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ビヨンド・キャピタリズムの時代を見据えて

エディンバラの語学学校で、ロシア出身の青年と『現在のロシアは資本主義社会と言えるか』というテーマでしばらく議論をした。
ちょうど生まれた頃にソ連が崩壊しロシア連邦へと国家体制が移る激動の時代を生きてきた彼は、『今のロシアは社会主義的でもあるし、資本主義的でもある』と語った。

そして『理想の社会は、その2つを両立することだ思う』とも。

一方で、日本は国際社会において北欧と並び『もっとも成功した社会主義国家』と評されることがある。
ロシアの彼も、日本はちょうどよくバランスのとれた国だと思うと話していた。

国内にいると先行きのくらいニュースばかりが入ってくるが、海外の若者たちと話しているとそれぞれの国にそれぞれの問題があり、桃源郷なんてものはありえないという当たり前の現実を突きつけられる。

よく引き合いに出されるアメリカも、Netflixで配信されているハサン・ミサンジのスタンドアップコメディを見ていると日本の社会問題がかわいく思えてくるくらい若者たちはシビアな環境に置かれている。
高齢化も年金問題も日本とまったく同じである一方、保険制度はまったく整っていないに等しい。
ニュースで超高齢化社会を『シルバー・ツナミ』と表現することを知ったときは日本の課題先進国ぶりに苦笑してしまった。

ではこうした問題の根源は何かというと、資本主義の加熱からくる行き過ぎた効率化と合理化にあるのではないか、と私は思っている。

最近行って心地よかった街はどこも、人々が『今』を大切に生きているという共通点があった。

資本主義はあまりに行きすぎると、未来のために今を犠牲にし続ける力学が働く。
『今、ここ』を感じることをおざなりにし、幸福を感じる暇もないままに命の炎を燃やしていく。

鈴木大拙は『東洋的な見方』の中で、西洋的なものの見方をこのように評した。

西洋は数がもとになるから、まず主客の両観から始まって、次から次へと分化してゆく。自然、力の世界が西洋的なるものの基盤になる。科学の発達から、技術の正確さ、巧緻さに至るまで、東洋よりは、ずっと進んでいる。それから組織を立てることが西洋の得意とすることである。したがって人間も機械の一部になり、組織の中に溶け込んでゆく。ほんとうの自由もなくなり、本来の創造力も減殺されがちである。
これが西洋今日のなたみである。神経病になって、何かといらいらするようになるのも、やむをえぬ。

私はこれまで数多くの論者が日本的・東洋的なものの見方について書いた評論を読んできたが、すべてに共通するのは『知的にわかる前に情的にわかることが人間らしさである』と説いていることだ。

知的にわかるとは、ある対象を二つにわけて善悪や勝ち負けを決め、再現性を持って機械的に物事を成し遂げていくことである。

この姿勢が私たちの文明を発展させてきたことは自明の理であり、今からこれに逆行しようとすることは現実的ではない。

しかしこの10年ほどの間に欧米でも禅をベースとするマインドフルネス的な考え方が市民権を得てきているように、わからないものをわからないままに受け止めるという考え方が見直されているように思う。
ちなみにエディンバラでも、ほぼ全ての書店に禅関連の書籍が平積みしてあり、その人気に驚かされた。

日本を含め、これまで先進国は軒並み経済指標の成長を第一目標として発展してきた。

貧すれば鈍すという言葉がある通り、幸福度を向上させるためには金銭的な豊かさも必要ではある。
しかし資本主義と自由主義を突き詰めたアメリカですらも行き詰まりを感じているのを見るにつけ、先進国としての務めは経済成長の次のフェーズを見せることなのではないだろうか、と私は思っている。

これまで10ヵ国ほど訪れた中で、街ゆく人や旅の中で接する人々が幸福そうに見えた街は、必ずしも経済的に豊かな場所ばかりではなかった。
それは発展途上という意味ではなく、一度栄えた場所がゆるやかに衰退していく姿も含んでいる。

自分が身を引いて相手を優先してあげられる心の余裕や、急いだり焦ったりしない時間の余裕、決して高いものでなくても満足いくものを手に入れられる金銭的余裕。

それこそが『真の豊かさ』なのではないかと思うのだ。

ポスト資本主義的存在としての社会主義が終焉を迎えてまもなく20年を迎えようとしている今、私たちは資本主義の『代わり』を作るのではなく、資本主義を内包しながらも『超えていく』アプローチが必要なのかもしれない。

それを私は『ビヨンド・キャピタリズム』と名付けたい。

真の意味で豊かに生き、そのために豊かに消費すること。

2020年の私のテーマは、資本主義を超えた豊かさの再定義にあると自負している。

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