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【カースケ】 #852


僕は中学生の時にパンクロックに出会った
それは今までの音楽とは違い
僕にとってはとてもキラキラしたものであり
ドキドキさせられるものであった

そしてパンクロッカーはパンクスと呼ばれファッションもとても個性的でときめいた

中学生でお金が無かったから大した事も出来なかったが
高校生になってバイトを始め
そのお金でドクターマーチンの編み上げブーツを買った

ブルースリーの映画を観た後
自分も彼の様に強くなったような気分になるのと似た感覚で
このブーツを履いた瞬間
自分はパンクスになり
無敵になったような気分になった

実際は何も変わっていないのだが

その後もパンクロックは聴いていたが音楽に関して言うとそれ以外のロックもポップも気に入った物は色々聴いた

しかし
ファッションに関して言うと
やはりこの反逆的で個性的なパンクファッションが大好きで
基本的にパンクファッションを通していた

大学生になった頃から若干の違和感を感じ始めていた
人とは違うというのが嬉しくてパンクファッションをしていただけなのだが
どうもパンク=ケンカみたいなイメージで
常に喧嘩腰でファックファック言ってないといけないみたいな…

僕は正直言ってどちらかと言うと
温厚なタイプなんだよ

だからケンカとかした事無いし
むしろ弱いし
そんなのやりたくないし
巻き込まれたく無い

だから実を言うとパンクバンドのライブには行った事が無いんだ
ポゴしてダイブして場合によっては殴り合いしたりなんて怖いじゃないか

なので行きたくても怖くて行けなかった

そんなある日僕は大学の食堂でご飯食べてたら
知らない人から声をかけられた

「なぁなぁココ座ってええ?」

「あっはいぃ」

「ありがとう
君なぁ
音楽とかやったコトある?」

「無いですけど…」

「ギターとか歌とかも一切?」

「ギターはほんのちょっとだけだし
歌は時々友達とカラオケ行く程度かなぁ」

「パンク好きやろ?
そのファッションやし」

「うん好き
でもパンクスは苦手」

「へぇ変わっとんなぁ

なぁ俺と一緒にバンドやらへんか?
ちょうどなボーカル探しとったとこやねん
なぁやろうや」

「バンドですか?
考えた事も無かった
ううぅ〜んどうなんだろ

それにアナタの名前すら知らないし」

「あっ俺か
俺はカースケって呼んでくれ
周りからそー呼ばれとんねん」

「カースケさんね
僕はヤスシ」

「ヤスシか
ヤスシよろしくな

で俺にさんは付けんでええで
カースケって読んでや
タメ口でええし」


こうしてカースケの勢いで僕はバンドをする事となった
後で知ったがカースケは僕の一個下だった


僕たちのバンドはライブに出まくってジワジワとファンがついた
パンクバンドにしては珍しく女性のファンもついた

対バンの人とかもの凄く怖いイメージだったけど
楽屋で初めて会うとだいたい皆さん礼儀正しく良い人達ばかりだった
たまに変な人とか若干喧嘩腰の人とかもいたが
カースケがその辺は何とかしてくれていた

人気も出始めて東京以外でもライブをするようになった

バンドも3年目で僕は就職の準備をしなくてはいけなくなった頃
あるライブでレコード会社の人から声をかけられた

デビューの話だ

僕もカースケも他のメンバーも浮き足立った

就職?
デビュー?

そして僕はデビューを選んだ
田舎の両親には黙っていた

レコード会社から紹介された音楽事務所に所属しマネージャーから
先ずはレコーディングから始めましょうと提案され
3ヶ月の期間をもらった

今まで通り
作曲はカースケで作詞は僕だった
一曲作ってはスタジオで練習し
作っては練習を続けた
そこへマネージャーがデビュー曲の為のプロデューサーを連れてきた
いかにもって感じのオッサンだった
業界では有名な方らしいのだが
バンドのメンバーは誰も知らなかった

流石プロでみるみるうちに僕たちの曲がカッコいい曲に生まれ変わって行った

スゲェー

ただ一人だけはあまり納得していない者が居た
それはカースケだった

カースケに言わすと
こんな歌謡曲みたいな曲は俺の曲じゃない

言ってる事はスゴく分かる
でもよくよく考えたら日本の音楽で売れている曲って
歌謡曲でもポップでもロックでもフォークでも何でも
みんなそんな曲ばかりだった

だから僕は仕方ないものだと
カースケを説得した

その後もカースケはモヤモヤしながら
レコーディングに向けて励んでいた

そしてとうとうプロデューサーと喧嘩してしまった
そのままスタジオを出て行き帰って来なかった
僕たちは心配した
でもきっと帰ってきてくれるだろうと思っていた

しかしカースケは二度と帰っては来なかった
カースケはあの後酒屋でウイスキーを買い
ラッパ飲みしてフラフラしてるとこトラックにひかれて亡くなってしまった


デビューどころじゃ無い

そしたらマネージャーから言われたのが
デビュー前だから新しいメンバーを入れても何も変わらない

僕はビックリした
何も変わらないだと?
何もかもがぶち壊しだし
カースケが居ないこのバンドなんて
何の意味も持たない

だから僕はカースケが居ないこのバンドではデビューはしたくないと告げた

そしたら違約金を払えと言ってきた

そんなお金僕には無い

他のメンバーに説得され
新メンバーを入れて
デビューをした

全然面白くない
だから僕は常に不機嫌だった
テレビの音楽番組に出ても不機嫌
ラジオに出ても不機嫌
ライブをしても不機嫌
不機嫌
不機嫌
不機嫌

そしたら知らない間に
僕と不機嫌はカッコいいに変わっていた

演出じゃなく
ホントに不機嫌なのに

曲は売れ続け売れっ子になった
全然面白くない
脱退するか解散したい

デビューして5年が経った頃
バンドのメンバーがクスリで捕まった
そいつはカースケの代わりに来た奴だ

僕はチャンスと思った

事務所とバンドメンバーと話し合って
活動休止という実質解散をする事にした

もう日本には居たくない

僕が僕らしく生きる為に日本を出た

今はアフリカに住んでいる

僕が何をしようが知らないし
誰も何も言わない

英語とスワヒリ語を少し話せるようになった頃
僕はカフェを開いた

店の名前は
『カースケ』




ほな!

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