映画『グランツーリスモ』の感想書く
はじめに
前回映画の感想を書いたのが『怪物』のそれで、そこからどうやら2ヶ月程間が開いてしまったらしい。
ただその間に映画を一切観ていなかったかと言うとそんな事はなく、直近だと『劇場版 天元突破グレンラガン』をとてもとても涙を流しながら観ていたりした。
余談
いきなり余談かよ! と思うかもしれないが余談。どうでもいい人は飛ばして。
今年ドハマリした『グリッドマンユニバース』もそうだし、先述した『劇場版 天元突破グレンラガン』もそうなのだが、これらはどちらかというと公開される劇場が限定されている作品だった。
自分が今住んでいる所は映画館が割と近く、その地の利を活かして気軽に足を運ぶことが多い。だからこそ、電車なりバスなり車なりの交通機関を(お金を払って)使ってわざわざ映画を観に行くのは、やはりハードルが高いことなのではないかなと。
特に普段映画を観る習慣が無い人が、ちょっと興味がある映画があるからと言って、ただでさえ値上がりした鑑賞料金に加えて交通費を払ってまで映画館に足を運ぶかと言われると、きっとそうではないだろう。
今はサブスク等で気軽に家で映画を楽しむことが出来るし、映画館はこれからも苦難の時代が続くだろう。
ただ個人的な話をすると、普段行かないような映画館に足を運ぶというのはやはり楽しいことである。場所場所によって特性があるし、音響なんかも場所によって案外差があったりして楽しめる。
グランツーリスモ
という訳でここからが本題。この『グランツーリスモ』という映画だが、言うまでもなく、あのレースゲーム『グランツーリスモ』シリーズを元にした作品だ。
自分もこの作品の評判が良いと言うのはちょこちょこ耳にしていたのだが、ふとした事情でこのグランツーリスモというゲームの話をする機会があったので、今回この映画に足を運ぶに至った。
ちなみにグランツーリスモをプレイしたことはない。
実は
さてこの『グランツーリスモ』という作品、なんと実話をベースにしているというのがまず驚きだ。何を隠そう自分もかなり驚いた。
実際のストーリーは以下の通り。
要は「ゲームのプロは実践でも通用するのか?」というお話。
FPSゲームのプロが実際に銃を撃ったらどうなるだろうか、野球ゲームのプロが実際に野球をしたらどうなるだろうか?
仮にゲームの中での腕前が超一流であったとしても、現実で同等の高みまで上り詰める事はほぼ不可能であろう。
ゲームと現実は全くの別物。それはゲーマーであればあるほど実感する事だと思う。
だがその不可能を可能にしてしまったのが今回のヤン・マーデンボローという人物。
(もちろんグランツーリスモというゲームの完成度の高さがそれを支えたのは言うまでもない)
ヤン
今回の主人公であるヤン・マーデンボローは、Wikipediaにもページがある通り、実在する人物である。
ただあくまで「実話に基づいている」だけであって、当然物語の各部には様々に脚色が為されている。とはいえ一回のゲーマーがプロレーサーになった事は紛れもない事実。
ヤンが実際にGTアカデミーで優勝したのは2011年と、今から12年も前の事である。
今でこそ「ゲームで飯を食う」という文化はだいぶ浸透しており、なんなら「プロゲーマー」すら当然のように存在している。
ただ当時は、まだまだゲーマーに対する風当たりが今より遥かに強かったであろう事は想像に難くない。
そんな事を頭に入れながらこの映画を観るとより楽しめるのではないだろうか。
ざっくり全体の感想
全体としては、なんとも優等生な作品だなあという印象だった。
多少のツッコミどころはあるとは言え、ストーリーは分かりやすい伝記モノにまとまっている。本当に定番の成功譚という感じ。
映像は流石の出来で、レース場面の迫力はとんでもなく高いし、ゲームと現実の融合も部分部分でとても高いクオリティで見せつけてくれる。
多分誰が観ても70~80点くらいはポンと付けてしまうのでは無いだろうか、そんな印象がある。
こちらの動画内で撮影風景の一部が紹介されているが、なるほど迫力の映像だった訳だと納得できる。
Dolby Atmos
自分は今回この映画をDolby Atmosで鑑賞したのだが、まさしくそれが当たりだった。なんなら今までのDolby Atmos体験で一番だったと言っても過言ではない。
その一番の要因は「音響の凄まじさ」である。自分が今回最前列のリクライニングシートで観たからというのもあったのかもしれないが、とにかくこの作品は音が自分の身体を(物理的に)震わせてきた。
