結果でしか、評価してもらえない世界だから
藤浪が、今日も燃えている。
打たれているという意味でも燃えているし、登板結果が報道されるたびにニュースサイトやSNSで話題になってしまう、という意味でも燃えている。先発から中継ぎになってからは登板機会が増えた分、体感としては毎日のように燃えている。
いちファンとして、はじめは冗談めかして「まあこれが藤浪だから」なんて軽口を叩いたりもしていた。しかしあれよあれよと悪化していく防御率を目にしていると、ファンであればあるほど口が重くなっていく。そうやってファンが何も言えないでいるうちに、藤浪はあちこちで過去の発言を掘り返され、大谷と比べられ、インタビュー内容をいじられ、「どれだけ叩いてもいいコンテンツ」になってしまった。
自分の好きな選手が、登板するたびにネットで散々叩かれているのを見るのはファンとして心が痛いことこのうえない。でも同時に、これがプロの世界なんだよな、と思う自分もいる。
ちょうど同じ時期、メジャー移籍一年目の吉田正尚も不振に喘ぎ、野球ファン以外からも失望のコメントが集まっていた。私は日本の反応しか見ていなかったけれど、本国アメリカでの批判はどれほどだっただろうか、と想像するだけでも恐ろしい。
しかしマサタカはあっというまにアジャストし、今では4月の不調はなんだったのかと驚くような成績をあげている。その結果、日米どちらのファンも手のひらを返したように彼を称賛し、「マサタカならやってくれると思っていた」と口にするようになった。
世間の反応なんて無責任なもので、たった一週間足らずでその評価はコロコロ変わる。背後にある物語が意味を持つのは結果を出したからなのであって、どれだけ努力を重ねていても、結果がでないうちはその努力が認められることなんてない。
だから、結果を出すことでしか見返す方法はない。残酷かもしれないけれど、プロの世界はやっぱり「結果がすべて」なのだ。
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それでもいちファンとしては、選手たちの背後にある物語が好きだ。結果が出ようと出まいと、そこにいたるまでの物語に、私は励まされることが多い。
どんな大エースも、栄光のときはほんの一瞬だ。喜んでいる姿よりも、苦しい背中を見守っている時間の方が圧倒的に長い気すらする。
だから、彼らの努力や苦しみを知らない人たちに結果だけであれこれ言われることを歯痒く感じるときもある。現代野球において、プロの第一線にいて努力していない選手なんていない。本人が一番、結果を出すことに飢えているのだから。
でも、プロの世界は「どれだけ努力したか」で評価してもらえるわけではない。結果はすべて数字で表れ、毎回勝ち負けも決まる。
どんなにいい球を投げていても一発打たれたら負けだし、どんなにスイングスピードが早くても当たらなければ意味がない。逆に、球が遅くても抑えられればいいピッチャーだし、ホームランが打てなくてもバントやカットがうまければそれはそれで評価される。
結果さえよければ、すべてよし。
逆に言えば、結果がでなければすべてだめ。
そんなシビアな世界に、彼らは生きている。いや、本来は私たちも、そんな厳しい世界に生きているはずなのだ。
だからこそ私は、思い通りの結果がでない時期の選手に思い入れを強めてしまう。普段の生活ではなかなかここまで表立ってシビアに結果を求められることはないからこそ、自分の成績が全世界に公表され、その結果についてあれこれ言われる心境を疑似体験させてもらっている気持ちになるのだ。
たとえば営業成績やプレゼンの結果を全世界に公開されることなんてないだろう。社内で何かミスを犯したとしても、せいぜい部署内や社内に知られるくらいで、友人知人にまで知れ渡ることなんてそうそうない。ましてや、そのミスを顔も知らない人から責められたり、もっと成績をあげろと叱咤されることもない。
でも何かの分野でトップを走るということは、本来はそういう衆人環視のなかで結果を出していかなければならないものだと思う。経営者にしても専門職にしても、トップランナーとして有名になればなるほど、数字という結果で評価される。こんな努力を重ねたけれどダメでしたとか、プライベートでこんなに大変なことがあって、なんて物語はなんの意味ももたない。
そんなトップ・オブ・トップの世界まで上り詰めたいかどうかはさておき、でも本当は仕事というのは、誰にとってもそれだけの緊張感が必要なものなんじゃないかと私は思う。だから、シビアに結果を追及されるプロの世界で戦う彼らの姿を見ることで、いつも背筋を伸ばしてもらっているような気がする。
いちファンとしては、結果が出ようと出まいと、選手たちのことが大好きで大切なことに変わりはない。苦しさをどうにか乗り越えようとする彼らの物語が、いつも私を励ましてくれる。
その一方で、プロ野球という世界がどんな美しい物語も意味をなさない、結果だけがすべてであることもまた、私が惹かれる理由でもある。だから、好きな選手にはやっぱり勝ってほしい。活躍してほしい。そう願う気持ちが強くなる。
とはいえ、選手の評価なんて、ユニフォームを脱ぐその日までいくらでも変動しつづけるものだから。
いつか球場を去らなければならないそのときに、「いい野球人生だった」と思えるように。そのためにも、あなたの物語がどうか結果につながりますように。日々、ただそれだけを祈っている。
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