[映画]タクシードライバー

 今夜のU-NEXTは『タクシードライバー』。1976年の作品。マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演。巨匠による歴史的名作と言っていいだろう。

 不眠症の男がタクシー運転手の職を得る。勤務態度良好。芯の通ったまっすぐな男だ。ただ、少々ズレている。

 大統領候補の選挙事務所で働く女性を街で見かけ、一目惚れする。日々、事務所の外にタクシーを停めて見つめる。明らかに怪しい。ある日ついに乗り込んでって、「お茶でもしませんか」と声をかける。「じゃ、あとで」ってなる?普通。

 どうなんですかこれ。当時、1976年ごろ、こういう感じ?今だと一発で通報ものかと思うような話から、じゃぁデートしますかという話に展開する。おぉ、うまく行ったじゃん、と。

 ところが。ところがだよトラヴィス。トラヴィスってのはこの主人公のタクシー運転手のことだ。おまえだトラヴィス。うまいことお茶して、今度は映画にでも、ってイイ感じの流れじゃないか。なんで。なんで選んだ映画がポルノなんだ。

 もちろん、このポルノデートによって最悪の雰囲気で玉砕し、電話にも出てくれないという状態になる。そりゃ、そうだろ…トラヴィス。

 そしてこの一件から、この男は次第に狂い始める。いや、初めて二人で見る映画にポルノを選ぶ時点でだいぶまずいことになっているわけだが、わずかに狂気を秘めていた男が、次第に狂気に飲み込まれていく。これがもう、すさまじい。この作品の見どころはまさにこれなのだ。まっとうな人物に見える男が次第に狂気に飲まれていく。その狂気は最初から、わずかににじみ出ていた。それが次第に表面に出てきて、少しずつ様子がおかしくなる。このロバート・デ・ニーロの芝居はちょっと驚異的と言っていい。

 余談になるが、この作品の二年後に、デ・ニーロは『ディア・ハンター』で驚異的な芝居を披露することになる。その萌芽はこの作品でも感じることができる。

 主演のデ・ニーロがとんでもない芝居を見せているだけにとどまらず、この作品にはもう一つ強烈な存在が光っている。それが当時13歳のジョディ・フォスター。ジョディ・フォスターは当時13歳で、なんと12歳半の娼婦という役どころを演じている。いろいろ危険すぎて何も言えなくなりそうだが、この衝撃は他にはなかなかあるまい。重要だから何度も言うが、ここに出てくるジョディ・フォスターは13歳だ。

 13歳のハローワークという本があるけれど、そこに「娼婦」という職業は載っていないはずだ。女優とはいえ13歳の少女に娼婦の役をやらせるキワドさはスクリーンに大変な緊張を与える。彼女の存在は完全に入れすぎたスパイスで、もともと結構な強さの味付けがされていた料理をなんだかわからないものにする力がある。

 一言でいうならこれはヤバい映画で、二言ならいろいろとヤバい映画だ。

 ラストはいったいなんなんだ。この作品は何度か見ているのだけれど、ラストシーンはわからない。ストーリーは何も難しくなく、何が起こってどうなったのかはよくわかる。問題は、なぜそのラストシーンをつけたのか、だ。それがわからない。スコセッシ監督はこのラストで何を感じさせようとしたのだろう。

 わたしはそこはかとない恐怖を感じる。それが監督の意図したものなのかどうかが、わたしにはわからない。もちろんわたしは観客だからそんなことはわからなくたっていい。この作品の、どこか意識の底の方にひんやりと広がる後味を楽しんでおけばいい。

 わたしにはこのラストシーンをつけるという発想はないだろう。この映画を見た後ですら、このラストシーンは書けないだろうと思う。そしてそのことをわたしは悔しいと思っているのか、それもよくわからないのだ。

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