見出し画像

【さるおとこ】 #853


いつ死のうか
50歳を過ぎた辺りから
そんな事をボチボチ考えだした

妻や子供たち友人たちには言ってない
唯一知っているのは愛人だけだ
それ以外は誰も知らない

長男は大学を出て今はうちの会社を継ぐために
他所の会社で修行をしている

下の娘はアメリカに留学中だ

妻とは良好だ

愛人は妻から私を奪い取ろうなんて気は無いらしい
ただ今彼氏とかそういうのに興味が無く
適当に遊ぶのにはちょうど良かったからだそうだ

まぁ女にモテるのは悪くない


話を戻そう

決して自死願望がある訳ではない
死にたい訳ではないのだが
このまま歳を取って行って
自分の機能がひとつずつ故障し
終いには壊れて治らなくなり
人様に迷惑をかけながら
どんどん付き合いも薄くなり
忘れられ
死んだと聞いても誰も涙せず
むしろやっと死んでくれてホッとした
なんて思われるのなんてゴメンだ

それよりも
皆に惜しまれつつ
死後も彼らの心の中で言い続けられる方がいい

今はまだバリバリの現役なので
多くの人が私の周りには居る

だから今のうちにだなとも思ったりもする


愛人にこの話をしてみたところ

「ふぅ〜ん」

で終わった

誠に最近の若い連中は感情が薄い気がして仕方がない
うちの新入社員もそんな所がある

私が熱い話をしても空を回っている気分にさせられる

また話が脱線した

とにかくだ
綺麗に後始末して
サラッとこの世からおさらばしたいのだよ

ただそのちょうど良いタイミングが今ひとつ分からないのだよ

いつ死のうか
どのようにして死のうか

そんな事ばかり考えてたからなのか
夢の中に悪魔が出てきた

「お前死にたいのだろ?
お前がいつどんな形で死ぬのか
教えてやろうか?」

「それを聞いたらお前さんは私を地獄に連れて行くのだろ?」

「地獄?
そんなもんは無い
天国と地獄は同じ場所にある
それを天国と呼ぶ者もおれば
地獄と呼ぶ者も居る
ただそれだけだ
だからその辺は心配するな」

という所で目を覚ました

また別の日にも

「お前さんは
いつどんな形で死ぬのかしりたいんじゃろ?」

仙人みたいなじいさんが出てきた

「アナタは何者ですか?」

「ワシか
ワシはなんだ
あのぉ…あれだ
未来のワシだ
いや違う
未来のお前さんだ」

「未来の私?
じゃあそんな風になっても
まだ生きていると言うことか」

「いんやぁ
死んどるよ」

「じゃあ幽霊か何かそんなモノか
?」

「まぁそんな感じのモノでええよ
で知りたく無いのか?」

という所で目が覚めた

そしてまた別の日には

「やいお前
死ぬ日付けと死に方を知りたいのか」

「うあっ馬頭だ
なんだよ地獄に呼ばれているのか?」

「あっそれな
死んだ奴は取り敢えず地獄裁判を通過しないとアカンねん」

「そうなのか」

「で知りたいんやろ?」

「知りたいというかぁ
まぁ分かるなら…」


という所で目が覚めた

どういう訳か
色んなバージョンで私に
いつ何処で死ぬのか教えてくれそうな流れなのに肝心の所で目が覚める

まぁいつって分かったとしても
それは夢である訳だから
デタラメに決まっている


ある日
泊まりがけの出張に愛人も連れて行った
他の社員の手前
夜になるまで会わなかった
大口の取引先と商談し
その後会食をし
私は二次会は部下に任せて
私だけ違うホテルに愛人と泊まった

部屋には温泉も付いている
見晴らしが良い
今度妻と結婚記念日にでもまた来るか

ホテルの最上階にあるラウンジで酒を飲み
部屋に戻った

最近会っていなかったから
私は相当張り切った割には
あまり良い結果は出せなかった
そろそろバイアグラの世話にならないといけないのかなぁ

夜寝ていると
れいのあの夢が始まった

「知りたいだろ?
いつ死ぬか」

「まぁ」

私はそのオッサンは誰なのかなど
無駄な会話を省いた
でないとまた目が覚めてしまう

「よし教えてやろう
お前はな今から死ぬんだ」


私は目が覚める事は無かった
突然死だった
しかも最後の最後で愛人の存在もバレてしまい
妻は葬儀で一滴の涙も流さなかった
当然子供たちも同様にだ

会社は急遽息子に引き継がれ
重役たちと連携し
潰す事なく順調に進んでいるが
私の話は社内ではタブーとされている


死んでしまっているから
どうしようもないが
あんな夢なんて見なきゃ良かった



ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?