリのような投資は即効性・瞬発力はありませんが持続性という観点から長く続けられるアプローチです。この場合、再現性という観点から誰でも実践可能です。課題は人間の本能に反して忍耐が要求される点です。楽して早く稼ぐのと真逆のアプローチとなるため、「時間」と向き合える投資家かどうかでふるいにかけられます。 

 投資の神様として有名なバフェットの資産の大部分は60歳以降に築かれたものと言われています。これは忍耐力と複利効果の証明でもあります。複利効果は運用期間の後半になるほど、資産額が大きくなるほど発揮されます。仮にバフェットが60歳で運用を終了していたら世界の富豪ランキングには辿り着きませんでした。 

 複利の雪だるま効果は一般投資家の資産運用にも該当します。新卒から40年間、働きつつ貯蓄と資産運用を継続出来れば老後資金の不安はなくなります。更に、買って借りて死ぬ(buy, borrow, die)戦略を組み合わせることで資産の維持と消費を両立することが容易となります。 

4. ライフプランニングとライフマネジメント

 生涯現役社会におけるリアル人生ゲームの攻略方法が示されたところで、次は理論の実践と実践に際してのフレームワークについて検討します。理論としては“こうすればいい”と示されたところで実践できなければ無価値です。 

 人間の意志力には限界があり意志力に頼る運用は破綻する確率が高いことから、実践に際しては何らかの強制力を有するフレームワークの採用を検討する必要があります。一般的には「自動積立・先取り貯蓄」が推奨されています。ポイントは個人の意志力に依存せず仕組み(フレームワーク)によって確実に資産を形成する点です。

 投資には資産投資の外にも自己投資が欠かせません。収入が低いうちは金融資産への投資より自己投資を優先し年収を上げる方が投資余力の確保の観点から有効です。毎月一定程度の投資が可能な収入を確保したタイミングで金融資産への投資を加速させます。ある程度金融資産が形成されサイドFIREが視野に入ったころからは独立も視野に入れつつ人的資産・ネットワークの構築にも力を注ぎます。 

 人生の段階に応じて優先する投資を切り替えつつ長期目線で資産の拡大・最適化を目指します。ライフシフト(100年時代の人生戦略)において人生はマルチステージに変化しつつあると示されています。金融資産の形成はライフプランにおけるゴールの1つですが、全てではありません。投資家として優先度が高いテーマですが、お金は手段であり人生の目的ではありません。 

 マルチステージにおいて各ステージで適切な投資を実行すること、これが生涯現役時代・人生100年時代におけるアプローチとなります。とはいえ、何をどうすれば良いか分からない方が多数かと思います。日本は学校教育で「人生」について実践的なことを何も教えていないのが現状です。 

 変化する社会において、お金に困らず・社会に貢献し・健康を維持しながら生涯を全うするために必要な思考を養う機会がありません。基礎学力の観点からは従来の詰込み暗記型の受験勉強も有効ですが、不確実な社会を生き抜く知恵が身に付くかどうかは別です。 

 子供も大人もより「人生」について考える時間が必要です。ライフプランニングやライフマネジメントという単語は存在しますが、正式に学問分野としてライフマネジメントが成立しているかと言えば怪しいです。 

 社会人として一旦社会に出ると忙しさに囚われ、「人生」について立ち止まって考える機会はなかなかありません。日々の中で肉体的にも精神的にも摩耗し、徐々に今置かれている環境に何の疑問も持たなくなります。

 そして長い月日をかけて「ゆでガエル」状態となり、気付いた時には対処の仕様がない状態に陥ることがあります。極端なケースのように見えるかもしれませんが、同質化社会である日本ではよくあるケースかと思います。 

 特に昭和の時代はモデルケースが画一的で同世代を生きる人は皆、似たり寄ったりの人生を歩んでおり、現在ほど社会情勢が逼迫し多様化が進んでいたわけではないのである種の型に嵌った人生を過ごす人が多数でした。(社会人になったら結婚して、車を購入し、持ち家をローンで購入し、子供が生まれたら女性は専業主婦になり、男性は終身雇用で定年まで勤め年金で生活する、というようなストーリーが信じされロールモデルとされていた時代) 

 このような時代では個々人が深く人生について考えなくても流れに乗っかれば何とかなりましたが、現在は若いうちから注意深く戦略的に計画を立てる必要があります。きっと20代の若者も何となく気付いていると思います。“何も手を打たないとどこかの段階で人生摘む”という感覚です。

 しかしながら学校教育ではライフマネジメントについて何も学んでいませんので漠然とした不安を持ちつつ、しかしながらその不安を可視化させ、対応策を検討し、実行プランを作成することが出来ない状況です。 

