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【麦の女】 #666


なりたい人となれない人
会社において幹部に
なりたい人が居る
でも
なりたくても向かない人が居る

「私はどうして昇進できないんですか?」

「君はエース社員ではあるが
上に立つタイプでは無いと考えている」


私が女だから舐められているんだ
こんな会社辞めてやる

別の会社に入社した
此処には女性の幹部も多い
此処ならばと
一所懸命に働いた
彼女はこの会社でもエースになった
しかし以前と同じく
一向に昇進しない

「どうして私は昇進できないのでしょうか?」

「アナタは本当によく頑張っています
会社の貢献度も非常に高い
がしかしアナタは現場向きであって
上に立つタイプでは無い
昇進は今のところ考えていませんが
その代わり給料面では課長クラスのお給金をお支払いさせてもらっています」


給料じゃないんだ
私は昇進がしたいんだ
此処にも私の居場所は無い

辞めてやった

もう起業するしか無い

そして私は会社を作り
課長や部長を通り越して
社長になった
ザマァ見ろだ

今までの経験を生かし
社会への女性進出についての
インフルエンサー的立場を取り
訴えていくメディアを立ち上げた

最初は順調とは言えなかったが
SNSなどを巧みに使い
徐々にではあるが
読書も増え
広告収入も増え
メディアへの露出が増えて行った
わずか2年で業績は起業当初に予定していた収益の2倍の業績となった

私は有頂天になった
テレビなどでも
取材を受ける側から
ゲストコメンテーターへ
そして
今やレギュラーのコメンテーターへと昇格した
出た番組は全て録画してある
テレビ出演が増えたので
芸能事務所と契約を行った
これで安定的にテレビの仕事ができる
ヘアメイクとスタイリストが付いた

私は私に気付いていない
私は私がモンスターになって行っている事を

私は社員たちから
パワハラで民事訴訟を起こされた
テレビには出ていたが
番組スタッフから嫌われていた
その事に気付いていない
私は番組に呼ばれなくなった代わりに
番組のニュースとして扱われた
一緒にお仕事をしていた人が
私をバッサバッサと切って行く

会社では
訴訟を起こした社員とは別の社員も
辞めて行った
読者は離れ
スポンサーも離れ
赤字に転換し赤字額は数億にのぼった
民事再生か倒産か破産か

結局
会社は破産し
私個人も自己破産した
パワハラの民事訴訟については
私が賠償金を支払える見込みが無いと判断し
訴訟は取り下げられた

私は何もかも失った

ある言葉を思い出した
昇格するタイプでは無い
上に立つタイプでは無い

此処で初めて自分の身の程をしり悟った

また私はいちから始める事にした
必死に就職活動をした
何社も落ちた
一度社長を経験して
その会社を潰したというのがマイナスになっている

結局本来自分のスキルを活かせる仕事には就けず
町工場の事務として再出発した
社長は優しく親切であった
好きな仕事では無いが
チャンスをくれた社長と工場の為に
一所懸命に働いた

ある時
社長が全員を集めて話をした

「大手からの下請けばかりでは
この先何が起こるか分からん
そこでこれからは
平行して新しい取り組み
新しい取引先を構築しようと考えている
新たな商品開発のチームを作ろうと思っておる
それからこのチームの企画責任者に
私の息子を迎えようと思う
息子は都内の大手で企画の仕事をしておる
説得しなんとか承諾してくれた
後それから営業担当として
山田くんにお願いしようと思っておる
山田くんはかつて大手で営業の仕事を経験しており
業績も良く此処で事務仕事だけで終わらすのは勿体ない
是非ともチカラを借りたいが如何か」

