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辞めずにできる、ことをする―浅生鴨さんインタビュー(後編)

このnoteは、浅生鴨さんのエッセイ集『どこでもない場所』(左右社) 刊行記念インタビュー企画のもと書かれたものの後編です。前編はこちら
*浅生鴨さんのプロフィール、『どこでもない場所』についてはこちら

辞めるということをやらない

―「発注されて、しょうがなしに」とおっしゃいますが、被災地支援など、能動的にされていることもあるような?最近もtwitterで、風疹ワクチン接種の呼びかけをされていたり。

いや、でも風疹も、5年ほど前にNHKで始めた「ストップ風疹!」キャンぺーンに巻き込まれて、CMやポスターを作ったりしていたので、その流れで。他にも、若者の自殺をどうするかという番組にもかかわりました。

―たしか、ハートネットTVですね。

実際に、先天性風疹症候群で耳が聞こえないお子さんとの付き合いも続いています。やるからには、丁寧にちゃんとやりたい。一回こっきりで、はい番組を作りました、放送しました、終わり。というのではなく、本当に先天性風疹症候群になってしまう子どもや、若者の自殺をどうやって減らすかというのは、一回かかわったらやめられない話で。

―はい。

震災ももちろんそうで。たまたま、現地の人たちと一緒に色々やることになったというところから始まって、じゃあ何年経ったからこれで終わりです、ということにはならずに、一回始まったら、とりあえずはやり続けるっていう。

僕は・・・唯一言えるのはそれだけかな。僕は辞めるということをやらないんですよ。始める時に覚悟するので。小説もそうですけど発注を受けたときに、やるって決めたら、必ず書き上げます、と。

―なるほど・・・。

途中で「やっぱり、できませんでした」ということは、絶対に言わない。・・・うん、途中でやめたことはないですね。細々とでもずうっと続けるということ。できなさそうなことは最初からやらない。

楽しいがいちばん

―最後に『伴走者』(講談社、2018年)のお話を。取材の深さがうかがえる、読みごたえのある作品でした。なかなか書き始めなかったとのことですが、納得いくまで取材を?

というよりも、取材していれば、書かずにすむから。2年くらい、編集者から「まだですか」と言われていて、「来月まだ取材が残っていて」と、言い訳のように取材していました。でも、人と会って話を聞くと発見が必ずあるから、やっぱり面白いんですよね。それでついに「もうリオパラリンピックが始まるから、書いてもらわないと困る!」と言われて、しょうがなしに。

―出た、しょうがなしに(笑)。

そこからもう一本書けと言われて、また2年ぐらい、さぼってて。「もうすぐ平昌パラリンピックだから、書いてもらわないと困る!」と言われて、またしょうがなしに、という感じなので。

―(笑)・・・そうなんですね?

すいません(笑)、ひどい・・・ですよね?こうやって話をきくとね。

―(笑)。この部分がとても印象的でした。「涼介が知っているのは晴の日常だけだ。(略)晴に出会う前であれば、視覚障害者にそれぞれ違いがあるなどと考えることもなかっただろう」。人は一人ひとり違う、というごく当たり前のことが、たまに見えなくなってしまう、という。

「冬・スキー編」ですね。

―はい。私の話になりますが、結婚して初めて、同じ夫婦はいないし、子どもと親の関係もそうなんだと気がついて。色々な人がいて、ルールもそれぞれで。でも結局、自分が前向きでいられるかどうかが一番重要なんじゃないかと思ったんです・・・すみません、急に。

(笑)。『伴走者』でも、相手のためと言いながら、自分のためにやることが結果的には相手のためになる、ということが出てきますが、被災地でもいつもそう感じています。自分が楽しいから、面白いから行く、おいしいから食べるっていうのが結果的に現地の人と仲良くなったり、お金をつかったりっていうことにつながればいいんだけど。最初から「あの人たちを助けなきゃ、お金を渡さなきゃ」って思って行くと、自分が楽しくないので続かないですよね、そんなの。楽しいのがいちばん。

―ありがとうございます、そうですね。

と、思います!

―浅生さんもお仕事楽しいですか?

楽しいですよ!

―お。締め切りに追われているけど?

楽しいですよ。苦しいしやりたくないんですけど、書いている最中って本当に没頭するので。別の人生を瞬間的にも体験できるのって物語だけだと思うんですよね。発注されないほうが、いいんだけど・・・でもまあやっていて、楽しい、うん、楽しい?楽しいんだろうなあ。うん。楽しくないと、やっていないと思うので。いやだいやだと言いながら、きっと楽しいんだと思います(手をひざの上でそろえる)。

―(笑)! ありがとうございました。

ほかにも、デビュー作『エビくん』の話や、現在執筆中の『アグニオン』文庫版、働き方をテーマとした新書など、“年単位で”楽しみにしたい今後のお話などもうかがいました。帰り道には足元の雨上がりの地面と、あおいだ青空の両方を撮って、やっぱり励ましていただいたように思ったのでした。

浅生鴨さん、左右社のMさま、ありがとうございました。


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