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D2CとしてのPBがとるべき発信戦略

今年に入って急激に市民権を得てきた『D2C』だが、その定義は曖昧になりつつある。
ブランドが増えるにつれて競争も激化し、アメリカでは多くのD2Cブランドが百貨店や小売店と提携し卸売したり出店したりしている。
最近では直接小売だけではなく、デジタル施策を中心にしたブランドという意味で『デジタルネイティブブランド』と呼ばれることもある。

こうして時の経過とともに定義が変わり続けるD2Cだが、直接商品を届けるという本来の意味に立ち返ればプライベートブランド(PB)もD2Cと呼べるのではないかと私は考えている。

PBといえば、ほんの5年ほど前までは小売店がメーカー製品をダウングレードした商品のイメージが強く、『ジェネリック◯◯』と揶揄されることもあった。

もちろん今でもスーパーのPBを中心にそうした側面があることは否めないが、この2、3年でPBはひとつのブランドとして地位を得始めてきているように思う。

特に顕著なのがコンビニPBで、大手三社の店内はあっというまにPBだらけになった。さらにチルドスイーツやおにぎり、パンを中心に新商品がでるごとに話題になり、発売を心待ちにするファンも増えた。

ファッション業界では、マルイの『ラクチン』シリーズや分社化した伊勢丹の『ナンバートゥエンティワン』が成功事例としてよく語られる。

また、もとを辿れば無印良品もはじめは西武百貨店のPBとしてはじまり、ブランドとして独立して今にいたるPBの草分け的存在だ。

これらのPBに共通しているのは、既存メーカーのヒット商品を模倣するのではなく直接顧客と接する小売店だからこそできる『顧客の声を生かす』商品開発にあるといえるだろう。

小売店は、POSデータを豊富に持っているのはもちろん、来店時点からデータが取れていれば来店と購買の差分データも出すことができ、さらに販売員が顧客との会話から吸い上げた定性データも潤沢に持っている。
自社発行のクレジットカードやポイントカードがあれば顧客を時系列で分析したり、特定顧客だけ抽出して販促DMを送ることもできる。

D2Cの勝因が『顧客との近さ』にあるとすれば、PBもまた顧客に近い小売店だからこそ顧客のペインポイントを理解し、価格ではない価値で商品を作るD2Cの一種であると言えるのではないだろうか。

一方で、『PBもD2Cの一種である』と言われたときのうっすらとした違和感は、彼らの情報発信への姿勢にあるのではないかと私は考えている。

PBは顧客との対話によって生まれた商品が多いものの、その開発秘話や作り手のこだわり、思いが物語として表に出てこないことが多い。
またInstagramでストーリーズを使ったアンケートやライブ配信を行ったり、店舗ツアー、工場ツアーをハイライトに固定しておくといった海外のD2Cブランドであれば当たり前にやっている施策を取り入れているブランドは皆無と言っても過言ではない(PBに限らず日本のブランドでこうした施策に積極的なところはまだ少ないのが現状だが)。

例えばマルイはラクチンシリーズの開発に絡めて『シューズラボプラス』というコミュニティサイトを運営しているが、こうしたコミュニティ起点のオウンドメディアは情報発信をメインにしたメディアと比べても集客ハードルが高い。

靴のお手入れ方法などのHow to記事のSEOで多少流入があったとしても、SEOで訪れた読者が再訪する可能性は極めて低く、時事性の高いテーマ以外はSNSからの流入も見込めないからだ。

おそらくこうしたオウンドメディアで実現したいことは
・ブランドのファンを増やしたい(=ブランド想起回数を増やしたい)
・顧客とのコミュニケーション起点にしたい(=顧客の声を吸い上げたい)
・コンテンツ軸でブランド認知を広げたい(=新規顧客を開拓したい)

の3つに集約されるのではないかと思う。

その場合重要なのは『顧客の生活導線にコンテンツを置くこと』である。

これは顧客の接触時間が長いプラットフォームに自社コンテンツを配信することだけではなく、顧客が自発的に投稿したくなるしかけを作っていくことも重要だ。

だからこそ各社ともにこぞってSNSアカウントを開設し、投稿キャンペーンを展開し、SNS上で関係を築こうと躍起になっているのが現状だ。

一方で、SNSの投稿はストックコンテンツになりにくいというデメリットもある。
投稿はタイムラインの中であっというまに流れ、消費されてしまう。

なので、もし私がどこかのPBのマーケターだとしたら、noteをフル活用すると思う。
noteを使う利点は下記の3つだ。

1. フォロワーの流入とSEO流入両方が見込める
2. 顧客参加型企画が容易に開催できる
3. オウンドメディアでマネタイズができる

1. フォロワーの流入とSEO流入両方が見込める

オウンドメディアをnote上で展開する大きなメリットは、フォロー機能にある。自社でサイトを構築した場合、記事への流入を増やすにはSEO対策やSNSでの発信が必要だが、検索するようなテーマでもなくSNSでバズるような内容でもないけれど、ファンにはしっかり伝えたい記事がオウンドメディアのコンテンツには多いはず。
しかし読まれるためにはまずSEO流入を見込んだHow To系の記事を仕込む必要があり、それによってメディアコンセプトがブレるケースも多い。
さらにいえば、SEOで流入した読者は目的の情報さえ得てしまえば離脱することも多く、訪問者数は増えているのにコンバージョンには結びついていない…というケースが散見される。
またSNSでの拡散を見込んだとしても公式アカウントからの発信だけでは毎回話題に火をつけることは難しく、インタビュー相手の知名度に依存する=費用がかさむことになってしまう。ちなみにこのケースも著名人のファンが読むことで一時的に訪問者は増えるものの、ブランドのファンに転じてくれる読者はほんの一握りである。

