金融1

0.目次
1.イントロダクション

1.1資金フローと金融仲介
 1.1.1直接金融と間接金融
 1.1.2証券会社の業務と投資銀行
 1.1.3経済全体の資金フロー
1.2銀行の業務
 1.2.1金融仲介の機能
 1.2.2銀行の情報生産機能
 1.2.3広義の金融の仲介機関の機能
1.3新しい金融サービス
2. 経済全体の資金の流れ①(最終的貸し手→金融市場)
2.1家計の貯蓄行動
 2.1.1ライフサイクル仮説
 2.1.2 二期間モデル
2.2資産運用
 2.2.1期待効用仮説
 2.2.2平均・分散アプローチ
 2.2.3期待効用仮説と平均・分散アプローチの関係


1. イントロダクション
 金融とは何か、大雑把な概略を示す。S1でミクロ的、S2でマクロ的な金融論を取り扱う。

・経済学で金融をすぐには学ばない。ミクロでも金融はなかなか直接登場しない。ロビンソンクルーソーの無人島では生産・消費活動は行われても金融活動は一切行われない。
→複数の主体の経済活動の相互依存性が複雑な形で生じる時、金融が重要になる。

・時間が存在する市場で金融取引が重要になる。所得と支出の時間的パターンの不一致。(第二回で詳しく扱う。)

・完全競争市場では金融がなくても最適な所得配分が達成される。不完全な市場メカニズム(実際の経済。情報の非対称性、不完備契約、取引費用(固定費用))において金融が役立つ。(借り手が十分な将来の資金形成力を持っているか貸し手はわからない場合が多い。このような問題を解決しようとするのが金融である。)

 金融が重要であることが一般の人に理解されることは難しかったりする。(実際の生活に役立つ農民は困窮するのに何もしない金融機関は莫大な利益を上げている。けしからん!)しかし、金融が機能不全に陥ると経済活動は滞る場合が多い。金融は実態経済の機能を助けるものである。(金融は「経済活動」という機械の「潤滑油」。潤滑油だけでは役に立たないが、潤滑油を使わない機械は機能しない。)

1.1資金フローと金融仲介 byガーレイ、ショウ
1.1.1直接金融と間接金融
 金融仲介とは、黒字主体(最終的な貸し手)と赤字主体(最終的な借り手)の資金の流れをスムーズにすることである。金融には間接金融と直接金融の二種類がある(本源的証券の移転)。

間接金融:銀行が仲介する形の金融。(家計の預金を企業に貸し出す。家計は誰に貸し出されているかに関心を払わず、金融仲介機関である銀行に委ねる。)
直接金融:企業(赤字主体)が発行する社債や新株を購入して直接資金供給を行う。
※直接金融においても証券会社のような仲介役が存在する場合もある(ブローカー業務)が、黒字主体が自分のお金がわたる場所を把握している、という点で間接金融ではない(銀行の業務と証券会社の業務との間の垣根をファイヤーウォールという)。銀行という人のお金を好きなように運用できる機関は極めて特殊な存在。


1.1.2証券会社の業務と投資銀行
・ブローカー業務…内容は上記。証券会社はブローカー業務における手数料で利益を得ていたが、最近はネット証券の出現によって安い手数料でブローカー業務を営む業者が多数参入したため、証券会社の現状は非常に厳しく、コンサルティングなどによって活路を見出そうとする場合が多い。
・ディーラー業務…証券会社が自分で株を売買できる。売りや買いの集中によって株価に異変がある場合に証券会社が自己売買を通じて市場取引をスムーズにする。
・アンダーライティング業務
・ディストリビューター業務
・投資銀行業務

1.1.3経済全体の資金フロー
・市場型間接金融…市場を部分的に活用した間接金融。一つの企業の株のみを買う、という投資はリスクが大きいため多種類の投資をするのが望ましいが、一個人には難しい。そこで、投資信託(専門家が投資家のお金を株式、債権に運用する)や証券化商品、シンジケートローンという商品が売買される。
・今日、多数の最終的な貸し手(投資家)の資金を機関投資家がプールし、金融資産や実物資産で運用することでその成果を投資家に分配する資金フローが大きな役割を果たしている。
(図の政府、日銀の存在はまだそこまで気にしなくて良い)


1.2銀行の業務
 銀行とは長年特殊な存在として金融理論で扱われてきた。この授業でも銀行の役割は他の金融機関よりも強調する。
①預金業務
 信用金庫やJAバンクなどの金融機関は法律上「銀行」ではなく預金取り扱い金融機関であるが、機能としては経済学上の銀行であるから以後一括りに「銀行」と呼ぶことにする。
 銀行は個人の預金を預金者の了解を取らずに自由に運用できる。出資法の唯一の例外規定。
②融資業務
 預金を貸し出して資金運用を行う業務。この時の差額が伝統的な銀行の利益源泉であったが、現在はこの利益基盤が揺らいでおり(マイナス金利)、融資業務は大きな転換点を迎えている。
③為替業務
 東京から名古屋(内国為替)やニューヨーク(外国為替)にお金を送金する、というような業務。決済という業務にも密接に関わる。最近はコンビニのような銀行以外の経済主体も為替業務を行う。

