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オレとパソコンのブルース。

つい先日、編集の方から仕事の相談があった。すごく簡単に言えば、製本についての作業である。

企画立案に関わったことから私に依頼が来たのではと思うが、割とガッツリ報酬だったので私としては意欲満々であった。

内容を確認すると、文章データをWordでチョチョイと編集、確認、書き出しし、各所にチョチョイと振り分けたり……というようなもの。

作業内容に大きなハードルはないが、その一方で一つの大きな懸念点があった。

「自宅のPCが古すぎてろくに使えないこと」

である。


具体的に言えば、今私が使用している自宅のPCは『iMac 2009年版』である。なんとまさかの12年もの。産まれてから小学校を卒業するまでの期間である。

2009年。iPhoneでいえば、3GSが発売されたのと同じ年だ。12年という月日は、ウイスキーなら喜ばれるのに、パソコンやスマホとなると途端に骨董品扱いとなり、なんでも鑑定団でも高値がつきそうな趣がある。

iPhone3GSは、昨年発売されたiPhone12proからするとざっくり換算で9世代前。モーニング娘。で言えば、安倍なつみ、福田明日香、飯田圭織、石黒彩、中澤裕子と、譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音くらいの開きがある。もはや誰1人わからん。9世代も変われば新陳代謝で殆ど別のグループである。


機種が古いだけならまだマシかもしれない。大きな声では言えないが、実はこのパソコン、メモリが4Gしかないのである。殆どスマホと変わらない。

パソコンに詳しくないかたにわかりやすく言うと、メモリとは「そのパソコンの心のゆとり」みたいなものと思って欲しい。

この数が大きいと複数のことを同時にこなせる様になる。一方で複雑な作業を行うと、その分心のゆとりはなくなる。同時に色々なことをやりすぎてメモリが一杯になると、パソコンが固まったり、それぞれの動作が非常に重くなってしまう。

つまり、私のパソコンは相当器が小さく、ちょっとしたことをお願いするとすぐ手が止まる困ったちゃんなのだと思って欲しい。


さらに小声になってしまうのが、このパソコンにWordなんて入れていないのである。一応、これまたかなり古いバージョンのオープンオフィスを入れてはいるが、これまでのライティング業務は全てテキストとメールのみでやりくりしてきたのだ。画像加工をするのもプリインストールのアプリである。

そして、もはや船場吉兆のささやきレベルになってしまい、聞き取れないと思うけれど、OSすら暫く更新していない。今のOSですら非常に重く、アップグレードすることでさらに重くなり、使えなくなるんじゃないかと思われたからだ。

一部の人は失神するんじゃないかな、というような地獄の環境なのである。


改めてこのパソコンのスペックを確認するため、ネットでこの機種について調べたところ、「iMac 2009はいつまで現役で使えるのか?」といった記事を見つけた。その記事によると、メモリをかなり増設してHDDからSSDへ載せ替えをすれば「ネットサーフィンくらいなら余裕」というレベルにはなるとのことだ。そこまでやってようやく軽作業ができるレベルとのこと。

しかし、よく見るとその記事は2016年のもの。今から5年前で既に定年寸前の扱いを受けているのである。最早私のパソコンは、葬儀屋に「もうすぐ死ぬと思うんですけど、GW中でも大丈夫ですか?」と確認の電話を入れておくレベルなのだろう。むしろ死体を無理やり動かしているような状況かもしれない。さらに5年も経てば石油になっている事だろう。


問題はまだある。現在テレワーク中ということもあり、本業で使う職場のデスクトップPCを自宅に置いて作業しているのだが、自宅の無線LANルータにある唯一のLANポートがそのパソコンに占有されているのだ。

私のパソコンは本来Wi-Fiでも使用できるはずなのだが、何故かWi-Fiに繋がらない。調べてみるとルータのWi-Fi規格とパソコンに備わっているWi-Fi規格に世代差があり、それが原因の可能性があるとわかった。

勿論LANケーブルを繋げばオンラインになるのだが、職場のパソコンを設置した際、オンラインにならなかったりVPNに繋がらなかったりとトラブルが頻発したため、極力配線を弄りたくないし、本業のパソコンはいつでもオンラインで起動にできる状態にしておきたい。

この問題に関しては自宅のパソコンのOSをアップグレードし、Wi-Fiのレシーバーを買えば何とかなりそうである。

ネットに繋がらなければ話にならないので、まずはOSをできる限り最新のバージョンまで上げた。互換性の問題なのか、やり方が悪いのか、ここ数年発表されたものは当てられなかった。

それでも何年か前のものまでには上げることが出来たので、ギリギリOS的にはWi-Fiレシーバーが使える状況になった。ついでにiTunesなど幾つかのアプリのバージョンアップも同時に行った。


まずはブラウザの確認。……Safariを起動し、Yahooを表示するだけでも5秒以上かかる。

今度はテキストで長文の文章を打ち込んでみる。……一定の文字数を入力した後、文字反映や漢字変換にタイムラグが生じるようになった。

しかも、何故かBluetooth接続のマウスやキーボードがこれまで以上にぶちぶち切れるようになった。

テキストでこれでは、Wordなんかインストールしてもろくに動きやしないだろう。


おしまいだよ、こんなもん。辞めだ。辞め。


やたら動作が重いから、調べたところテキスト入力してるだけでメモリの半分以上使用してんだから。タイムカードを切って席についただけで心の余裕が殆ど無くなっているのと同じだ。私のパソコンは鬱なのだろうか。

