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超主観的・美しい小説タイトルTOP10

ビジネス書は人からのおすすめや「今年読むべき良書10選」といったまとめに頼ることが多いのですが、小説だけは前評判を一切入れずにタイトルだけ見て"ジャケ買い"することが多い私です。

小説は有意義かどうかよりもただただ美しい表現や世界観に浸りたい、という理由で選ぶこともあって、そういう気分のときはタイトルでピンときたものの方がしっくりくるからです。

本屋さんでタイトルを眺めながら手にとって、装丁の美しさもじっくり吟味しつつ今の自分が"これが好き"と感じる作品を選び取る。

忙しい日々に流されて、自分の感性が鈍ってきたなーと感じたらいつもそうして自分をリセットしています。(こうして積読が溜まっていく)

小説のタイトルはビジネス書のように長い副題が入ると興ざめしてしまうもので、一言でその中身や世界観を言い表すタイトルをつけるのは至難の技。

私自身もnoteやオウンドメディアの記事タイトルをつけるときは非常に悩みます。

そこで名タイトルにその極意を学ぼう!ということで超主観的な美しい小説タイトルトップ10をつくってみました。

10.花のあと(藤沢周平)

藤沢周平作品はどれもタイトルのセンスがいいので「蝉しぐれ」とも迷いましたが、読み終わったあとのタイトルの意味にグッときたのでこちらをピックアップ。

もともと江戸町人を題材にした作品に目がない私ですが、池波正太郎や山本周五郎、佐伯泰英に比べると藤沢周平の作品は感覚が現代に近くて女性でも読みやすいのでおすすめです。

花のあと

9.喋々喃々(小川糸)

今回ピックアップした中で10作品の中で唯一作者が存命している作品です…w(個人的に大正〜昭和中期にかけての作品が好きなので)

喋々喃々という言葉の意味は「男女がうちとけて小声で楽しそうに語りあう・こと」なのですが、この楽しげで穏やかな言葉の意味と、四文字熟語で古風な言い回しという点が小説の雰囲気をよく表しています。

全体的に温かく幸福感漂う作品にも関わらず、根底にある切なさや複雑な設定がちょっとビターな大人の小説で個人的にも大好きな作品のひとつです。

喋々喃々

8.高慢と偏見 (Pride & Prejudice)(ジェーン・オースティン)

普段海外小説をあまり読まないのですが、この作品だけは何度も読み返すほど大好きな一冊。

新潮版では「自負と偏見」だったり、映画版では「プライドと偏見」だったり、頭の「Pride」の訳が作品によって様々なのですが、個人的には「高慢と偏見」という訳が一番好きです。

ただのプライドではなく、自分自身の地位に対する自意識を表現するのに「高慢」という言葉がしっくるくるような気がするので。

あと原題の「Pride & Prejudice」がそもそもセンスあるなと思います。

海外文学タイトルの中でもタイトルセンスを感じる作品です。

高慢と偏見

7.雨滴抄(白洲正子)

白洲正子の◯◯抄シリーズはどれも装丁まで美しくていつか全種類揃えたいなと思っているのですが、彼女の文章は中身も表現も玄人好みというか気軽に手をだせるものではないのでなかなか読み進められていません…笑

数あるタイトルの中でも「雨滴抄」は日本人らしい感性のタイトルで個人的に好みです。あと「風姿抄」も好き。

雨滴抄

6.潮騒(三島由紀夫)

三島作品の中でもダントツで美しい小説がこれ。

普段は小説の中にバリバリ哲学を込めてくる三島ですが、潮騒に関しては彼の美麗な表現をただただ愛でるための作品として私の中で位置付けられています。

「潮騒」というタイトルから連想される爽やかな海のさざめきそのままに、小さな島の中で起きる純愛を美しく描いています。

仮面の告白」「金閣寺」がダメだった人も、これなら読めると思うのでぜひ三島入門作品として手に取ってみていただきたい一冊です。

潮騒

5.細雪(谷崎潤一郎)

細かい雪と書いて「ささめゆき」と読む、日本語自体の美しさを感じさせるタイトル。

上流階級の四人姉妹の暮らしぶりはタイトル同様美しく、おとぎ話の中のお姫様のよう。

暮らしの中に季節感のある描写が多く、話の起伏は少ないものの飽きずに楽しめる作品です。

谷崎作品は装丁の一貫した美しさも好きなポイント。

細雪

4.驟雨(吉行淳之介)

吉行淳之介もタイトルのセンスが秀逸な作家の一人。

「原色の街」「薔薇販売人」など、思わず興味を引くシンプルなタイトルが多いのが特徴です。

その中でも「驟雨」は彼の作品全体に流れる仄暗い感じというか、拭い去りきれない絶望感の漂う名タイトル。

彼の作品は全体的に娼婦を題材にしたものが多く、吉原の時代とはまた違う昭和ならではの赤線の切なさと悲しみを美しく昇華させる作家だと思います。

驟雨

3.春の雪(三島由紀夫)

私が三島文学にハマったきっかけであり、三島作品の中で一番読み込んでいる作品です。

春の雪単体で読んでも美しく胸にせまるものがあるのですが、「豊饒の海」シリーズ4作品を通して読んだあとにもう一度この春の雪を読むと、タイトルの意味と美しさにハッとさせられます。

豊饒の海シリーズの根底にある「色即是空、空即是色」という仏教の教えを改めて感じさせるタイトルです。

春の雪

2.蜜のあわれ(室生犀星)

昔金沢に旅行したのをきっかけに室生犀星を読むようになりました。

世界観が独特というか現実とファンタジーの境目がよくわからなくなって混乱させられる印象が強い作家です。

この作品はまだ読めていないのですが、タイトルと「むせ返るほど甘美な世界」という評価に惹かれて近々読もうと思っている一冊です。

蜜のあわれ

1.美徳のよろめき(三島由紀夫)

私の中でもっとも美しいタイトルとして長年トップをひた走っているのがこの三島由紀夫の「美徳のよろめき」。

これほど完璧に美しいタイトルはないのではないかと思っています。

小説の中身としてはいわゆる不倫小説なのですが、失楽園のようにどこまでも堕ちていく情熱的な愛ではなく、主人公がフラフラしている感じがこの「よろめき」というタイトルに込められている印象です。

暇を持て余した上流階級の奥様が、その育ちのよさから時々よろめいてしまう様を美しく描き出した作品を表すタイトルとしてこれ以上のものはないのではないかと思います。

美徳のよろめき

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Web記事のタイトルや新聞の見出しは、人の注意を引きつけるために誇張表現やセンセーショナルな切り出し方をされることが多いもの。

そして読み手の私たちも、興味を持ってそうした記事に目を通すことが多いのではないかと思います。

そうした注目を集めるためのタイトルだけではなく、今回紹介したような読み終わった後に改めて「なんていいタイトルなんだろう」と感じさせる、丸ごと作品としての完成度が高いタイトルがあることも知っておくと本選びがさらに楽しくなるのではないでしょうか。

今回ご紹介した小説の中でひとつでも「読んでみたいな」と感じてもらえるものがあれば幸いです!

(Photo by tomoko morishige)

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