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連載小説 星のクラフト 1章 #4

 まずは昨年(2022年8月)書いた、物語に関するコラムと引き下ろした物語のリンクを順番通りに貼った。この二つから推敲して製作したものを、その下に掲載する。

「私はその鳥の形に乗って、いつものように青い実の成る樹木が生えている森を飛んでいたの」
 彼女はようやく泣き止んで、偶然が生じた時のことを話し始めた。
「鳥の形というのは?」
 それだけでは具体的なイメージを脳内に描くことは難しい。

 鳥の形。
 胴体から滑らかにつながった首と頭と嘴があり、二本の足と翼を持っていることだろうか。その身体が羽毛と、実に精巧な造詣を持つ羽根に覆われている。彼女はそのように簡略化された記号としての鳥を鳥の形と呼んでいるのか。あるいは、もっと別の鳥らしさについて鳥の形と呼んでいるのか。
 もしも私達が「人間の形」と言った場合、この二足歩行する人類の頭と首と背中、腰、足、腕を一筆書した記号を想定している場合もあるだろうが、それだけでもない。過去に積み重ねられた記憶、血族、知人への特別な執着的感情や道徳的なモラルによって憐れみを持つはずだと期待されるヒューマニズムのようなものを指すこともある。
 だから、彼女が「鳥の形」と言っているものは、鳥らしさ、つまり、自由に飛び回る性質のことかもしれない。
 誰だって、鳥たちが空を飛ぶ姿を見て、鳥は自由でいいなあと思ったことがあるはずだ。「翼をください」もそんな歌ではなかったか。実際には、野鳥たちを観察してみると、縄張り争いや破滅に導かれかねない執着を防ぐためのありとあらゆる本能的な取り決めに縛られていて、それほど自由でもなさそうだが。

「鳥の形って、こういう感じのものよ」
 彼女は両手の人差し指で空中に絵を描いた。はっきりとはわからないが、いわゆる翼のある鳥ではなく、おそらく円盤のようなものだった。
「なるほど。それに乗るのはいつものことだったの」
「そうよ。外出する時にはいつもそれに乗っていた。行先だけをセットすると眠ってたって予定した場所に到着するの」
 得意気に唇を一文字に結ぶ。
「だけど、今回は予定した場所に着かなかった。そういうことだね」
 私が言うと、彼女はこっくりと頷いた。
「私は森の向こうにある湖のほとりで魚釣りをする予定だった。いつも仲間が集まってくるのよ。その日も申し合わせて、私は行先を湖にセットしてから眠った」
「何度も、そうやって行ったことのある場所なんだね」
 私の言葉に、彼女は「そうよ」と言った。
「だけど、目が覚めてみると、その湖には到着していなかったのか。円盤、じゃなくて、えっと、鳥の形も失われていた、ということでいいかな」
「その通りよ」
 話をしているうちに陽はすっかり落ちて、辺りは暗闇に包まれた。
「行く場所もないし、帰る方法もない、ということでいいのかな」
「それ以外に何かある?」
 彼女は目を吊り上げて私を睨んだ。
「あなたの名前は? 私はここではママと呼ばれているけど」
「ママって、お母さんのこと?」
「違うけど、そう呼ばれている。もとの星ではローラン」
 私は正直に言った。
「じゃあ、ローラン。私はローモンド。少し似ているね」
 ローモンドは下瞼にわずかな涙を残しながらも、無邪気な笑顔を見せた。
「ローモンド。ひとまず私の家に来るしかないと思うけど、どうする?」
 私の提案に、また背筋をきゅんと伸ばして、
「ほんとうに? そうさせてもらっていいの」
 見開いた眼はキラキラと輝いていた。
「それ以外になにかいい案は?」
「ないわ」
 ローモンドは顔をぶるぶると大袈裟に横に振り、私の手を取って立ち上がった。「行きましょう。そうさせてもらうわ。ローランの気分が変わらないうちに、さっさと行きましょう」
 こうしてローモンドは私の家に来ることになった。

つづく。

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