とりあえず、このままだとどうしようも無い。残念だがOSのダウングレードをすれば、多少マシになるだろう。たしか、Time Machineを使えば元の状態に戻せたはず。そう思い、Time Machineを起動する。


「Time Machine バックアップの場所が選択されていません
バックアップ先の場所を選択するには、Time Machineの設定を行ってください」


ふむふむ。なーーるほど!ザ・ワールド 黄金の祭典スペシャル。つまり、バックアップの設定をしてなくて、これまで一度もバックアップが取れてなかったってわけですね。


おしまいだよ。


しまったしまった、島倉千代子。これはもう、戻れない夏 by森高千里なんですか?手遅れなんでしょうか。私は慌てて例の編集者に相談をした。編集部のパソコンがiMacだったから、多分何かしらのヒントをくれるはず。

「確か、MacならTime Machine以外の方法でもダウングレードが出来たはず!」

良かった!!具体的な方法は教えてくれなかったけど、大人なので自分で調べてみよう。

早速、ネットでその方法を見つけ、手順を確認する。


「まず、購入時のOSに戻します」


せっかく成長させたのに、ちょっと前からということではなく、また新生児からやり直すらしい。大丈夫か?それ。12年前にタイムスリップして、OS以外のアプリとかデータに影響は出ないのか?オーディオインターフェースのドライバとか、iTunesのデータが飛んだりしたら大変なことである。

この記事を書いた人も、まさか12年前の原始時代までタイムスリップしようとしてる奴がいるとまでは考えてないのではないだろうか。

その後の手順も、バージョンを昔のものに戻した後、ちょうど良いところのOSをダウンロードしてインストールすることになるらしい。

そういえば、かなり前にOSのバージョンを上げた時、全くうまくいかずにAppleの電話相談で遠隔操作をしてもらいながら行った記憶がある。

その時はまだサポート対象期間だったが、今は確実にサポート期間が切れている。多分、自力で元の状態に戻すことはできないだろう。


困った困ったこまどり姉妹。さて、どうしよう。こうなると現実的な選択肢は2つ。ひとつは、パソコンの買い替えである。ただ、対費用効果を考えると中々踏ん切りがつかない。

現在パソコンなんてCDの取り込み用とスマホのバックアップくらいでしか使っておらず、ライターの仕事もコロナ禍以降はほぼない。以前は割と積極的にやっていたけど、コロナ禍以降取材も行きにくく、これから続けていけるかもわからない。いずれにせよ、副業というのもおこがましく、小銭拾いとか、趣味のレベルである。

今回の報酬も、パソコン+Wordを買えばほぼ相殺だし、最悪足が出てしまう。安いパソコンを買えば多少の利益は確保できるが、経験上、安いパソコンは本当にすぐ壊れる。私はApple信者ではないが、Appleの品質とサポートは信頼できる。現に12年物のこのパソコンも、ロースペック過ぎるだけで壊れているわけではない。

となると、残された選択肢はひとつ。「メモリの増設」である。というか、パソコンに詳しい人なら「いや、4Gしかないならむしろ最初からそれしかねーだろ」と思うかもしれない。


無理無理。こわいこわい。メモリの増設って、パソコンの中身を開けて、部品取り付けたり交換するんでしょ?そんなもの無理である。絶対に壊す。

大体、人間で考えてみて欲しい。皮と肉を切って、内臓を取り替えたり、ペースメーカーなどの異物を仕込んだりすることと変わらない。手術である。医師免許のない私には出来ない。ブラックジャック呼んでこい。まぁ、ブラックジャックも医師免許ないけどな。


そもそも「改造」や「カスタマイズ」という事が私の性に合わない。多くのものは純正品こそ正義なのである。大体、パソコンのメモリ増設とか改造とかしているやつに限って「食品の添加物はNG」とか「素材の持ち味を活かして」とか言っているイメージがある。改造もおんなじ事だろ!いい加減にしろ!

しかも、聞いた話によるとパソコンの部品交換やメモリの増設は、静電気の発生を防ぐために全裸になって行うという。意味は分かるけど、バカなんだと思う。根っから文明人の私には出来ない。

言い訳はこのくらいにするけれど、要するに自分の責任で電子機器に手を加えることに自信がなく、知識もないので壊してしまうのが怖いのだ。


では、どうするか。結論から言うと、色々と検討、検証を重ねた結果、モバイル端末でも求められている作業が出来ることがわかり、パソコンの問題は一旦先送りする事となった。良かった良かった吉永小百合。

それにしても、あまり考えないようにしていたが改めて調べてみるとこのパソコンはかなり時代遅れのオンボロなようだ。

買った時から当時のハイスペック端末というわけではなかったけれど、情報端末の進化や発展は目覚ましく、たった数年で時代遅れの機器になってしまうこともよくある。

最新のソフトや周辺機器が本体のスペックの低さゆえにほとんど使えず、メモリ不足で心に余裕もない、時代に取り残されたオンボロ。

アップデートもせずに小手先のアプリとスキルで誤魔化しながら、愛着と、他に選択肢がないという理由だけで使ってきたけれど、とうとうモバイル端末という手軽な新世代に仕事を取られてしまったこのパソコンを見て、

(コイツ、なんだかオレに似てるなぁ)

と思った。

愛と哀れさで眩暈がした。




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