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読書メモ:The Laundry List: The ACoA Expereince

The Laundry List: The ACoA Expereince
Tony A./著

ACoA(アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリックス)の創始者トニー・Aが、自身の問題と回復、ACoA共同体の始まり、その12ステップの解説やミーティングやグループの運営について書いた本。

本書を読んでいて、最も強い印象を受けたのは vulnerable(バルネラブル)という言葉を明らかにポジティブな意味で使っていることだ。バルネラブルは、脆弱だとか、傷つきやすさ、というネガティブな意味に訳されていることが多いが、彼の言いたいことを表すにはもっとプラスの意味を持った訳語が必要だろう。

アダルトチルドレン(AC)は、子どもの頃に過酷な環境に置かれる。当然たくさん傷つく体験をする。そこで、自分が傷つかないための何らかの防御手段を身に付けることになる。ところが、この防御が、親密な人間関係を築いたり、他者を信頼することを妨げてしまうのだ。なぜなら、そうしたものを獲得するには自分が傷つく体験は避けて通ることができないものだからだ。

過剰な防御が身についてしまうと、自分が傷つく選択は避けるようになってしまう。実際に自分が傷ついたときには、それを過度に深刻に捉えてしまうし、誰かを傷つける他者の言動を非難する気持ちを持つようになる。傷つかない、傷つけないことが最も重要なことになってしまうのだ。だから「心の平安(serenity)」という言葉に強く惹きつけられたりする。

子どもというのは本来傷つきやすいものであり、傷つきながら成長していくのである。過剰な防御によって傷付きを避けてしまうと――それは環境ゆえにやむを得ない選択だったのだが――成長する機会も失われてしまう。それが大人として生きる辛さをもたらすのである。

だからトニーは be vulnerable と呼びかけるのだ。ここではとりあえず「無防備であれ」と訳すことにしよう。過剰な防御を取り払い、本来の傷つきやすさを取り戻すのだ。たくさん傷つく経験をしながら、親密な関係を構築したり、人を信頼することを憶えたりして、大人として生きるために必要なものを身に付けていく。そのための環境をACoAのグループは提供してくれる。

子どもに限らず、人間はそもそも脆弱なのであり、大人であっても日々傷つきながら生きている。そのことをネガティブに捉えず、むしろ人生に必要なものとしてポジティブに捉えるべきだ、とトニーは言いたいのだろう。少なくとも、自分が傷つくことを避けて回復することなどできないのは確かである。

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