理念の優先順位

「うまい、やすい、はやい」。
誰もが一度は聞いたことがあるであろうこの吉野家のキャッチコピーがこの順番になったのは、ほんの20年ほど前のことだと知ったのは昨日のハフライブでのことだった。

吉野家はもともと魚河岸で働く人たち向けに、仕事の合間でもさっと食べられるメニューとして提供されていた。だから優先順位は「はやい」が一番にきていたのだという。

そこから高度経済成長期を経て「はやい」「やすい」という機能面の価値だけではなく「うまい」という情緒的価値の重要性が高まったことで「うまい」を一番に据え、2005年に現在の「うまい、やすい、はやい」の順番になったとのこと。

▼詳細は牛丼100年ストーリーのページもあわせてどうぞ。

この話を聞いて私が一番感じたのは、企業理念内にも優先順位をつけることの重要性だ。

企業理念が単なる飾りに成り下がっているか、企業の指針を決める柱になっているかは、この優先順位付けができているかどうかにかかっているのかもしれないと思ったのだ。

理念は、自分たちが一番大切にすべきこととして、迷った時に立ち戻るための羅針盤の役割を果たす。しかし複数の項目をあげている場合、それぞれの要素が対立することがもある。そうなったときにどれをもっとも優先すべきなのかが人によって・シーンによって異なると、組織として一枚岩になるのは難しい。

これは理念のみならず戦略でも同じことが言える。
どの数値も大事だからこそ、どこに資源を投下するとすべての数値が改善するかを見極めるのが戦略であり、優先順位がバラつくと資源を有効活用できず中途半端に終わってしまう。

だからこそ、大事な要素を絞り込んだ上でさらに優先順位をつけ、「迷ったときにはこれを一番優先させる」と決めることが、現場のやり切る力につながるのではないかと思うのだ。

ちなみに吉野家では長期戦略のテーマを「ひと・健康・テクノロジー」と定義しているが、これも順番を重視して決定されたのだという。特に「ひと」と「テクノロジー」はともすると相反する要素だが、「まずひとを優先する」という考え方があるからこそ、頑なに券売機は導入しないし、店舗調理による微妙な味の違いも大切にしている。

1200店舗もの巨大チェーンであってもスピード感のある意思決定ができるのは、経営層のみならず現場まで明確にこれらの優先順位が行き渡っているからなのだと思う。

昨晩の配信では、牛丼から派生してブランディングやSDGs、D2C化する時代における店舗の価値など話題は多岐にわたった。

どんなテーマに対しても「吉野家はこう考えている」と田中さんが明確に語られていたのは、大事にすべき優先順位を全員が理解している自信あってこそのものだと思う。

そして今回印象的だったのは、吉野家が自分たちの仕事を社会インフラのひとつと捉えていたことだった。たった20円の値上げで、5%の顧客が「昼食抜き」を選択してしまうことがある。災害によって、温かいごはんが食べられなくなってしまうこともある。そうした「弱い立場」にも寄り添い、おいしいものを少しでも安く提供しようとする努力は、まさにSDGsの「誰一人取り残さない」を体現している。

SDGsというとエコやエシカルのイメージが強く、使っている容器を変えたり原料のトレーサビリティばかりに注目が集まりがちだが、真摯に本業に邁進することが社会貢献になることこそが、企業として理想のあり方なのではないかと思う。

もちろん飲食業界はまだまだ労働環境の問題も根深いし、ソーシャルグッドのために取り組むべきことも多々あるだろう。

ただ課題が大きければ大きいほど、あれもこれもと欲張らず明確に優先順位をつけ、ひとつひとつの仕事に邁進していくことで結果的に課題解決につながることが多いのではないだろうか。

世の中には、大切にしたいことが多すぎる。
だからこそ自分が「できること」を見極め、優先順位をつけて取り組むべきなのだと思う。

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