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ランブンの老害漫画講座~四章:広げる<削る~

目次
序章 制作の原点
一章 制作目標とページ数計算
二章 発案・練り上げ
三章 人物の相関図、物語の相関図
★四章 広げる<削る
五章 プロット作成
六章 ネーム作成
七章 まとめと感想

【この章のポイント】
・読者は情報量0の状態で作品を見る
・“削る”というのはメリットがたくさん
・“削る”作業にもテクニック

前章ではプロット作業に入る前に行った方が良い工程をまとめました。
しかし、実は「主人公の再検討」と「物語の相関図」の後にもう一つ、行わなければならない作業があります。それは

無駄な部分を削り落とす作業

です。前章の工程を行うと、どうしても情報量が過多になります。また前章の方法以外で“ストーリー”や“人物設定”を考えても、ほぼ必ず読者に伝える必要のない要素がでてきます。実はこの「無駄を削る」ができるか否か、またその練度が作品のクオリティを大きく左右します。その理由は無駄が増えると読者が抱える情報負荷が大きくなり、作品の本来の魅力が伝わりにくくなってしまうからです。
制作者は設定の全てを把握している状態で自身の作品の魅力を判断します。設定一つ一つの意味を理解し、その魅力を語ることができます。しかし読者は違います。読者は情報量0の状態から作品の魅力を判断します。その状況で全ての設定の意味を理解するのは困難であり、魅力を理解しづらい設定が存在するだけで読者は読むのが億劫になってしまいます。制作者は「必死に考えたのだから全ての要素が魅力的だ」と考えがちですが、実際には読者にとってノイズになってしまうことが多いのです。「設定を理解できない読者が悪い」と嘆くことはできますが、それではいつまでたっても制作者としてのレベルは上がっていきません。人に見せる作品を作る際はこのことを意識して、なるべく無駄の無い作品を作りましょう。

さて、ここまでは“削る”ことの本質的な意味を書いてきました。ここからは“削る”ことによって付随するメリットについて解説していきます。

・単純に作業量が減る
無駄を削っているので、必然的に全体の作業量は減ります。つまり1ページにかけられる時間が増え、ネームや作画のクオリティが上がります。話のクオリティを上げる作業で作画のクオリティも上げることができるということです。

・話の密度が濃くなる
努力して話を絞るので、内容は当然濃いものになります。内容が濃いということはテンポ感が良いということであり、読者に飽きにくくさせる作用があります。漫画という媒体は「続きを見るかどうかが読者に委ねられている」という性質を持っており、退屈だと思われた時点で続きを読んではもらえません。(逆に映画やドラマは意図的に見ることをやめない限り見続けることになるため、途中ある程度間延びしたとしても挽回できる可能性が高いです)なので、読者に常に面白いと思ってもらうことが大切であり、内容が濃い、テンポ感があるというのは非常に重要なことなのです。(なお、自身に圧倒的な知名度と読者からの信用があり「この作者の作品は面白いはずだから途中つまらなくても最後まで読もう」と思ってもらえる状況なら話は別です。逆に言えばそのような状況にある制作者の作品は参考になりません。)

・文字が減るため漫画としての魅力があがる
無駄な設定を削ると、読者に説明しなければならない事柄も減り結果として文字数が減ります。文字が減れば絵の比率があがり、漫画としての見栄えは良くなります。元々漫画は活字が少ないことが魅力(でなければ小説を書けばいいので)なので文字を減らせることはメリットです。文字を減らし絵で表す、これが理想的であり無駄を減らすとこれを行いやすくなるのです。

では具体的にはどのようにして“削る”を行うのでしょうか。ここからは私が用いてきた“削る”ための方法をまとめていきます。個人によって得意不得意の方法があるとは思いますが、参考にしていただけたらと思います。

・重要な要素以外へのこだわりを捨てる
自身の作品の一番の魅力を見つめなおし、それ以外の要素の変更については目を瞑るようにしましょう。読切漫画において、様々な魅力を作品に込めることは非常に困難です。読者に伝えたいことを1、2個に絞り、それに関係しない要素は削っていきましょう。

・“削る”≒結合・合併
「“削る”のが大事」とは言ったものの、実際にただ要素を捨てていく作業というのは難しいものです。そこでまずは「似ている要素を合わせて圧縮する」という意識を持ち『人物設定』や『『物語の相関図』を見てみましょう。大切なのは「この要素を入れることで読者にどのような情報を与えられるか」という観点で考えることです。似ている要素は無くしたり一つにまとめてみたりして無駄な情報を無くしていくことができるはずです。

・登場人物を減らすと効果的
一章で説明した通り、人物は増えれば増えるほど情報量が膨大になります。なので、話の根幹に関係の無い人物は極力削っていきましょう。「このキャラは一部のキャラクターとしか関係性を持ってないから情報量も少ない」なんてことがあるかもしれませんが、逆に考えればそんなキャラクターは必要が無いことがほとんどです。キャラクター制作は面白く思い入れも多くなりますが自身の作品の魅力を伝えることを優先するのであればそのような判断も必要です。

・順序入替えで圧縮
これは次章でも説明することなのですが、話の順番(描かれる順序)は必ずしも“起承転結”および“時系列順”である必要はありません。むしろある程度並び替えた方が良い場合が多いです。(詳しくは次章で)
この並び替えるというテクニックは“削る”という観点から、特にページ数を減らすのに使う事ができます。これは実際にやってみないと難しいのですが、イメージを持ちやすくするために例題を載せておきます。

例:『走れメロス』の冒頭シーン
〈原作〉
1、メロスの説明(+激怒)
2、メロスが王に捕まる
3、メロスが王に提案
4、セリヌンティウスが人質に
5、メロスが走り始める

〈入替え後〉
1、セリヌンティウスが人質に
タイトル
2、メロスが走っている
3、【回想】メロスが王に捕まる
4、【回想】メロス激怒
5、【回想】メロスが王に提案

箇条書きにすると全く減っていないように見えますが、回想シーンは事細かく場面を描く必要がないのでネームに起こした場合少しずつ削れていきます。(そのほかのメリットは次章)このようにして掲載する順序を入れ替えることによりページ数を削ることができます。

このようなことを行い、少しでも無駄を省いていきます。最初は抵抗のある作業かとは思いますが、作品のクオリティを上げるには必須の作業なので行ってみてください。

本章はここまでとなります。今回の内容は制作のイメージとは少し離れていて、かつ面倒で文章も長いので退屈に感じた方もいらっしゃるかとは思います。しかし、この“削る”ということはどのような制作者も基本的に行っていることで、一番確実に作品のクオリティを上げることのできる作業であることは間違いありません。実は、漫画とボドゲの制作で一番共有できた経験というのはこの“削る”ということです。“削る”を意識し、自身の魅力が伝わるような作品を作っていきましょう。

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