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6 使用人達の私生活 (2)

家政婦―ミズリは、屋敷から歩いて10分程の所にある長屋に住んでいる。
この長屋は、家族用、一人暮らし用の2種類の造りとなっている。
ミズリは独身なので、一人暮らし用の長屋の一軒を借りて住んでいる。
玄関を入ると食堂と居間が兼用の空間があり、その奥が寝室とクローゼットになっている。小さな台所に洗面所、そしてトイレとシャワーはあるものの、共同で使える炊事場と洗濯室があり、大きな風呂も隣接されている。
共同部分の清掃は共益費で賄われているので、冬場の大きな風呂は人気がある。
裏庭には洗濯干し場があり、そこには屋根付きのバルコニーもある。
バルコニーには大きなテーブルと沢山の椅子やベンチが置かれている。

この長屋の住人たちの溜まり場がこの場所である。
割合年齢層が高めなこともあり、50歳のミズリは若手の部類となる。
冬以外は話好きな住人たちが集まっては夕食をここで食べる。
世間話や噂話に華を咲かせるのが常である。

お察しの通りミズリはレギュラーメンバー。
編み物や縫い物が趣味であるミズリは、いつも何かしら編んだり縫ったりしながら、この話の輪に加わっている。
手八丁口八丁とはこのことだ。
そして出来上がった作品を仲間たちにプレゼントするのだが、玄人はだしの腕前を持つ腕前を持つミズリの作品は、長屋界隈では専らの評判で、別棟の家族用の長屋の住人達からも、子供用の洋服や小物の注文が引っ切り無しに入る為、なかなかの忙しさであった。
ミズリにとってはこれが副収入源となってもおかしく無いのだが、人の善いミズリは、

「あたしゃ、好きでやってる事だから。」

と言って、材料費を貰うだけで、儲ける事などはなっから頭にないのであった。
それでは申し訳ないと、住人達もあれこれと知恵を使って、あの手この手でお礼をする。
そのせいもあって料理や食材、お菓子の差し入れは引きも切らさずあり、それをまた井戸端会議の席で、他の住人達に振舞うという気前の良さがあったことから、ミズリの事を悪く言うような住人を探すことは難しい事であった。

バーンズ家の第1家政婦とあらば、もう少し住環境が整ったところでも十分暮らしていけるのだが、ミズリはこの長屋が大好きであった。
人のぬくもりが感じられるこの場所が、自分の性に合っている事を誰よりも解っていた。

バカンスの間も実家に1泊するのがやっとで、すぐにこの長屋が恋しくなって帰って来てしまうのであった。


(6 使用人達の私生活 (3) へ続く)


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