1.2.1金融仲介の機能:銀行の機能
①決済機能
 お金の受け渡しを通じて債権・債務関係を解消することを「決済」という。実際の決済の形態は直接現金を一括で手渡す、という単純なものではない。
・流動性…明日お金が手に入るが今日はあまり持っていない、しかし今日欲しいものがあるという場合に備えていつでも支払えるお金をある程度準備しておく必要がある。このための現金をストックするのが銀行の役割。
・要求払い預金…いつでも好きなタイミングで引き出しが可能な銀行預金。普通の貸し借りでは「期限」があるので期限前に返す必要がないが、銀行の普通預金はいつでも自分の貸したお金を取り戻すことができる、という点で非常に特殊な債権・債務関係である。要求払い預金という仕組みは恐慌などの際の取り付け騒ぎを誘発するため、我々の金融システムを非常に不安定にするものである。
②期間変換機能
 借り手はできるだけ長い間お金を借りたい一方、貸し手はできるだけ短期でお金を貸したい。銀行はこのような二者を仲介して「短期で借りて長期で貸す」ことで経済を便利にしている。

1.2.2銀行の情報生産機能
 銀行は冒頭で述べた情報の非対称性を緩和する。貸し手は借り手の情報を正確に逐一把握したいが、一個人では難しい。情報には「この企業は〇〇を作っている」というようなハードなものから「この企業の社長は真面目に経営をしている」というようなソフトなものまで含まれる。
①プロの専門家
 これは自明な機能。銀行員はプロの専門集団であるから一般の貸し手よりも借り手の情報を調べることができる。
②長期的・継続的な取引関係
 1回だけの非協力ゲームでは囚人のジレンマに陥りやすいように一回限りの金融では借りっきりで返さない、という場合が多い(個人の貸し借りは1回限りになりやすい)が、銀行との貸し借りは長期的な関係になりやすい。このような繰り返しゲームを作ることで銀行は情報の非対称性をかなりの程度解決する。
③委任された監視者
 n人の家計が銀行に預け、銀行が一括して企業を審査することで社会的に見た調査費が大幅に浮く。(重複的な調査費用がなくなる)

④メガバンクと地域金融機関

1.2.3広義の金融の仲介機関の機能(サラッと流した)
・金融機関…幅広い投資家(預金者)から集めた巨額な資金をプールして本源的証券を一括購入し、貸し出しや資産運用を行う。
取引費用の節約…投資家一人当たりの取引費用を節約する。
リスクの分散…資金を様々な相手に分散して貸し出すことで、リスクの多くを分散する。

1.3新しい金融サービス
 最近の金融業界は情報通信技術の発達を背景に革命的な現象が起きている。(まだ学術的な定説はないっぽい)
・フィンテック
 銀行は従来のような「お金の貸し借り」に止まらず、情報通信技術を活用した新しい金融サービスを提供するようになった。それに伴い銀行は昔のように経済・法学部出身者に固まらず工学部出身者を雇うようになった。
・IT事業者仲介型の金融ネットワーク
 銀行と顧客の間にIT事業者が入ってきた。銀行に行かなくてもスマホさえあれば口座開設、融資ができる。銀行よりもIT事業者の方が利益を得ている現状がある(銀行業の儲かる部分だけを根こそぎ持っていき、儲からない事業を銀行にやらせる、というような側面すらある。これはIT事業者が複数の銀行を相手取ってビジネスを行なっていることが大きな原因である。銀行が手数料を多くかけようとしたら他の銀行に乗り換えることができるため、手数料は下がっていく。)。このようなIT事業者が金融業の中核に躍り出る現象は、顧客にとって便利である反面、銀行の収益減を加速させている。

・ブロックチェーンを使った決済
 決済ではお金がきちんと支払われたかどうかを確認できることが重要である。伝統的には信頼できる第三者機関(=日本銀行)が決済を確認していた(中央集権的)が、この仕組みは非常にコストが高い非効率なものであった。それに対し、最近のブロックチェーンという考え方では、支払いをブロックでつなぐことで全員が取引履歴を共有し、低コストで改ざんが困難な仕組みが成立する。(←これはまだ実用化には遠い)

2. 経済全体の資金の流れ①(最終的貸し手→金融市場)
 今回からの数回で、金融の流れの入口(最終的貸し手→金融市場)、出口(金融市場→採取的借り手)、中間(金融市場の内部)についての議論を行う。今回は「黒字主体」→「金融市場」の資金の流れ、特に貯蓄に関して見ていく。
 「黒字主体」→「金融市場」の資金の流れは、さらに細かく見ると貯蓄、資産運用の段階を持つ。

2.1家計の貯蓄行動
 家計は貯蓄を行うが、経済学における合理的な人間像によると「貯蓄」自体は目的とならない。(目的は消費。消費によって効用が上がることをミクロで学んだ。)家計は時間を通じた最適な消費計画の中でプラスの貯蓄やマイナスの貯蓄を行う。
 
