セイキマツ_3

絵ができるまで④ 「ぼくらのセイキマツ」装画

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「ぼくらのセイキマツ」の絵ができるまでです。
(理論社、著:伊藤たかみ、デザイン:城所潤+大谷浩介)

あらすじ:
ノストラダムスの予言によれば来年夏には世界が滅亡する。でも中三のぼくらにはその前に受験があるのだった。ゾンビみたいな人形を持ち歩いているナナコ。そのナナコにひそかに惹かれているイッセー、ヒロ。生きてる手応えもないままゆるゆると流れていく時間に抵抗を試みる三人の夏を描く。芥川賞作家久々のYA書き下ろし。

1.きっかけ

前回「かがやけ!虹の架け橋」の装画でお世話になったデザイナーの城所(きどころ)さんが、今度はぜひ小説の表紙をとお声かけくださいました。

2.ラフ

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打ち合わせにて、海の絵にしましょうとなり、僕は水面の映り込みが好きなので、5つのラフのうち3つは映り込みの絵を描きました。これを送ったところ、城所さんも綺麗でいいですねと言ってくださいました。ただ、もしかしたら「キレイな」絵で終わっちゃうかも、と付け足しが。衝撃的な言葉でした。だって今まで絵を描いてきた中で、個人制作にしろ仕事の絵にしろ、基本的には綺麗な絵というものを目指してきたからです。え…キレイなだけじゃだめなのか…?僕の中でのイラストレーションは、キレイ=正義でした。

でも少し考えたら、納得がいきました。いい本って、あまり表紙が主張しないものとか、じんわりと味のあるようなものが多い気がします。ぼくが好きな、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」は、真ん中に小さな絵があって、まわりにシンプルな装飾模様が描いてあるだけですが、それでも宝物のような存在感があります。素敵な本が必ずしも、キレイな、ハッとするようなすごい絵である必要はないのです。

そう思うと、僕はすごくうれしくなりました。城所さんは僕に、「キレイな」イラストの、その先を求めてくれてるんだと思ったからです。最近流行りの、美麗な表紙でジャケ買いさせる本ではなく、絵の雰囲気が物語の内容とピッタリ合っていて、ずっと持っていたくなるような、そういう素敵な本を作ろうよと言ってもらえた気がしたからです。

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さて、そういうこともあって、俯瞰の構図の4が通ります。城所さんが仮でタイトルを配置したものを送ってくださいました。これをもとにもう一度ラフを作ります。

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海の色を変えたものと、雲の影を落としたものを新しく描きました。2,3は思い切って原色のような濃い青にしてみたのですが、小説の内容と比べると少し爽やかすぎるので、1もしくは4,5,6が本命でした。しかし、意外にも2、3が通ります。城所さんいわく、海でも空でも、青すぎると逆説的に悲しくなるというのがあるとのこと。これに関してはシンプルに、ああ確かにそうだなあと思いました。さらに今回は画用紙のような、発色のあまり良くない紙を使うので、そういう点でも2,3が良さそうとのこと。

というわけで、カバーを描き進めていきました。

3.かきこみ

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波の部分はこの絵の重要な部分になるので、PinterestやGoogleでたくさん画像を集めて、描き方のアイデアをもらいます。すごく立体的で迫力のある波や、手作りスムージーのような穏やかな波などいろいろなものがあって、面白いです。今回は、パッと見は平面的でありつつ、よく見ると泡が見えたり、ところどころ砂浜が透けて見えるような、見ごたえのある波を目指しました。

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俯瞰の人物は本当に難しかったです。

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という感じで出来上がりです。

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今回の個人的お気に入りポイントは、このナナコの感じです。

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カバーを取ったところもお気に入り。

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