東南アジアにおける再生可能エネルギーのゆくえ

近年、飛躍的な経済成長を遂げたASEANの主要5ヶ国である、インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム。この急激な経済成長に伴って各国のエネルギー需要も急拡大し、再生可能エネルギーへの関心が高まっています。 今後も大きく成長していく可能性のある東南アジアの中で、インドネシア、タイ、フィリピン各国の電力事情と、再生可能エネルギーの現状をレポートします。

「インドネシアの電力事情と再生可能エネルギー」

インドネシアは太平洋とインド洋との間にあり、13,466島と世界最大の群島を擁しているが、これによって電力の供給手段と発電コストが地域ごとに違うということが大きな課題です。ASEAN諸国の中でも最も電力エネルギーを消費する国と言われており、2017年時点での発電設備容量は60,793MW、発電実績は2,546億KWHです。インドネシアの電力セクターの事業者としては、 PLN: PERUSAHAAN LISTRIK NEGARA (国営の電力公社)がありますが、2007年から2017年の10年間で、インドネシアの発電設備容量は30,853MWから約2倍に増加しています。
電力ソースの割合は石炭54.69%、ガス25.89%、石油6.97%、水力7.88%、地熱4.33%、その他再生可能エネルギー0.24%(2016年)。現在インドネシアでは石炭の比率が高まっており、2009年の39%から2016年には54.69%に増加している。対して再生可能エネルギーについては、2009年の11%から2016年には12.45%と微増にとどまっているが、インドネシア政府は国家エネルギー政策において2025 年までに国内における一次エネルギー供給構成の割合として、石油を 49%から22%以下へ低減させる目標を設定しています。同時に天然ガスを20%から22%、石炭を24%から32%、再生可能エネルギーを6%から23%へそれぞれ増加させるとしています。
インドネシアの固定買取制度は2017年に大幅な見直しが行われ、再生可能エネルギーの発電所が開発される地域での電気の供給価格に基づいた上限をFITに与えるシステムとなりました。これは、前述のインドネシアの地理的条件によるものであり、発電コストが地域や島によって異なり、発電・供給にとって課題となっていたことに由来しています。
主な再生可能エネルギーごとのポテンシャルですが、水力発電の潜在資源量は約 75GWと推計されています。カリマンタンや、スマトラ、スラウェシ等大きい島では豊富な水力資源が分布される。地熱資源量は29,544MWと推計されますが、確認資源量は2,200MWに留まり、バイオマス資源量は約32,654MW であると推計されています。
太陽光について平均日射量は全国平均で4.8KWH/M2/日であると推計され、2015年末までインドネシアにおける太陽光発電の導入量は14.2MWに達しています。 離島や遠隔地域では、太陽光発電がディーゼル発電より経済性があるものの、太陽光発電の初期費用はディーゼル発電機より高額で、それを負担できるような資金調達スキームを整える必要があります。
インドネシア国営電力会社が進めている再生可能エネルギー投資案件は17件あり、水力発電所と地熱発電所が多数を占める。JICAは水力発電所3件、地熱発電所3件の融資元となっています。再生可能エネルギー発電の導入量は、資源ポテンシャルによる制約されるほか、電力需要市場の規模や、電力系統整備の状況、既存の電源構成再生可能エネルギー促進政策等にも影響されます。このような制約もあり、現時点ではインドネシアにおける水力発電と地熱発電に対する投資が集中している状況にあります。

タイの電力事情と再生可能エネルギー

タイは、長年に渡ってアジアの中でも外国直接投資の呼び込みによる経済成長が最も成功した国と言えますが、近年のタイ政府は、枯渇が危ぶまれる天然ガスへの依存度を下げるための対策など、効率的なエネルギーミックスの実現に向けて動き始めおり、タイの電力業界は激しい変化の只中にあります。18年12月時点の発電設備容量は43,372.50MW、発電実績は15,121.12百万kwh。タイ政府によると電力需要の伸びは、2015年~36年で年平均2.7%増加が見込まれている。電力ソースの割合はそれぞれ石炭54.69%、ガス25.89%、石油6.97%、水力7.88%、地熱4.33%、その他再生可能エネルギーは0.24%となっています(2016年)。割合は、2004年以降から天然ガスの割合が高い傾向にありましたが、2004年に70.8%であった数値が、2018年(11ヵ月)時点では57%へ縮小しています。対して電力輸入(13.2%)と再生可能エネルギー(8.6%)に拡大傾向が見られます。
タイの電力セクターのプレイヤーとしては、National Energy Policy Council(国家エネルギー政策委員会)、Energy Regulatory Commission (エネルギー委員会)、Electricity Generating Authority of Thailand (タイ電力公社)などがあります。
タイ固定価格買取制度は15年に内容が改定、太陽光と極小発電事業者に分類。極小発電事業者は、17年以降固定価格のFiTFとコアインフレ率で上昇するFiTVで算出されるシステムとなりました。
2014年末のタイ政府発表の代替エネルギー開発計画2015で、発電エネルギーの約6割を天然ガスに依存を改めるべく脱天然ガスの方針を掲げ、また2036年迄に再生可能エネルギーを36%とすることを目標としました。再生可能エネルギーで最も注力しているのが太陽光と風力で9,002MW、次いでバイオエネルギーが7,400MWで、再生可能エネルギー設備容量は、2012年の5,692.6MWから2036年には約3.5倍となる19,684MWを目標としています。目標達成には太陽光とバイオマス、風 力がけん引役となっている。再生可能エネルギーのポテンシャルについては、地熱資源はチェンライ、チェンマイ、メーホンソン、ラノン、スラタニに112の温泉があり、地熱発電に使える可能性がある。バイオマス潜在量は16,812.88ktoe(2012年)あり、風力は、ナコンシータマラート、ソンクラー、パッタニーのタイ沿岸地域、ペッチャブリー、ドイインタノンでポテンシャルがあり、地上50m付近で平均風速6.4m/秒。太陽光は東北タイのウボンタニの南部と北部、中部地域の中部エリアでポテンシャルがあります。合計で国土の14.3%となりエリア内での平均日照時間は 19 – 20 MJ/m2–日(その他の通常エリアでは18 – 19 MJ/m2–日)。
タイ投資委員会支援の再生エネルギー案件は、2015年に845プラント、2016年93プラント。件数では、2015年の太陽光案件がソーラーファームとソーラールーフトップを合わせて392件(1,505MW)で最多、容量ではバイオマスが同年で2,793MWで最も高い数字となっています。

