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ランブンの守備的ゲームデザイン~三章:運ゲー、記憶ゲー~

目次
序章 負の経験の排除
一章 プレイヤー負荷
二章 キングメイク
★三章 運ゲー、記憶ゲー
四章 最下位いじめ
五章 ヘイトコントロール
六章 ソロプレイ感と過干渉
七章 協力ゲームでのラジコン

【この章のポイント】
・運と記憶の要素は似た性質を持つ
・2つの要素が強すぎると行動選択の意義が無くなる
・2つの要素には初心者と上級者の実力差を縮める効果がある
・「完全ランダムのプレイヤーが勝てない=実力ゲー」ではない
・どの行動を選択しても報酬が平等ならそれも運ゲーである

閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。
今回は運と記憶の要素について取り上げていきます。この二つの要素は全く別の要素ですが、導入することによる効果が類似しているためまとめて記事にいたします。

それでは本題に入ります。運と記憶の要素は、入れすぎると“負の経験”となってしまいます。何故なら、これらの要素が強いとプレイヤーの行動選択の意義が薄くなり、選択が結果に結びつかない状態になるからです。結果がランダムだからこそ面白いギャンブルや、記憶力そのものを競う神経衰弱系のゲーム、また理不尽な出来事を楽しむパーティーゲームを制作するなら問題ないですが、基本的に行動と結果は目に見える形で結びついている、かつその結びつきに再現性があるゲームシステムが望ましいです。

【補足説明】記憶という要素について

記憶という要素は、以下のような性質を持っています。

・誰にも干渉されず個人で完結する
・覚える対象がどれも同価値の場合、何を覚えているかは時の運である
(例えば『大富豪』と『神経衰弱』。『大富豪』での数字の2と3では価値が異なるため2を優先して覚える必要があるが、『神経衰弱』では同価値のためどちらを覚えるかは時の運である。前者はプレイヤーが覚える優先順位を決めなければならないため多少実力が出るが、後者にはそれがない)

これは運の要素の性質と近しく、ゲームシステムとしては似たような効果を及ぼすと考えることができます。つまり、記憶の要素が強いとゲームが個人で完結し、再現性に乏しく、行動選択の意義が薄くなるといった具合です。(運の要素も同様)

けれども、運と記憶の要素はよい効果をもたらすこともあります。それは

初心者と上級者の実力差を縮める

という効果です。ゲームは勝敗がある以上どうしてもプレイヤー間に実力差が出てしまい、この差が大きいと強い人、弱い人どちらのプレイヤーも楽しくなく“負の経験”となってしまいます。けれども、2つの要素を加えることによりその差を緩和することができます。
例えばあるゲームでA、B二人のプレイヤー間に2点の差があるとします。このままではAの勝率は100%です。そこで、このゲームに「最後にダイスを振り、その目だけ加点する」というルールを加えたとします。すると、Aの勝率は21/36=58%となります。(引分が14%、負けが28%)ここまで運の要素が露骨だと問題ですが、運の要素があることによって実力差があるプレイヤー同士でも勝ったり負けたりする状況を作り出すことができるということです。
これは記憶の要素でも同じようなことが言え、これらの要素を入れることにより初心者と上級者が同じ卓になったとしても、実力差による“負の経験”を受ける可能性を低くすることができます。実力による勝率が緩やかであるということは、初心者参入の敷居が低いということであり様々な層に楽しんでもらえる可能性が高まります。つまり、運と記憶の要素は適度に配分すると恩恵が大きいということです。

さて、ここまで運と記憶の要素は似ている事、そしてその二つは運用によってメリット、デメリットが存在するということを述べてきました。では、具体的にどの程度運や記憶の要素を入れればよいのでしょうか。これは一般化が難しくテストプレイで感覚を確認する他ないと考えられます。そのテストプレイの際に、私は以下のような条件のテスターをゲームに混ぜ勝率や感覚を確認すると良いと考えています。

・行える行動の中から有力な手を2,3個に絞りそこからランダムに選択する
・2,3個の内に明らかに優秀な手がある場合はそれを行う
(感覚ですが「9割の人はこの選択をするだろう」レベル)

完全にランダムな行動を行うテスターを混ぜて確認する方法もありますが、私たちが確認したいのはあくまで「間違い(最善手ではない)を選択しながらどの程度“運”によって勝てるのか」であるためランダム度合いとしては上記の程度で良いと思います。

少し脱線しますが、“運”と“実力”のバランスとして『麻雀』が良い例だと思います。『麻雀』とでは同じプレイヤーと勝負し続けた場合、平均順位2.5位でその中での標準、2.4位で少し強い、2.3位で明らかな強者であると言われています。例えば10回勝負とした場合

【平均順位2.5位】
一位2回 二位3回 三位3回 四位2回

【平均順位2.4位】
一位3回 二位2回 三位3回 四位2回

【平均順位2.3位】
一位3回 二位3回 三位2回 四位2回

といった成績です。上記の成績はあえて近しい順位獲得数で表していますが、平均順位2.5位の人と2.3位の人を比べてもそこまで大きな差がないことが分かります。このような成績が出ることから『麻雀』は“運ゲー”と揶揄されることもあります。けれどもこのような結果になるのは、一番弱いプレイヤーだとしても「有力と思われる2,3個の手から選択」し「明らかに優秀な手ならそれを選択」した場合です。つまり“運ゲー”と言われつつもある程度は各プレイヤーがそれなりの選択を行っているということです。このような状況で全員の勝率が等しくなってしまえば本当に“運ゲー”かもしれません。しかし、実際にはわずかながらでも初心者と上級者では勝率に差が出てくるのが『麻雀』であり、運が大きく絡んでいても最終的には“実力”が評価されるゲームなのです。

つまり

完全ランダムで勝てない≠運ゲー
ではない

ということであり、逆に先に述べた条件で勝率の差が無いゲームでは結局“運ゲー”となってしまうということです。

さて、ここまで“運”という要素を考えてきましたが一つ注意点があります。それは

自身が選択した行動でもただの運ゲーとなってしまうことがある

ということです。具体的には『ジャンケン』がそれに当たります。『ジャンケン』は出す手を自身で決めることができます。しかし、どの手で勝ったとしても報酬は同じであり、グー、チョキ、パーどれを出すにしてもそこに意味はありません。つまり相手がどの手を出すかは同確立であり、そこにプレイヤーの意図は現れません。このような状況が「選択しても運ゲー」の状況です。似たようなゲームで『グリコ』というゲームがあります。これはグーで勝ったら3点、チョキまたはパーで勝ったら6点で既定の点数を集めた人が勝利するというゲームですが、これはそれぞれの手に意図が現れるため自身が選択した行動が結果に結びつきます。このような状況なら勝負の彩はあれ運ゲーではないといえます。このように「どの選択をしても報酬が同じ」という状況下では選択の意図がなく結果“運ゲー”となってしまうということです。制作者としてはどの手を選んでもバランスが取れるように平等に作ろうとしてしまいますが、実際には少し差をつけてあげないと遠回りな『ジャンケン』になってしまうという点に注意が必要かと思われます。

本章はここまでとなります。難しいテーマですがゲーム制作ではほとんどのケースで向き合わなければいけない項目だと思うので少しでも参考にしていただけたらと思います。

次回もよろしくお願いいたします。

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