ファシリテーター交代制とマインドマップ導入による”ふりかえり”の自己管理化

この記事は「ふりかえり Advent Calendar 2020」の8日目の投稿です。128のキリ番Dayです。

アジャイル開発に限らず「ふりかえり」をチームのイベントに取り入れている事例は多いと思いますが、ふりかえりを行ううえで課題となるのが進行役であるファシリテーターを誰がどう対応するか?という問題です。スクラムの場合はスクラムマスターがファシリテーターを担当する事例が多いと思いますが、私たちのチームには専任のスクラムマスターがいないこともあって悩みのひとつでした。

ファシリテーターを誰が担当するべきか?

最新版のスクラムガイドを見てみると、ふりかえり(スクラムでは「スプリントレトロスペクティブ」)の説明には次のように書かれています。

スクラムチームは、個人、相互作用、プロセス、ツール、完成の定義に関して、今回のスプリントがどのように進んだかを検査する。多くの場合、検査する要素は作業領域によって異なる。(中略)スクラムチームは、スプリント中に何がうまくいったか、どのような問題が発生したか、そしてそれらの問題がどのように解決されたか(または解決されなかったか)について話し合う。

『スクラムガイド(2020年版)』より

スクラムマスターがファシリテーターを担当するかどうかについては特に触れられていません。それならむしろ、スプリントを進めている開発者が自分たちでふりかえりをファシリテートできれば、話し合いがうまく進み、チームの自己成長につながると言えないでしょうか?

そもそも、ファシリテーターの役割とは何でしょうか?『ファシリテーション入門』には次のように書かれています。

ファシリテーターは単なる進行役ではありません。コミュニケーションの場をつくり、人と人をつないでチームの力を引き出し、多様な人々の思いをまとめていきます。その場に参加しているメンバーの主体性を育み、優れたコンセンサスを生み出していくのです。

日経文庫『ファシリテーション入門』より

一緒にスプリントを過ごしたメンバーが交代でファシリテートすることによって、優れたコンセンサスを生み出し、チームの自己成長を促すことができると考えたわけです。

ファシリテーター交代制

というわけで、ふりかえりのファシリテーターをチーム内で交代制にしてみました。

実際、これは非常に有効に機能しているように感じています。感覚的ではありますが、得られた効果は以下のようなものです。

・スプリント中に何がうまくいったか、どのような問題が発生したかをよく知る人がファシリテートするので参加者が話しやすい
・あるべき論で高度なアクションを設定したりすることなく、チームの身の丈にあった改善アクションを出しやすい
・ふりかえりのファシリテーターが回ってくることを意識することで、スプリントを進めるときからチーム全体を俯瞰する視点が持てる
・ファシリテーター側の視点を養うことで、その後のふりかえりで参加者としても視野が広がりチームのふりかえりがレベルアップする

良い事だらけ!と言いたいところですが、注意ポイントもあります。

ファシリテーターのためのふりかえりではない

ファシリテーションは奥が深く簡単には極められない専門スキルです。ファシリテーターの経験が少ない人は、その難しさに気を取られてうまくファシリテーションすることに集中してしまいがちです。交代でファシリテーターを担当してチームの自己成長を促すはずが、ふりかえりがファシリテーションスキルを向上するためのファシリテーターのための場になってしまっては元も子もありません。ファシリテーターを経験するためにファシリテーターを交代するのではなく、ふりかえりをより良い場にするためにファシリテーターを交代するのです。この優先順位を間違えてはいけません。

交代制と言っても、ファシリテーターを順番に交代することや、チームの全員が平等にファシリテーターを経験することは、ふりかえりにおいては重要ではありません。じゃんけんで決めるなど、ランダムに交代しても良いかもしれませんし、ファシリテーターが得意な人をチーム外から呼んでくるなど、チーム以外の人と交代しても良いかもしれません。ちなみに私(マネジャー)は月に1回だけチームの交代の流れに割り込んでファシリテーターをやらせてもらっています。開発者ではない人間が時々加わることで、新たな気付きが得られるかもしれないというアクセントになっています。

毎週のようにふりかえりを行っていると、チームの中に自然と「ふりかえりとはこうあるべきだ」という固定概念が生まれがちです。チームの状況に応じてファシリテーターを交代して様々な人がそれぞれの視点でふりかえりを進行することで、チームに新たな刺激や多角的な視点を生み出すことができると考えています。

