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何故私は短期投資で失敗したのか【米国株式投資】

今でこそ長期投資を志す私だが、投資家の卵の頃は右も左もわからずネットや本に載っている様々な戦略を一人で試していた。
スキャルピング、デイトレード、スイングトレードといった手法は投資に興味を持ったことがある人なら一度は耳にしたことがあるだろう。素人が投資と聞いてイメージする、株価チャートを映すモニターを5枚も6枚も設置しているSFチックでカッコいい部屋はこれら手法を専門にする人のスタイルである。投資を始めて半年やそこらで数千万円を稼いだ主婦や学生のニュースが取り上げられたり、日本の著名な投資家による啓蒙活動も手伝って新規に投資を始めようという人がまず手を付けるのがこういった手法ではないだろうか。私も例に漏れず、投資を始めて間もなく短期投資に染まりほぼ1年を座学と実践に費やした。ここでは私が損失を出して泣く泣く撤退したときに感じていたことを思い出しながら綴ろうと思う。

チャート分析の仕組みについて考える

端的に言えば、組み立てた私の論理は以下のようなものであった。
例えば、ある銘柄について1分後に株価が上昇しているか、下落しているかを予測するのは経験的に不可能である。これは10分でも1時間でも同じで、これらのような短期の時間軸では株価の上下は完全にランダムと言っても良い。なので、短期の時間軸において全くその銘柄の情報を得ずに株式を売買することは、コインを投げて裏か表かを当てることと等しい。

ギャンブラーの破産問題をご存じだろうか。ギャンブラーと資金が豊富な胴元が勝つ確率がそれぞれ50%のゲームを続けていくと、掛け金の大きさに依らず最終的に必ず資金力で劣るギャンブラー側が破産するという数学のトピックである。

短期投資に使われるチャート分析手法は、言うなれば統計的に株価チャートに表れやすい幾何学模様のパターンを、ある銘柄が作り出している直近のチャートの形に適用することで将来の株価の上昇または下落を予測し、勝率を50%から高めようとするものである。

このように考えると一見シンプルで勝ちやすいようにも思える。
しかし、一体それの何がいけないのだろうか?
どこに失敗する要因があったのだろうか?

チャート分析の弱点についての考察

例として短期投資で使われるチャート分析の一種としてダブルボトムと呼ばれる形を挙げてみる。
ダブルボトムがチャートに表れた際、図のネックラインを突破すればダブルボトムの深さ分株価が上昇する形が頻繁に現れるというものだ。

しかし、下図の2で示すように利確ポイントに届かなかった場合や、3のようにネックラインではじかれてしまった場合など失敗と思われるシチュエーションについてどう評価すれば良いだろうか?

ここでチャート分析の弱点の一つに、失敗の原因が掴みにくいことが挙げられる。
ダブルボトムが成立すると見せかけて大口の投資家が振るい落としたのか、ダブルボトムの形が悪く多くの投資家がパターンを意識していなかったのか、その銘柄に悪材料が見つかったのか、あり得そうな理由はいくつも挙げられるが確実にはっきりこれと判ることは稀である。

チャート分析手法では上記のために原因と思われることに対して対策を講じることさえ難しくなる。損切ラインを引き下げるのか、では何%下げるのか、見るチャートの時間軸を変えるのか、利食いにかける時間を増やすのか減らすのか、取引ボリュームやRSIを売買の基準に加えるのか、しかし明確にどの対策に効果があるのかその場で判断することができない。

明確に対策の効果がわからない以上はその取引パターンが上手くいくかを統計的に確認しなければならない。
手法を変えて最初のうちは上手くいっているようでも果たして本当に成功なのか?一体その取引パターンはどれほどの期待値であるのか?
つまりは試行回数を稼いで確率の偏りを排除する必要がある。数十回程度の試行回数では事足りないだろう。これにはかなりの手間もコストも要する、チャート分析型の弱点である。

投資家を襲う確率のブレと取引手数料
上記でも触れたように、短期的にはコインの裏表の確率は50:50から大きくブレることがあり得る。そのためいくら優秀な取引パターンを編み出したとしても、この確率のブレの存在で一時的に大損を出す可能性がある。更に上手くいっていない原因がこのブレによるものだと判別できないのだから余計に質が悪い。多くの短期投資を志した人達が統計的に十分な試行回数を稼ぐことができず、せっかく編み出した取引パターンが日の目を浴びる前に市場からの退場を余儀なくされるという仮定の話は大いにあり得る。
まして現実には大量の取引を行う必要のある短期投資家は、証券会社の課す取引手数料によって丁半博打以下のゲームを常に強いられている(更に確定した利益には税金が加わることも忘れてはならない)。

