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買い物は「誰と付き合いたいか」を選ぶこと

「もし今10万円が手に入ったら、何に使いますか?」

私は消費者インタビューをする際に、必ずといっていいほど使ってきた質問だ。
普段どんな買い物をしているか、何から情報を得ているか。
直接こうした質問を投げかけるよりも、10万円の使い道を聞く方がリアルな話を聞けることが多いからだ。

質問された側は、予想していなかった問いに毎回困惑の表情を浮かべる。
これまで何十人もの人に同じ質問をしてきたけれど、即答できた人は1人もいなかった。

それは10万円が絶妙な金額であることも理由のひとつだと思う。

20万円を超えると、モノよりも旅行や引越し、資格の勉強など無形の価値にお金を払おうと考える人が増える。
逆に5万円〜9万円の範囲だと、以前から欲しかった靴やバッグ、家電が真っ先にくることが多い。

「10万円」という金額は、目の前の欲望よりは少し遠く、でも未来のキャリアや人生観ほど遠すぎない、絶妙な立ち位置の理想を描き出すのだ。

これまでは例え話でしかなかった「10万円が手に入ったら」という問いが、まさか現実のものになるとは思いもしなかった。

給付金の10万円をどう使うか。
すでにSNSでもそれぞれが10万円の使い道についてあれこれ議論している。

買い物は投票行動、と言うけれど。

世界的なパンデミックが発生してから、「応援としての消費」がにわかに盛り上がりを見せている。
私もいくつか応援の意味を込めて買い物をしたり、近所の飲食店でテイクアウトを利用してきた。
誰にお金を払うかを決めることは、未来を決めることでもある。
だからこそ、少しでも自分が共感する人たちがいるところにお金を使いたいと多くの人が考えているはずだ。

その一方で、この経済危機は数年単位で続くことが予想されている。
一瞬の応援だけで根本的な解決をはかることはできない。
本当に価値あるものを残していくためには、一回きりの盛り上がりではなく「長く付き合い続けること」が重要だとと私は考えている。

そして長く付き合うためには、消費者側の一方的な支援ではなく双方が価値を生み出す関係性が必要だ。

つまりもしお店を応援するのなら、これから続く関係性を作るきっかけとしての消費を考える。
それこそが新しい世界を生きる上で幸福度を高める秘訣なのではないかと思うのだ。

「つながり」を見直すための消費

振り返ってみれば、この数年間で思い出に残った消費はnoteがきっかけになったことが多かった。

今や私の制服ともなっているfoufouのワンピースとの出会いも、デザイナーであるマールさんのnoteを読んだことがきっかけだった。

昨年には念願のイケウチオーガニックさんのタオルも購入したし、

Mr. CHEESECAKEのチーズケーキも、木村石鹸さんのシャンプーやホームケアグッズも、彼らのnoteを通してその考え方や姿勢に共感したからこそ手に取ったものたちだ。

そしてモノに込められた思いだけではなく、どんな姿勢で日々働いているのか、何を課題に感じて、今どんな挑戦をしているのかをリアルタイムで知ることができる関係性だからこそ、これからも長く付き合い続けていきたいと思うブランドばかりである。

私は昔から「30歳になるまでに自分の行きつけを持ちたい」と考えてきた。
自分の目と足で開拓したお気に入りを持つことが、大人の証だと感じていたからだ。

世の中には数え切れないほどのモノやブランドがあり、それらをキュレーションするメディアも星の数ほどある。
しかし「なんとなくよさそう」という判断基準で選んだものは、モノがもつ性能以上の価値を持たない。

買い物はひとつのコミュニケーション手段でもある。
消費は、購入からはじまる作り手と使い手の関係づくりの側面を持つ。

「お店とお客様」という匿名の関係性から、「私とあなた」の関係性に発展するには、長い時間と深い関わり合いが必要だ。
他の誰でもない「私」として接してもらうことこそが、消費者としての幸福を作り上げていく。

一方で、インターネットが発達した今はお店との関わり合いは必ずしもモノの売買だけではない。
有料イベントやワークショップに参加したり、お店の情報を周りにシェアすることも関わり方のひとつのかたちだ。
noteであればサポートもできるし、有料noteやサークルといった無形の価値にお金を払うこともできる。

家の広さや好みの問題でモノを買うという関わり方はできなくとも、他のかたちで長く続く関係性のきっかけをつくることは可能だ。

「10万円が手に入ったら、何に使いますか?」

私も自分自身にこの問いを投げかけてみた。
そこで真っ先に考えたのは、これから関係を紡いでいきたい人にサポートをすることで、きっかけづくりをしていきたいということだった。

お店やブランドはもちろん、自治体やNPOなど、私たちの暮らしの豊かさをかたちづくってくれている人たちはたくさんいる。
特に観光業や文化活動は壊滅的な打撃を受けており、私も微力ながら何か力になれることはないかと常々考えている。

サポートや商品購入、有料コンテンツの購読は、それ自体では単発的な支援になってしまうかもしれない。
でもお金を使ってすぐに忘れてしまうのではなく、むしろそこから関係をはじめていきたいと思える人たちと、私の10万円をシェアしていきたい。

自分が欲しいものではなく、誰とどんなつながりを作っていきたいか。
消費を通して自分の関わる人を豊かにしていくことが、私のミッションでもある「知性ある消費」につながっていると信じている。

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この文章は、freeeがnoteで開催する「#給付金をきっかけに」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

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