レースの場面で特にそれが顕著で、時速300km/hを誇るレーシングカーの響き渡らせる重低音が、観ている自分の全身を骨の髄から震わせてきたのだ。
ドライバーがアクセルを踏んでエンジンの回転数が上がっていくに合わせ、自分を包む爆音の振動数も激しさを増していく。
その圧倒的音響のおかげで、映画への没入感が何倍にもなったことは間違いない。手に汗握るとはまさにこの事かと。
レースの場面で身体が常に震えているからこそ、逆に音が止む演出も、より説得力を増してくる。急に音が無くなるという演出は、まあ言ってしまえばありきたりではあると思う。だが今回はその演出がぶっ刺さった。
今までずっと自分の身体を揺らし続けていた音圧が急に無くなってしまい急に宙ぶらりんになって、まるで自分が別世界に迷い込んでしまったのでは、という感覚が襲ってくる。
だからこそ「この世界に、自分とこの車しか存在しない」というプロレーサーだけが辿り着くことの出来る境地を、観客でしか無い自分が垣間見ることができたのだと思う。(ところでだが、ここのセリフで映画『ULTRAMAN(2004)』を思い出した)
もしこの作品を観るなら、Dolby Atmos等の音響強めの環境にする事を強くオススメしたい。もしDolby Atmosじゃなかったら評価二段階くらい落としてたと思う。
事故の話
途中でヤンが露骨に死亡フラグを立てていることに気付いて結構身構えてしまった。(時間はいくらでもあるとか、ウォークマンの使い方教えるよとか)
流石にヤンが死ぬことはなかったが、それでも人が亡くなってしまうという展開には結構衝撃を受けた。完全に事故であるとはいえ、主人公が人の命を奪ってしまうというのは、中々に衝撃である。
しかもなんと、この事故は本当に起きてしまったもの。
ただその事故があったのは2015年である。
ヤンがレースデビューをしたのは2011年。つまりその事故は、ある程度彼が実績を積んでから起きてしまった出来事だったのだ。
ただこの事故をキャリア初期に持ってくることによって、彼の躍進の物語に厚みを持たせようという意図はとてもよく分かる。(この辺りが実話に「基づく」の部分)
YouTubeにその時の事故の映像があったのだが、映画での再現度の高さに血の気が引いてしまった。(動画は閲覧注意)
ただ実際に人が亡くなってしまった事件を、美談のために改変してしまうのはどうなのか? というのは少し思う。
その他細々した話
流石のSony絡みの作品だからか、ウォークマンがキーアイテムとして出てきたのには笑ってしまった。
グランツーリスモが日本で作られたゲーム(だよね?)という事もあって、この作品には日本がちょこちょこ登場する。ここまでコテコテの洋画で日本が登場すると、どうしてもギョッしてしまう部分はある。
新宿や渋谷と言った繁華街ならともかく、いわゆる東京のTHE オフィス街が映ると、他の場面とのミスマッチ具合に笑ってしまう部分があった。
ヤンの彼女役の人はどえらい美人だなと思ったのだが、どうやら現在ヤンは結婚してないらしい。あっ、ふーん。
最後にこの作品内の場面と、それに対応する実際の写真が並べて表示される部分がある。
それによって「確かにこの物語は現実に存在したんだなあ」という実感が湧いてくるのと、この作品の再現率が中々に高い事に唸らされた。ニクい演出。
まとめ
先にも述べたが、本当にシンプルな作品。言ってしまえば「友情・努力・勝利」を体現している。最初は厳しかったコーチがデレデレになるとか、露骨に嫌な悪役がいるのだとか、親父との和解だとか。全てが王道 of 王道。
そういった部分を、ゲームと現実の融合であったり、レースの映像の迫力であったりという部分で非常に上手く肉付けしている。
言ってしまえば非常に分かりやすくスカっとできる映画。だからこそ世間での評判も良いのだと思う。自分も「『グランツーリスモ』観ようと思うんだけどどうかな?」と聞かれたら、面白かったよ! と後押しするだろう。
ただ個人的にめちゃめちゃ刺さったという訳でもなくて、実際2度目を自発的には観に行かないだろうと思う。
自分の中で「同じ映画の2回目を観に行きたくなるか」というのが一つのバロメーターになっているのだけど、今回はそこを越えてこなかった。
別に何かが特別気になったとかそういう事は無くて、逆に特別に刺さる何かが無かったという感じ。あ、でもあの音響はもう一度体験してみても良いかも。
そんな映画。
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