私は社長の提案に驚いた
なんて素晴らしい

当然快諾した

それから5年の歳月をかけて
チームと企画を固め
他社に負けない製品も完成した
これからは私の出番だ

私はガムシャラに働いた
ありがたい事に
驚くほど契約が決まりまくった
業績も徐々に上がってきた
目指すは既存の収益を超える事

そんな中
悲劇は起こった
私にとっては
命の恩人のような社長
この会社にお世話になって
もう7年

たまたま社長と2人で関西方面の
取引先との打ち合わせや
挨拶があったので向かった
2泊して帰る予定である
2日間とも取引先との食事会は決まっていた

1日目の商談が終わり食事会も終わり
私はホテルに帰ったが
社長は恐らく2次会3次会と参加されるだろうと思っていた
私はホテルの部屋に着いて
化粧を落としシャワーを浴び
さぁ1人で軽く飲むか
とそのタイミングで社長から電話があった

「今戻った
明日の事でちょっと話したい事があるから
私の部屋まで来てくれんか」

私は一瞬固まった
帰ってくるの早っ
しかも今から来い?
また化粧して服に着替えないとダメじゃなち

「あっ分かりました
社長少しだけ時間下さい
身支度して直ぐに行きますので」

とにかく軽く一杯は後回しで
急ぎ化粧と身支度を済ませ
社長の部屋をノックした

部屋に入ると
社長はベッドに腰掛け
私が椅子に座るカタチで話をした
ひととおり今日の反省会と明日の予定をもう一度確認しあった
これがせいぜい15分ほどで済んだ

さぁ帰ろうとしたら
社長が折り入って話がある
そう言って自分の横に座るよう
促された
どうしようとも思ったが
これまでも社長とは出張にも行ってたし
だいたいそんな人じゃない
だから私は信頼して隣に座った

すると社長からは
感謝の言葉を言われた
なのでそれにつられて
私も感謝の言葉を伝えた
すると社長が言い出した

「もし私が山田くんに会社を辞めてくれ
そう言ったらどうする」

「それは困ります」

「だろ
私もキミが辞められたら困るのだよ
だからこれからはもっと密な関係を構築していかないと」

そう言うなり私の肩を抱いてきた
私はビクンッと身体がこわばった
社長の顔が近付いてくる
のけぞって離れようとした時

「クビにはしたくないんだ」

そう言われた時に何故か
今までの事が走馬灯に巡った
社長に拾ってもらわなかったら
私は今頃恐らく落ちぶれていただろう
下手したら風俗嬢になっていたかもしれない
そう考えたら
感謝する社長が喜ぶ事をしてあげるのも感謝の印かもしれない
と変なカタチで脳の処理がなされた
そして私は受け入れた

2日目の夜も抱かれた

それから半年後
またひと展開あった
社長の息子である企画担当で専務から
交際を申し込まれた
彼は私より3つ年下でバツイチ子供無し
私は悩んだ

お父さんである社長とあんな関係になっていなかったら
直ぐにでもお受けできる話だし
密かに想いはあった人だっただけに
とても残念に思ったが
これは断るしかない

社長に呼び出され
行為が終わった後

「息子がオマエと結婚したいらしいぞ」

「はい
告白されましたが
返事はまだしていません
ただ
社長とこの様な関係ですので
お断りしようかと」

「オマエは息子の事
どう思ってる
好きなのか?」

「はい
そうでした」

「なんで過去形なんだ」

「それは社長と関係を持ってしまったからです」

「そうかぁ…
俺は構わんよ
結婚は賛成だ」

「でも社長…」

「構わんさ
アッチはアッチは
コッチはコッチ
だから息子をよろしく頼むよ」

私の中で打算が生まれた
これで社長の妻という席が約束される

私と息子さんのヤスシさんと結婚した
ヤスシさんはとても優しく良い旦那さん
ただ1年もすると彼の癖が分かってきた
マザコンで私をお母さんにしたいようだ
それも許すと家では完全に赤ちゃん状態になる
その合間をぬって義父にホテルに呼び出される

家(ヤスシ)→工場(ヤスシと義父)→家(ヤスシ)→時々義父

私はこの親子の玩具なのか
仕事が息抜きになる
やってやってやりまくって
更に業績が上がり
とうとう元の事業の収入を
新事業が追い抜いた
もう私はこの親子と工場(会社)からは逃げる事はできない

ストレス発散は仕事と
時々取引先の若い担当者にイタズラする事くらい


さぁ
明日からも頑張ろう




ほな!

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