 ここでの実行プランは経済的なプランを主軸に据えつつも、社会との関り方や自身の健康との向き合い方を含む多様なものとなり、個々人の人生観が反映されたユニークなものとなります。変化の激しい社会において自身がどう生きたいか、これに対する答えをそれぞれが見出す必要があります。 

 学生時代や社会人になりたての頃は金融業界というのは、金で金を儲ける業種であり、(自分も含め)欲深い人種の集まる業界だと感じていました。今でもそのように感じる部分はありますが、10年も勤めると少しずつ考えも変化し、今では「金融は時代と共に生き物のように変化するインフラであり、人生における手段に過ぎず、振り回されるものではなく、個人が制御可能なツール」だと感じています。 

 金融という概念も、そこから派生した「お金(貨幣)」という実態も所詮は手段に過ぎません。ただし極めて重要な手段(ツール)です。しかしながら学校教育はこの重要性とマネジメント方法を十分に伝えてきませんでした。日本人は大人も子供もお金が重要なことは感覚的に理解できても、それを適切にマネジメントする方法を知らないのです。 

 環境に恵まれた一部の方が若くしてお金のマネジメント方法を身に着けますが、多数の社会人は中年・高齢に差し掛かって何らかの問題に直面した際に気付くことになります。この構造を変えない限り生涯現役時代における人生ゲームを生き残ることは困難です。

 現代は過去と異なり明確なロールモデルはありませんし、仮にあったとしても微妙に条件が異なることから進んだ先が落とし穴の可能性もあります。注意深く、自身の環境に応じた適切な選択が必要となります。 

 昨今は年金改革やNISA制度の見直しなど、何かをお金に関する制度が話題となっており、社会人の「金融」に対する関心は高まっています。この関心の一部は金融教育にも繋がることになり、基礎的な金融知識が多くの社会人に広まることになると思います。

 しかしながら、その行動の裏には急速なに変化を続ける社会における「人生不安」が存在します。この人生に対する漠然とした不安を可視化し、適切にマネジメントしない限り根本解決には至りません。そこで必要となるのがライフプランニングとライフマネジメント能力です。それは具体的かつリアルに人生を設計し、設計した人生プランを実行に移す実行力とリスクマネジメント能力です。 

 プロジェクトマネージャーという職種が世の中には存在します。新規事業やシステム開発などの特定のプロジェクトの管理者・調整役です。PMには様々な能力が求められ、制約条件のなかで関係者の利害を調整しつつ、プロジェクト目的を遂行し、全体最適が求められます。

 PMの仕事の対象が自身の人生になったと理解してもらえれば分かりやすいです。人は誰しも自身の人生におけるPMであり、プランニングとアクション次第で如何様にも変化します。人生も資産運用を同じで複利効果が強く働きます。短期では僅かな違いでも10年・20年と経ることで埋めがたい差が生じることがしばしばあります。 

5. LIFE SHIFT×DIE WITH ZERO

 前章ではライフプランニング・ライフマネジメントの必要性に触れました。具体的にどのように行動すべきか参考になるのが「LIFE SHIFT・DIE WITH ZERO」です。

 ライフシフトは数年前に話題になった書籍で、人生100年時代の生き方の多様性について分かりやすく示されております。DIE WITH ZEROはFIREの文脈で捉えるとより考えさせられる書籍で、人生とお金の在り方について深く考えさせられ価値観が揺さぶられる内容となっています。 

 この2つの書籍で示された内容を理解し実践することが生涯現役時代をどう生き抜くかを考えるうえで大変参考になります。書籍の紹介は下記を参考ください。

 お金は世の中の問題の殆どを解決してくれるが万能ではなく、奴隷になることなく主人としてお金と向き合い、人生をより有意義なものにするための示唆を2冊の書籍から得ることができます。

 現状は変化に敏感な一部の方のみ実践している状況です。これは示されている概念は理解できても個々人のケースに落とし込んだ場合のアプローチはそれぞれ異なることから画一的に何をしたらいいかが明確ではないからです。 

 今後、「人生」という最上位に位置する課題に対するアプローチとして、これらの書籍で示されたノウハウ・知見を理解しやすい形で具現化した金融サービスの需要が高まるのではないかと考えています。資産運用は「人生」という問いに対する手段の1つに過ぎませんが、金融業界は検討プロセスをすっ飛ばして手段の提供に走りがちです。本来はなぜ資産運用が必要なのかを深く理解する必要があります、それは自分との対話です。 

 しかしながら金融業者は顧客が自身と対話することはサポートしません、手段としての金融商品を売りつけることに執着します。金融機関の領分を超えるかもしれませんが、今後は金融の必要性を考え顧客の人生における上流過程にも関わることが必要になってくるかもしれません。金融の枠を超えた金融を実現すること、それが「次世代金融」なのではないかと考えます。 

 本ブログでは「次世代金融」をテーマに金融の在り方の考察を行っています。過去の記事は以下を参考ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?