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[戯言戯言日記] オン・ライン

6月18日(金)

 世界に張り巡らされたネットワークを思う。橙白橙、緑白青、青白緑、茶白の茶と覚えたLANケーブル(この順はB配線)がオフィスや家庭を走り回り、光ファイバーや同軸ケーブルで街を駆け巡り、それがどこからかどうにかなって海底を通ってどこか遠いところにつながっている。さらに線のないところを電波が飛び交い、あっちとこっちをつないでいる。使われている設備や仕組みをある程度知っていても、想像することは難しい。地球を包むメロンの模様みたいなネットワークだ。
 このネットワークを介して情報をやり取りすることはあまりにも日常に浸透してもはや意識されない。オンライン〇〇という言葉こそ使われているけれど、実際にその「ライン」を意識する人は少ないだろう。遠く離れた土地に暮らす人と端末越しに対面して会話をする。自分の前にある端末がカメラやマイクを使ってわたしの様子をデータ化し、そのデータが自宅のWi-Fiに乗せられてルータへ送られる。ルータが通信プロトコルに準じた方法でデータを送り出すと張り巡らされた光ファイバーケーブルを通ってわたしの顔や声を符号化したものがネットへと溶けだしていく。その先にも無数の機器がいる。サービスプロバイダのコンピュータたちが膨大なデータを采配している。それぞれのデータを目的の相手へ届けるために仕事をしている。その仕事量は想像を超えている。世界中に置かれた数えきれないほどの機械が、わたしと画面の中の相手をつなぐ。酒を呑みながらどうでもいいような話をすると、そのどうでもいいような話が世界を駆け巡って瞬時に相手に届く。そのどうでもいい情報を届けるために無数の機械が想像を超えた仕事をしている。
 今この瞬間にも、ちょっと想像することさえ難しいほどの顔や声がネット上を流れている。オンライン。まさにどこかの線の上に、情報化された自分が流れている。一瞬とはいえ送信には時間がかかる。送信されてオン・ラインにあるわたしは、今この瞬間のわたしよりわずかに過去のわたしだ。ネットワークを思うとき、わたしは世界がわからなくなる。この世界はいったいどういう形をしているのだろう。ネットワークの存在が世界を得体の知れないものにしているような気がする。

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