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手紙とコロナとレトルトカレーの話。⑤

【#手紙とコロナとレトルトカレーの話。】
⑤孤独と忘れられないメールと手紙の話

そもそもこの投稿シリーズは、
①コロナ禍でなにをしていたかの記録
②その中で開発しているレトルトカレーについての開発日誌
の二つを書こうと思って始めたはずなんですが、書きたいことだらけでなかなかレトルトのことまで辿り着けずにおりました。
今回ようやくそのあたりの話を書こうと思います。

昨年のこの時期に、「Letter」というカレーセットを発売しました。
「コロナ禍を乗り越えうるもの」として、昨年の僕は「レトルトカレー」を選びました。
専門のレトルトメーカーや大手の企業には価格や販売力やマンパワーでかないっこないので、無い頭を振り絞って、
「箱の外装にメッセージカードが付けられるレトルトカレーセット」
というものを思いつきました。
「コロナ禍で遠くにいる大切な人に会えなくなった→気持ちを伝えるものが重要になるはず」
という思考から生まれたものです。

「どこにも無いものを作ったし、必ず全国ヒットさせる!」と息巻いて、休み無く全国を飛び回りました。
狂ったように出張を繰り返したのを覚えています。
クラウドファンディングでたくさんのご支援を受け、
色々な方の協力で兵庫県の特産品に選んでもらい、大手百貨店にも置いてもらい、それなりに認知はされましたが、今日まで「コロナ禍を乗り越えた」と胸を張って言える結果には至りませんでした。
「コロナを乗り越えうるもの」として生み出した挑戦なので、そうならなければ大敗北です。
(ちなみに同業の方から「どのくらい儲かってるの?」と聞かれましたが外装等々に相当の額を突っ込んだので利益もあんまり出ていません。そういう意味でも大敗北です)

折りしも、色々な事情が重なって『Letter』はリニューアルをしないといけない状況に追い込まれました。

「コロナがあったからできなかったこと」
「コロナがあったからこそ生まれたもの」
「コロナを乗り越えうるもの」
僕は、『Letter』をそんなものにするために、この数年の経験を全て突っ込んで、さらに改良することにしました。
ある夜、コロナ禍でそれまでと変化したことや変わったものを紙に書き出していると、共通点があることに気がつきます。

この期間僕はずっと、遠くに住んでいる大切な人に手紙付きでカレーを送っていました。

被災地やコロナ病棟にレトルトカレーを寄付したときに、お礼の手紙をもらうことがありました。

時短協力金の対象にならなくてやさぐれていた僕を救ってくれたのは、お客様からいただいた手紙でした。

コロナ禍における自分の転機は、全て「手紙」が関わっています。
コロナが来るまでは、もらうことも書くこともそれほどなかった「手紙」が、ここ数年で圧倒的に自分の中で重要なものになっていました。

僕は、
「『Letter』を本当に手紙の形をしたものにしよう」
と思い立ちました。
これまでも「メッセージ」がキーワードの商品ではあったのですが、より妥協なく「想いが伝わる手紙」というコンセプトを追及することにしました。
箱に付けられる数行のメッセージカードではなく、本当に想いを綴った手紙そのものを入れられるカレー。

仲の良い企業の方から紹介してもらったデザイナーさんに連絡を取り、
「『手紙の形をしたレトルトカレー』を作りたい」
と伝えました。

「コロナ禍があったからこそ作り上げられるものを作りたい」
「コロナ禍で磨り減った人の心を埋められるものを作りたい」

そんな気持ちをメールで送り付けました。
サラリーマンであった僕は、
「ビジネスメールは要件を簡潔につたえるもので、つらつらと個人的な感情をつたえるものではない」と教えられて育ちました。そんなものを送りつけるのはビジネスマナーに反しているとは思いつつ、
商品の根幹に関わるデザインをお願いする人には、単なる依頼された案件ではなく、
僕の全人生、全人格をかけた挑戦に一緒に挑む仲間になって欲しかったのです。

僕はたいそう臆病な性格なので、自分の挑戦は基本的に失敗する可能性が高いと思っているし、自分のアイディアには基本的に自信がありません。

「まだ誰もやったことのない挑戦」
は、
『データや前例が無く、成功するかどうか全くわからない挑戦』
である可能性が高く、

「まだ世に出たことのないもの」
は、
『世に必要とされていないから生まれていないもの』
である可能性が高いからです。

これまでに何度も書いてますがコロナ禍のダメージで店は瀕死。
一歩間違えればなにもかも消し飛びます。

それでもやれるか?
お前のその「いける」という確信は、とんでもない勘違いなんじゃないのか?
挑戦して駄目だった時、その現実を受け止めきれるか?
そんな気持ちがいつもぐるぐるします。

程なく、デザイナーさんからメールが返ってきました。
すぐデザインに取り掛かること。
印刷会社とも既に連絡を取ったこと。
上司と一緒にメールを読んだこと。
最後に、一文が添えられていました。


『この気概が伝わるものを一緒に作りたいと思っております。』


挑戦というものは、基本的には自分1人で決断して、自分1人が背負って、自分1人でその恐怖やプレッシャーと闘うものだと思っています。

だけど、その覚悟を作ってくれるのは、こういう、人からたまにもらえる、一生忘れない言葉だと思います。

次回⑥「個人戦とチーム戦と責任の話」に続く。

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