見出し画像

東京グランドキャバレー物語★6 いよいよお席に

「福ちゃん、ちょっと」
ある日私は、華やかで美しい明日香さんに声をかけられた。
私は、明日香さんが大好きだった。女の私でも好きになるぐらいなんだから
世の中の男性達は、ほってはおかないだろう。
 実際、彼女のファンは多く、いつも忙しくあちらの席、こちらの席と動いていた。売れている人ほど動き回る、まるで蝶の様に。
 ここから夜の蝶って言葉が生まれたのかもしれない。

「今日、小谷さんってお客様がいらっしゃるの。お手伝いしてくれる?」
「はい。喜んで」
 私は、明日香さんのお役に立たなければと、まだ慣れない長いドレスを引きずりながら、そのお席に行った。

「初めまして。福と申します」
 小谷さんは名前とは裏腹に、大きなでっぷりとした方だった。
席には、他に二人のベテランホステスが座っている。

「あんた、福って言うんだ。まぁビールでも飲みなさい」
 私は、グラスに注がれたビールを手に持ち、小谷さんと乾杯した。

カチン☆
グラスを合せる響きの良い音がする。
「よろしくお願いします!」
 自分がホステスである事も忘れ、グイっと一気に飲み干した。
「ふぅ~。美味しい!!」
「おぉ!やるねぇ」
 あっ、いけないと、思ったが、すでに時遅し。
大事な明日香さんのお客様なのに、一気飲みしちゃうなんて。
一緒に明日香さんに呼ばれた二人のお姉様に睨らまれた。

「すいません。何だか美味しくて」
 正直に言った。
「まぁ、いいから、いいから。それで、あんたはどこの政党が好きかね?」
 えっ?いきなり?戸惑いながらも無難な政党を答えたつもりであった。
「自民党でしょうか・・」
 すると、小谷さんが
「なにぃ?自民党だとぉ?ふざけるな!酒がまずくなるじゃないか!」
 いきなり怒り出した。

「はぁ、すみません」
 正直に答えてはいけなかったのだろうか?

 「だから女、子供は騙されるんだ! あんな奴が総理大臣なんかやっているから、この国は、ダメになるんだ!どいつもこいつも、自民党だなんて!」
 歯をガチガチしながら、小谷さんは攻撃を始める。
「ではいったい、どちらの党が良いのでしょうか?」
「う~む」
 私は、政治経済の話しを聞くのも意外に好きなのだが。応戦するか?

 小谷氏は、身を乗り出し、福に何か言おうとした、まさにその時、タイミング良く明日香さんが席に戻って来た。
「なぁに?そんな難しい話しなんかしちゃって。新人の福ちゃんが困ってるでしょう」
 急に小谷氏の顔がデレっと赤くなったのを私は、見逃さなかった。
「そうだね、こんな難しい話ししちゃ、ダメだよね。ごめんごめん。この子、福ちゃんだっけ?ビール好きみたいだから、もう一本ビール頼もうかな」
「はいはい」
 明日香さんは、にこやかにボーイを呼んだのだった。

つづく