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てんぐの銀英伝考察:「自由惑星同盟」成立経緯推論

最近てんぐのTLに、なかなか興味深いツィートが流れてきました。

後に自由惑星同盟が成立するサジタリウス腕宙域には、ハイネセンたち「長征」グループが到達する以前に帝国から逃れて新天地を築いていた「先住民」がいたのではないか。そして「長征」グループは、彼らを征服し服属させることで同盟を建国したのではないか、というものです。

というわけで、今回のてんぐの銀英伝考察は、「自由惑星同盟」成立の経緯についてのものです。

帝国=オリオン腕宙域側の事情

帝国本土=オリオン腕宙域の総人口は最盛期の3000億人を数えていました。しかし、ルドルフ台頭後の劣悪遺伝子排除法施行、帝国議会の永久解散と共和派の弾圧、地方貴族の叛乱とその鎮定などで人口は激減し、本伝期は250億人(同盟およびフェザーンと合わせても400億人)にまで低下しました。

しかし、いくら何でも人口減少の幅が大きすぎることから、銀英クラスタの間では「農奴階級は計算に入ってないんじゃないか」という声もあがっていました。(個人的には、農奴階級は「貴族の資産」と見なされてるので、帝国中央政府はかなり厳密に把握したがるんじゃないかと考えてますが)

その一方で「ハイネセンたち以前に帝国の追跡を逃れて新天地に到達した者たちがいたんじゃないか」という「サジタリウス腕宙域先住民」説も根強く語られていました。実際原作にも、帝国の支配領域から脱出を図ろうとした共和主義者たちがいたことは言及されています。無論、彼らの試みは社会秩序維持局など治安当局の追跡により失敗したとされていますが、帝国勃興からの間に、密かに成功していたものがいなかったとは断言できません。事実、アルタイル星系から脱走したまま消息を絶った農奴たちのことを、帝国政府は回廊内で戦艦同士の遭遇に至るまで忘却していました。

帝国の歴史を振り返ると、その統治は常に盤石だったわけでなく、暴君や暗君の治世で銀河中が大混乱に陥ったこともあります。

そうでなくても銀河は広大であり、治安当局の目が行き届かないこと(そして逃走を許した担当者が記録を誤魔化すことも)も多かったでしょう。

そんな支配社会の間隙を突くようにして、新天地を見出していた者たちが、ハイネセンたち以前に存在していた可能性は、充分にあるでしょう。

サジタリウス腕宙域側の事情

一方、同盟は成立から100年程度で25,000隻の迎撃艦隊を最前線のダゴン星域に投入できたことから推定して、この時点で数億人程度の人口を確保していた事がうかがえます。

しかし、アルタイル星系を脱出した40万人のうち生きて新天地に到達しえた16万人を第一世代とし、半世紀の探索航海のうちに世代を重ねて人口は増加し、さらに新天地で「多産が奨励された」としても、これほど急ピッチの人口増加は確かに不自然です。また、人跡未踏の地である新天地に到達した彼らが、短期間に星間社会水準の都市環境や軍民双方の艦船建造技術をどうやって整えたか、という疑問もあります。

サジタリウス腕宙域には、前述の経緯で既に先住民が到達していたという「サジタリウス腕宙域先住民」説に従えば、それらの疑問はすべて解消されます。しかし、「先住民征服」説については疑問が残ります。

もし仮に長征グループが先住民を「征服」していったとしたら、サジタリウス腕宙域国家の国名は「同盟」でなく「ハイネセン共和国」となったのではないでしょうか。実際、長征グループの最長老となったグエン・キム・ホアは、いわゆる「距離の防壁」論を説く際に「自分たちの国」を「同盟」でなく「共和国」と呼んでいます。ここからも、長征成功の段階から「自由惑星同盟」という国名が同志たちの間で構想されていたわけではなかった事がうかがえます。

そもそも、ルドルフに廃された宇宙暦を復活させながら、なぜ銀河連邦の復興をサジタリウス腕宙域は宣言しなかったのかなぜ「同盟」という国名としてはやや抽象的な印象を与える名称を採用したのか。そして、半世紀の冒険航海を乗り越えた長征グループに先住民社会全てを「征服」するような武力が存在したのか

そこから推測していくと、長征グループがサジタリウス腕宙域到達および惑星ハイネセン発見後に行ったのは、「征服」ではなく「糾合」だったのではないでしょうか。

「自由惑星同盟」の成立

サジタリウス腕宙域の「先住民」たちも、楽園を形成していたわけでなく、それぞれの利害関係や歴史的な経緯から紛争が起こっていても不思議はありません。

その「先住民」社会に乗り込んだ長征グループは、彼らが知り得なかったオリオン腕宙域の「最新の情報(といっても回廊探索開始以前なので数十年は昔の情報のはずですが)とともに、「いつか必ず帝国はこのサジタリウス腕宙域にも侵略の手を伸ばしてくる。それを阻むためには、我々自由の民は大同団結しなくてはならない」と呼びかけたのではないでしょうか。

その結果たどり着いたのが、銀河連邦という単一星間国家の復興ではなく、「自由の民の住む自由な諸惑星の軍事的・経済的な同盟」、すなわち「自由惑星同盟」成立の経緯だった。てんぐはそう考えます。

しかし、それでもなお「同盟」に加わることを拒否する「先住民」も存在していても不思議はありません。

彼らのうち武装闘争を選んだグループは同盟軍の公式記録には「宇宙海賊」と記され、リン・パオら「古き良き時代」世代の同盟軍人が挙げてきた武勲の何割かはその制圧を指すと思われます。(その他には未知の航路や惑星開拓などもありそうです)

また、サジタリウス腕宙域の「糾合」に成功した長征グループも、自分たち自身の指導力や求心力を高める欲が生じ、その結果ハイネセン像の建立や「長征一万光年」という「建国神話」のプロパガンダ化に至るようになってしまった、とも考えられます。

本稿のまとめと参考資料

自由惑星同盟は帝国と比べて人種的にも文化的にも多様性があり、(類似点が多いとされていますが)帝国公用語とは異なる公用語も誕生しています。

この特徴がなぜ生まれたか、という疑問に対して「サジタリウス腕宙域先住民」説は説得力のある回答案を提示してくれました。こういう考察ができるから、銀英クラスタはやめられないんだよね。

さて、銀英伝を中国史になぞられるなら、同盟は三国志の蜀より魏晋南北朝の南朝、特に東晋に近いと思われます。

晋の皇族を擁して江南に亡命した琅琊の王氏ら北来貴族たちが、土着豪族や避難民集団のパワーバランスを取りつつ政治工作を重ねて政権を取っていく様子は、「サジタリウス腕宙域先住民」説の参考になるかと思います。

というわけで魏晋南北朝についても解説されてる本を何冊か紹介いたします。

こちらの本も読みごたえありますので、是非お読みください。

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