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私の好きな本


本というものは、人それぞれの心の中にそっと寄り添うものだ。私にとって、本はまるで友人のようなもの。喜びの時も、悲しみの時も、いつもここで、
そばにいてくれるということ。

とくに好きなのは、日常の何気ないとるにたらない瞬間をのがさず丁寧に描写した物語。小さな出来事や感情の揺れ動きを、まるでガッと絵を描くように。それでも、繊細に綴られたものが好き。
その曖昧さが、わたしにとっての心地がよい場所になる。

最近、よく私の好きな本を聞いてもらえるので、
はじめて、好きな本を紹介してみます。

今回紹介するのは

「霧の向こうに住みたい」


『霧の向こうに住みたい』は、とにかく美しくみずみずしいエッセイ。ページをめくるたびに、霧の中に広がっている幻想的な世界につい引き込まれていってしまいそうになるほど、本の特徴である細やかな感情描写と、日常の中に潜む不思議な出来事が絶妙に組み合わさり、読み進めれば進めるほどいつしか自分自身の心の奥底の方を覗いているような気持ちになります。

この物語をざっくり説明すると、現実と夢の境界線が曖昧な場所で進行します。主人公は、日常の忙しさから逃れ、静かな霧の向こうに新たな生活を求める。彼女の心の中にある孤独や希望が、霧の中で少しずつ明らかになっていく。特に印象的なのは、霧がもたらす静けさと、その中で主人公が見つける小さな幸せや、大切な真実。(これは読んで見つけてみてね。)

愛するイタリアのなつかしい家族、友人たち、イタリアという国、違う種類の食べ物、そこで生きる見慣れない人と人、違う言葉、違う習性、思い出、そのすべてを愛おしむようにして、灰色の石畳に常に霧がたちこめているような、その上を歩いてきた須賀敦子さんの希有な人生が凝縮され、その文体の魅力がとてつもなく発揮された言葉が結びついて、繰り返してつくられた文章に触れて、忙しなかった気持ちがそっと心を撫でてくれるような。

でもきっとそんな単純なことではなく、本当に世界は未知で、身近で、楽しい。そんな、本を読む幸せを思い出させてくれるエッセイ。

だから、私は本が好き。ともかく、私の居場所のなかに読むものがありますように。

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