2.1.1ライフサイクル仮説
 代表的な消費理論「ライフサイクル仮説」(by フランコ・モディリアーニ)によると、平均的な家計とは、若年期には所得が低く、キャリアを積むにつれて所得が上昇し、引退後の老年期に再び所得は低くなるが、所得が多い時多い消費、少ない時に少ない消費、とはならない(生涯を通じた消費の平準化)。なぜなら限界効用は消費が増えるにつれて逓減するからである(少なすぎる消費を嫌い、多すぎる消費を強くは好まない)。
→若い時には借金をして所得よりも多くの消費をするが、貯蓄が増加し借金を返済しきったとしても消費を増やすことはない。

<ライフサイクル仮説の意義>
 個々人で見ると消費は平準化しているが、一国全体をある時点で眺めると国内全体の貯蓄がわかり、また将来の予測も可能になる。日本は団塊世代が資産を取り崩すフェーズに移り、団塊ジュニアが貯金をするフェーズにいるため、国民全体の貯蓄は減少はしたもののまだプラスであるが、将来団塊ジュニアが老年期に入ることで経済全体の資産が減少するだろう。(退職による貯蓄→取り崩しへの移動は素早く起きる。ライフサイクル仮説が日本の金融市場に対して持つ意義はこの意味で非常に大きい。)

※ライフサイクル仮説は以下のような批判がある。
①若年期の流動性制約(借入制約)
 若い頃の借金は貸す側にリスクが伴う以上制約なしでできるものではない。住宅ローンは割と借りやすいが、それ以外の借り入れは困難である。
②老年期の非流動資産
 老年期の「資産」には、不動産などの現金化が困難な実物資産も含まれており、自由に切り崩せるものではない。(都心に5億円の土地を持っているが、現金化できず望ましい生活を送れない、みたいな例は数多い。)これからの日本では非流動的な資産をいかに流動させるか、が課題となっており、策としてリバースモーゲージがある。
③世代間の所得移転
 遺産と贈与による若年期の資産(世代間の金銭授受)がライフサイクル仮説では加味できない。

2.1.2. 2期間モデル
 現在と将来だけで消費を決定する消費者を想定してライフサイクル仮説を考えよう。
 (要するに消費平準化は二期間のみで見ても理論的にかなり特殊なケースだよ、という話かな?)

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2.2資産の運用
 経済主体を危険回避的とみなすと、資産選択を行う際の一つの重要な基準として、以下の2点が挙げられる。
①資産の期待収益率(リターン)
②危険度(リスク)
→期待収益率など他の条件が等しければ、収益率の不確実性がより小さい投資先が望ましい、ということになる。

2.2.1期待効用仮説
 人は平均利得が多ければ投資を行うわけではない。(サンクトペテルブルクのパラドックス)すなわち、人は期待利得額ではなく、利得から得られる効用の期待値を最大化する。(銀行預金、国債に預けることに比べて株式投資は平均収益は桁違いに多いにも関わらず人々は全資産を株式投資するわけではない。)

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<客観的確率と主観的確率>期待効用仮説に対する批判
客観的確率:各事象が実現する確率が客観的にわかっている。サイコロの各目が出る確率は1/6、など。
主観的確率:各経済主体が各事象が発生する確率についての予想を形成
 経済主体にとって経済事象は実現値や期待値、分散はほとんどの場合わからない主観的確率である(コロナがいつ収束するか、の客観的確率は存在しないが、人々は主観的確率に基づいて行動する)。期待効用仮説は人々が客観的確率を得た上で意思決定を行う、と考えている。
cf. エルスバーグのパラドックス

<ナイト流確実性>(原論で不確実性と不確定性って言っていたやつこのことだっけ?)
リスク:ある確率的な事象に関して予想を形成する際に、既知の確率分布のもとでその実現値のみがわからない。
不確実性:確率分布が未知であるため、実現値だけでなく期待値、分散もわからない。

<アレのパラドックス>
 人々は期待効用仮説では理解できない(独立性の公理に反した選択)ような行動をとることがある。
→プロスペクト理論「利益を得られる場面ではリスク回避を優先し、損失を被る場面ではリスクを背負う。 人は富そのものではなく、富の変化量から効用を得る。」
→人間がこんな非合理的な意思決定を行うなら合理的に動く人工知能を使えば最適な投資行動をとれるのでは?という考えが広まりつつある。(ビッグデータを集めて最適な投資スキームを決定するプログラムを組むわけだが、過去に起きたことがないようことが起きると人工知能は対応できない。現在のコロナウイルスによる金融市場の乱れはこのことが原因では?)

2.2.2平均・分散アプローチ(期待効用仮説の特殊ケース)
 非常に有意義な考え方だが、「効用関数が二次関数である」or「確率分布が正規分布である」という条件を満たす必要があるなど、現実的ではない。

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2.2.3期待効用仮説と平均・分散アプローチの関係


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