マインドマップ導入

「ファシリテーターのためのふりかえりではない」を踏まえて自然とチームに定着したのがマインドマップを使ったふりかえりです。元々はコロナでリモートワークに入ったばかりの頃に、リモートでも手軽に扱えるツールとして試してみたのがきっかけです。ファシリテーター交代制を取り入れてから開発メンバーの中でマインドマップを使ってふりかえりのファシリテーターをするのがちょっとしたブームになっています。

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マインドマップを使ったふりかえりの良い点についてチームのメンバーに聞いてみると次のような回答がありました。

良い点
なぜなぜ分析がしやすい(階層構造で実現できる)
・グルーピングが楽。
・漢字を忘れてフリーズすることがない。
・KPTの各項目を掘り下げるのに相性がよい
・テンプレートを作って使い回せる
・ホワイトボードの余白マネージメントスキルが不要
・思考整理しやすい

まとめると、マインドマップを使うことで会議の進め方や論点の整理のしかたなどの、ふりかえりのファシリテーションのやりかたに気を取られることなく、本来の目的である「スプリントのふりかえり」に集中できるということだと思います。マインドマップの仕組み的特徴がファシリテーターへのほどよいガイド機能として効果を発揮し、交代でファシリテーターを担当するメンバーとそのファシリテーションに沿ってふりかえりを進める参加者との双方への心理的安全性が生まれているとも言えます。

マインドマップを使うようになって実感している効果についても聞いてみました。

実感している効果
・問題の原因の全体像が把握できる
・新たな課題に対する視点を学ぶことができる
・意見の関連性などが見た目でわかりやすい
・問題の深堀をしやすい

これらはマインドマップを使わずにファシリテーターが正常に機能している時のふりかえりで実感できる効果と同じです。つまり、マインドマップを使うことでファシリテーションスキルを強く意識しなくても、チームのメンバーが交代でファシリテートを担当してふりかえりを継続的に行うことができ、ファシリテーターが充分に機能しているふりかえりの状態と同等の効果を実感できると言えます。

せっかくなので課題や改善点についても聞いてみました。

課題と改善点
・フォントが変更できない
・スプリント進捗シートなど別ファイルとの行き来が若干面倒
・ファイルが少し重い
・絵文字(笑顔)が一部表示できない

マインドマップの課題というよりは使ったツールの課題のように思います。大きな問題とは感じていませんが、今使っているツールにこだわっているわけではないので、もっと良いツールがあれば試してみたいところです。ちなみに、使っているマインドマップツールはXMindです。

自己組織化よりも自己管理

2020年版のスクラムガイドの主な変更点の1つに「自己組織化よりも自己管理」というテーマが見つかります。

2020 年版ではスクラムチームの自己管理に重点を置き、「誰が」「どのように」「何の」作業をするかを選択できるようにした。

『スクラムガイド(2020年版)』より

2017年版のスクラムガイドでは、ふりかえりにスクラムマスターの関与を促すような記述がけっこうありました。

スクラムマスターは、このミーティングがポジティブで生産的になるようにする。スクラムマスターは、全員にタイムボックスを守るように伝える。スクラムマスターは、スクラムのプロセスを説明するために、チームメンバーとして参加する。(中略)スクラムマスターは、次のスプリントが効果的で楽しいものになるように、スクラムチームにスクラムプロセスフレームワークの範囲内で開発プロセスやプラクティスを改善してもらう。

『スクラムガイド(2017年版)』より

これらの記述が2020年版で削除された意図を想像してみると、ふりかえりの場で誰が、どのように、何をするかを自分たちで考えて、ふりかえりの場をスクラムチームが自己管理していくことが、2020年現在のより良いチーム開発であると、スクラムガイドが示唆を与えていると私は感じています。

ふりかえりを自己管理する

もちろん、ふりかえりをスクラムマスターがファシリテートすることを否定する意図はありませんし、そのほうが良いケースも多々あると思います。しかし、過去にうまくいったやり方にとらわれずに、チームの成長ステージに応じてやりかたを変えてみても良いのではないでしょうか。

私たちのチームでは、マインドマップなどのツールを使って工夫しながら、開発者が持ち回りでふりかえりの場づくりを行うことが、チームの成長ステージに合っていると信じて現在は取り組んでいます。もちろん、これは未来永劫ではなく、今後また違うやり方を取り入れるかもしれません。こうして、ふりかえりを自己管理してチームの成長を目指しています。

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