フィリピンの電力事情と再生可能エネルギー

2009年から2014年の期間中、フィリピンのGDP成長率はリーマンショックの影響から2009年に1.2%と大きく落ち込んだ。それに伴い同年の電力需要も前年比で-13.9%と大きく落ち込んでいます。
全体的に見て、フィリピンの電力需要はGDP成長率と同様の動きを見せているようです。
フィリピンの電力需要は年々増加、2017年の総ピーク需要は13,789MWを記録し、2016年の13,272MWから3.9%上昇した。そのうち家庭向け4.5%、商業向け4.6%、工業向け6.0%の上昇でした。エリア別の上昇率は、ルソンで3.4%、ヴィサヤ4.3%、ミンダナオ6.5%である。また、電力ソースの割合を見てみると、で石炭50%、天然ガス22%、石油4%、地熱11%、その他再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光、バイオマス)14%。(2017年)となっています。
1990年代は石油への依存が大きかったフィリピンであるが、フィリピンの発電ソース傾向を見ていくと、2009年以降から石炭の割合が大きく増加しており、2017年には全体の49.6%を占める46,847GWhとなり、近年は石炭の比率が多く高まっています。
フィリピンでは、1990年代より再生可能エネルギーである水力発電と地熱発電が一定量を発電していたものの、近年においてその発電量はあまり大きく増加していない。2009年における再生可能エネルギーは全体の33.4%であったが、2017年には24.6%へ縮小している。地熱発電と水力発電がけん引しており、2017年時点でこれらが再生可能エネルギー全体の85.7%を占めています。また、地域別再生可能エネルギー発電量を見ると、ルソンが全体の50.2%を占めており、ヴィサヤ29.7%、ミンダナオ20.1%となっている。地熱発電はヴィサヤ、水力発電と風力発電はルソンが高い傾向にある。
フィリピンでは、2010年比で再生可能エネルギー設備容量を2030年までに3倍へ引き上げる目標を設定している。項目別では、水力発電が5.4GW追加、風力発電2.3GW追加、地熱発電1.5GW追加とされており、重点化されている。フィリピンエネルギー省のロードマップによると、2016年~2040年の期間中で最も高い設備容量を目指しているのが水力発電であり、特にルソンは7,358.86MWと全体の77.3%を占めています。また、2016年~2020年の期間中は、風力発電が1,476MWと最も高い設備容量目標となっています。
電力セクターへの投資インセンティブとして、電力生産者としての新再生可能エネルギー(適用範囲は新エネルギーである水素、CBM、石炭液化、ガス化石炭)、再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力、海洋エネルギー)への投資において所得控除を得られます。また、パイオニア業界として定義された対象業種に新たな資本投資を行う企業は、法人所得税100%免税の対象となります。
フィリピンは国家再生可能エネルギー計画において2030年に太陽光発電で1,528MWという目標を設定しているが、同国はそれを上回る潜在性を有しています。また、2017年にフィリピンエネルギー省は太陽光に国内電力の25%を供給する潜在能力があると発表している。フィリピンは早い時期から地熱発電を導入してきたが、近年は新規開発が停滞している一方で、ルソン、ヴィサヤ、ミンダナオの各地域の地理的特性を活かした再生可能エネルギーが開発されており、風力、太陽光、バイオマスのいずれも増加しています。

再生可能エネルギーのゆくえ

現在、活況を呈する東南アジアでは経済の急激な成長に電力供給が追いつかず、深刻な電力不足の状況が続いている。前述した各国政府は再生可能エネルギー設備容量を引き上げる目標を掲げ、将来の安定した電力を供給するためのロードマップを描いています。エネルギーミックスの最適解は国ごとの環境と資源の状況よりそれぞれ異なりますが、いかにポテンシャルの高い再生可能なエネルギー資源を見いだし、既存のエネルギーとのバランスと移行のタイミングをはかりながら、効率的にミックスさせていくかに関わってくると思います。今後もアジア各国の施策に注目していきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?