総括

いくつかの書籍では取引パターンを固定して機械的に取引をこなすことが奨励されている。取引の上で人間の感情がマイナスに働きやすいため、それを排除することが目的である。しかしそのようなメンタル面のアドバイスはよく見られても、最も重要な取引の具体的なパターンはまず紹介されていないので、個々の投資家の技術・経験・判断に委ねられているのが現状である。

はっきり言えば、チャート分析と呼ばれ紹介されている手法には具体性がなく、論理的な根拠すら示されていない。

ダブルボトムが現れた時に統計的な勝率はどれくらいなのか?どの時間軸を見ればよいのか?いつまでに利確しなければならないのか?損切ラインはどこに設定するのか?どれほど試行回数を稼げば期待できる利益率に収束するのか?その詳細な取引パターンの期待値はいくらなのか?
これらのことに事細かに言及している書籍や著名人を私は見たことがない。

個人的にはチャート分析は確かに強力な分析ツールであると考えている。しかし、それも効力を発揮しやすいのは多くの人々がチャートの形を認識しやすい大きな時間軸で見た場合であり、ファンダメンタル分析と組み合わせない限りは星占いと何ら変わらない。
勿論、チャート分析手法のみで成功を収めている人もいるだろう。それでも、大手機関との資金、情報量の差やAIによる自動取引が蔓延する中で利益を上げられるのは極一部の天才だけだろう。

チャート分析が人気なのは、職人気質な日本人の性格にピタリと当てはまる何かがあるのだろう。論理を組み立てていくのではなく、感覚に頼って物事を決定していくのは実に日本人らしいといえる。
私もチャート分析を行っていた際に、エリオット波動やフィボナッチリトレースメントなど、傍から見れば何やらカッコよくも難しげなツールを使って悦に入りながらPC画面にお絵かきを繰り返していた。残念ながらそれらが意味のあるものになることはなかったが。

今の私は、投資はもっとシンプルで絶対に崩れない土台の上に立って行うべきと考えている。日本の投資家は、天ぷら職人のように何年も修行して揚げ方を極めるのではなく、マクドナルドのように誰がポテトを揚げても同じ味になるような確実な理論を使わなければならない。

株式投資の始まりのエピソードを聞いたことがあるだろうか。
ヨーロッパからアジアの交易をするための船に複数人で出資したのである。船が難破すれば投資分はふいになるが、交易が成功すれば莫大なリターンが得られる。想像だが、その時代にはまだチャート分析は発明されていないため、船乗りの実績やどれだけの船が無事に帰ってきたのかといった情報を考慮して投資していたのではないだろうか。
チャートの形に全てを託してベットするよりも現実的な判断の仕方であるのは明らかである。

現代に戻って原点に立ち戻るような投資の仕方を考えよう。
この上なく単純に言えば毎年、経営にかかる費用を全て支払った上で100万円の利益が確実に残る、近所で人気のラーメン屋を500万で買えれば最高の投資である。たったそれだけで毎年投資額の20%を回収でき、5年後以降は全てあなたの利益となる。
言うなればこれは沈まない船を安値で買うようなものである。事実、株式市場を長い目で注意深く見ていれば、これに匹敵する会社を発見することは決して難しくはないのである。

最後にチャート分析の弱点をもう一度以下にまとめておこう。
・失敗した際の原因が掴みづらいため、対策が取りづらい。
・対策した効果の実証に時間とコストがかかる
・確率のブレによって原因不明の一時的な損を出しやすい
・多額の取引手数料を補う利益を出す必要がある

感想
振り返ってみれば、チャート分析での私の失敗は、投資に向き合う私の姿勢を正してくれた必要な失敗だったと思っている。しかし、ここでいくら私が書いても百聞は一見に如かずで、これを読まれたところでこれからも投資の世界に入ってくる人が同じ失敗を繰り返すのを止めることはできないだろう。はっきりしたソースはないが、ある証券会社が以前行った調査では、FX投資を始めた人のうち9割は1年以内に損失を出して退場していたという。
新規を取り込んで儲けたい証券会社の過剰な宣伝やネットの著名人の不確かな情報に惑わされずに、地に足をつけた投資をする人が増えることを願う。


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