一方で、フォロー機能があれば少しずつファンとしての読者が増えていく。
たとえばある記事がバズったとして、その記事をきっかけにフォローさえしてもらえれば次回以降の記事がその人のタイムラインに表示される。
フォロー機能は、読者を資産化していく機能でもあるのだ。

さらにnoteは先日「note.com」への移行もあり、SEOにも強くなっている。
検索ワードによってはトップにnote記事がでてくることも増え、SEO的な観点で見ても自社サイトを運用しながらSEOを委託するよりはるかに簡単にオウンドメディアが構築できる。

2. 顧客参加型企画が容易に開催できる

もちろんフォローだけであればTwitterやInstagramでも十分である。
しかしそれらのSNSに不足しているのは、『コメントをつけながらまとめる』機能だ。

たとえば商品の写真を投稿してくれた人がいた場合、『◯◯の活用アイデア』のようなテーマでコメントをつけながらまとめる機能はTwitterやInstagramにはない。

強いて言えばTiwtterにはモーメント、Instagramにはハイライトを使うことで同様の施策は可能だが、コメントがいれられなかったり一覧性が低かったりとメディアコンテンツ的にまとめるには不足が多い。

またSNS上で集約したコンテンツは検索にひっかかりづらいのも難点だ。

たとえば『セブンの商品を使ったクリスマスディナーアイデア』や『マルイのラクチン冬コーディネート』などのテーマでSNS上で募集した投稿をnoteに埋め込んでまとめれば、コメントをつけて解説したり商品ページのURLを入れられるのはもちろん、『クリスマスディナー』『ラクチン 冬コーデ』などのワードで検索されるストックコンテンツになる可能性も高まる。

このように顧客参加型キャンペーンを一過性のもので終わらせず、コンテンツ化して次のファン獲得や購買誘導に生かすことができるのが大きなポイントだと私は考えている。

また、こうした顧客参加型企画はnote内で完結させることもできる。
特定ハッシュタグで投稿してもらい、その中から投稿をピックアップして紹介するコンテンツも企業アカウントの中では人気が高い。

note上で企画を行うことのメリットは、note内に他のnoteを埋め込んだ際に、相手に通知がいくことにある。
書いた本人からすると『公式に取り上げられた!』という喜びがあり、SNSでシェアしたりまた別のnoteを書く動機につながりやすい。

たとえばキリンビールが実施した夏のコンテストでは下記のような投稿ピックアップを定期的に行っていた。

オウンドメディアというと『自分たちでいちからコンテンツを作らねば』と思い込んでしまいがちだが、このように顧客参加型の企画を実施することによって顧客と共にコンテンツを作る共創スタイルのメディア運営が可能になる。

さらにこれまでのような『ブランドが伝えたいことを押し付けるように発信する』スタイルから、ピックアップやいいねをつける行為を通して顧客との関係性を作る本当の意味でのコミュニティメディアを作ることができるのだ。

3. オウンドメディアでマネタイズができる

オウンドメディアの継続が難しい理由のひとつに、その経済効果が示せないという点がある。
どれだけコンバージョンに寄与しているのか、ROIが測れないので予算増額の交渉が難しい上に真っ先にコストカットの対象になってしまう。

しかしたとえばオウンドメディア自身がマネタイズできるようになれば、独立採算で運用していくことも可能になる。

noteではコンテンツを販売することができるため、たとえば定額課金マガジン購読者限定でイベントに招待したり、買い切りマガジンでやや踏み込んだ開発の裏側を配信することもできる。

またnote上でのマネタイズだけではなく、配信したコンテンツをまとめて本にして販売するといった派生的なマネタイズの可能性もある(ちなみにAmazonウィジェットをプロフィールに入れ込むこともできる)。

これまで経済的観点から発信されてこなかった有益なストーリーを世に出すためのマネタイズという考え方は、企業の姿勢としてとても健康的だと私は思う。

ブランドの商品だけではなく、そのストーリーそのものにも価値があることの証拠でもあるからだ。

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PBに限らず、これからのブランドはただ発信するだけではなく顧客との関係を築きながら、会話するように自分たちのことを伝えていく必要がある。

オウンドメディアから、コミュニティメディアへ。

ブランドの『伝え方』は、今まさに変革を求められている。

※Disclosure:筆者は2019年7月よりnoteのプロデューサーを務めています。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。


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