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【風の匂い】 #850


どうしようもなく寂しい夜があったりすると夜の街を徘徊してしまったりする

そんな事を続けていると行きつけの店が何軒かできてくる

行きつけの店ができるとそこで出会う常連客と知り合いになり
場合によってはお友達になる

皆んな年齢も職業もバラバラだ

バラバラなんだけどお店を通して一体感ができる

そんな意味があるのか無いのかよく分からない連帯感の中で更に仲良しの友達なんかができてくる

友達になるとその店を飛び出して
陽の当たる時間にも行動を共にし出す


楽しいも続き過ぎると今度はしがらみに悩まされ始める

勝手に相手と自分の関係性を決めてかかっている

この子はこうだからこうしてくれるはず的な

そんな思い通りには行かない

相手もきっとそうだ

どんどんそう言ったややこしい事から解放されたくなる

遂にはお店に顔を出さなくなる

そして面倒なので自分の家に篭りがちになる

ひとりって楽だなぁと感じる

でも結局それも時と共にまた孤独感にさいなまれ
嗚呼っ寂しいと思ったりして
久しぶりにお店に顔を出してみる

多少の顔ぶれは変わるもいつもの連中も居たりして
大歓迎ムードにはなりつつも以前とは違う空気が漂い
仲間というよりもお久しぶりのゲスト的な扱いに余計に孤独感が倍増し
その空気に耐えられず
1時間ばかりで店を後にする

別の店に行くことも頭に浮かんだが
多分同じような結果に終わるだろう

諦めてあの寂しい家に帰るしか無いと思っていたらナンパされた

普段だったら無視するし怖いから相手にしないのに
今日の私はスキだらけ
うっかり立ち止まって話を聞いてしまった

その彼に誘われるがままに初めてホストクラブという物に足を踏み入れた

そしたら私を女王さまにしてくれた
気分が良い

私はホストクラブにズッポリとハマってしまった

余計なしがらみも無いし
こちらがお金さえ払えば楽しい思いをさせてくれる

そんな中
新人のヤスシと出会った

ヤスシは子犬のように可愛い男

私はヤスシを気に入り指名をするようになった

いつしかアフターもするようになって
カラダの関係も持ってしまった

そう知らない間に彼にゾッコンになっていた

私は足しげくお店に通いだし
あれよあれよという間に私の大切な貯金は無くなり
でもどうしてもヤスシに会いたくなったので夜の仕事も始めた


ヤスシは私のもの
そう思っていたのにライバルが現れた

私は必死にお金をつぎ込んでヤスシを独り占めにしようとした

でも今の稼ぎでは追いつかない

だから私は風俗で働き出した

訳の分からない初めて会う男どもとセックスをした

最初の1週間は泣いたしゲロが出そうだったけど
次第に慣れ普通にやれるようになった

感じてるフリして腰も振れるようになった

そんな事を繰り返していて気が付いた


嗚呼
ヤスシもこんな感じで私を見ていたんだ

それにようやく気が付いた私は
もうヤスシの所へは行かなくなった

そしたらヤスシからシツコイくらいLINEが入るので余計に気持ちが冷め
ブロックした


相変わらず私は風俗で働いている

意外と天職なのかもしれない

そう感じ始めたから
昼の仕事は辞めにして風俗一本にした

一年でOLの頃の5年分くらいの貯金が出来た

その後2年程勤めて風俗も辞めて今は石垣島に小さな家を買って犬と暮らしている

昼間は小さなカフェを営み細やかな生活をしている


気が付いたら40歳も半ばを過ぎ

犬も老犬になった頃
その男は現れた

男は旅の途中だと言っていたが
此処が気に入ったらしく
少しの間滞在し始めた

私はそんなに忙しい女では無いので
その男に色々と付き合ってやった

2人は次第に距離を縮め
男は私の家に転がり込んだ

しかしこの男
一緒に住み始めるとロクでも無い男と分かった

人の金は勝手に使うし
気に食わない時は私を殴った

私は出て行くよう何度も言ったが出て行かなかった

しかし最後は警察に連行されて出て行った

殺人を起こした逃走犯だったのだ

テレビなんてろくすっぽ観ない私はそんな事は何も知らなかった


そしてやがて犬も死に
また私は孤独になったが
もうあんまり寂しいとは思わなくなった



この風と海の匂いがあればそれで良い




ほな!

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