[映画]グッド・ウィル・ハンティング
人生を変えた映画とか言ってしまうととたんにその映画も、人生という言葉までも安っぽくなってしまうけれど、もしそういう映画があるとすれば、私にとってそれは『グッド・ウィル・ハンティング』だろう。
この映画は数学に対して天才的な能力を発揮するアウトローが主人公なのだが、天才もアウトローもどうでもいい。
主人公は闇を抱えて屈折してしまっている人物で魅力的だがそれもどうでもいい。
ストーリーは感動的だが最初からわかりきっている。トラウマを抱えた天才をなんとかしたい人がいて奮闘する。最後には彼が心を開いてハッピーエンド。そんなものもどうでもいい。
マット・デイモン演じるこの主人公と、彼をみることになるロビン・ウィリアムス演じる心理学者の心の交流を実に美しく描いている。しかしそれすらも、どうでもいいのだ。
ストーリー、キャラクタ、俳優。何もかもが素晴らしく、とても高いレベルで融合した稀有な作品だが、そうであってもいずれ色褪せるときがくる。この作品にはそういう素晴らしい魅力を全部取り除いてもまだ、残る力がある。それゆえ、まったく色褪せずに残り続けている。そういう作品にはきっと、生涯にそう何本も出会うわけではなかろう。
この作品には言葉が詰まっている。迷ったとき、悩んだとき、自分を支えてくれることになるような言葉が、そこかしこに詰まっているのだ。見るたびに違った響き方をする。
人生に迷うことは、いくらでもある。自分がいったい何をしたいのか見えなくなることが、ある。愛する人との関係を恐れてしまうことが、ある。大切な友が誰なのか見失うことが、ある。そんなとき、きっと突き刺さる言葉がこの映画の中にある。
私はこの作品で、マット・デイモンでもロビン・ウィリアムスでもなく、ベン・アフレックの芝居がとても好きだ。中盤で、ショーン(ロビン・ウィリアムス)がウィル(マット・デイモン)に、チャック(ベン・アフレック)はウィルの親友ではなく家族だ、と言うシーンがある。「おまえに親友はいるか」と問われたウィルが「チャック」と答えたのに返した言葉だ。
このシーンでは、チャックはきっとウィルの家族のようなものだったろう。だがこの少しあとのシーンで、チャックはウィルを目覚めさせるような言葉を放つ。そのとき、きっとチャックはウィルの親友になった。
ラストのチャックの芝居がいい。なんてことはないシーンなのに、私は毎回、ラストシークエンスでのチャックの芝居に、ドアの前でニヤっとする芝居に、身体のどこか底の方をひっくり返されたみたいになって涙が溢れる。その前にもっと感動的なシーンがいくつもあるのに、いつも涙が溢れるのは最後のチャックの芝居なのだ。ベン・アフレック、いい俳優だなぁと毎回思う。
この作品はマット・デイモンが脚本を書いていて、アカデミー賞等で脚本賞を受賞している。そのぐらい脚本が素晴らしい。そこにちりばめられた言葉が、本当に素晴らしい。そうやって積み上げてきた言葉たちが、最後のベン・アフレックの芝居で堰を切って溢れ出るのだ。
人生最高の一本を選べと言われたらきっと私は一本に絞ることができないだろう。しかしいつ聞かれても、きっとこの作品は挙げる。これは私にとってそういう大切な一本なのだ。
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