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論文紹介|ヨルダン北東部では14,400年前にパンがつくられていた【JOCV Day213】

パンの起源をめぐる研究を大きく前進させる考古学的証拠が2018年に発見され、米国科学アカデミー紀要 "Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America"に掲載された。

論文はオープンアクセスなので誰でも閲覧可能となっている。

論文タイトルの通り、14,400年前にパンがつくられていたことを示す考古学的証拠がヨルダンの北東部で発見されたという報告である。

世界中の人が食べているであろうパンの起源をめぐる研究報告だったので、多くのメディアが取り上げた。日本語でもロイター通信やGigazineが取り上げている。

パンの跡が発見されたのはヨルダン北東部の "Shubaiqa1" という名のナトゥーフ文化遺跡。狩猟採集の時代であるが、定住生活が営まれていたことを示すいくつかの証拠が見つかっている。その一つが論文にも写真が掲載されている円形の暖炉跡なのだが、その暖炉跡から採集されたサンプルを詳細に調べ上げ、それらのサンプルがパンの跡であることが明らかになった。

パンの起源は農耕の成立と同じ時期だと考えられていたが、今回の調査により、農耕が成立するおよそ4,000年前には人間がパンを作っていたことが示唆された。植物を粉砕して水と混ぜて焼くという食品加工技術を、農耕が成立する以前の狩猟採集民が実践していたことを示す最初の報告である。

パンの跡からは、栽培作物の起源とされるヒトツブムギ "Triticum boeticum" やオオムギ "Hordeum spontaneum"が検出された。これら祖先種は、現在の栽培品種に比べて収量が少なく加工しにくいため、当時は贅沢品などの特別な食品としてパンが作られていたのではないかと研究チームは考察している。

ヨルダンタイムズやドバイの衛星放送局「アル=アラビーヤ」でも取り上げられ、ヨルダンをはじめ中東地域でもニュースになったようだ。

アルアラビーヤの動画にも出て来るように、ヨルダンはじめ中東地域では丸くて平たいパンがメジャーである。四角い食パンやフランスパンのようなパンは売られてはいるものの、ヨルダンの人が食べていることはほとんど見たことが無い。

今回発見された14,400年前のパンの跡に関しても、丸かったかどうかは分からないが、平べったい形をしていたのではないかと考察している。

今度パンを食べる時は、パンの生みの親かもしれないヨルダンの狩猟採集民に思いを馳せることにしよう。

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