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語りたくなる体験と語るための余白 #お店の未来

 いたるところで『体験』の重要性が語られているけれど、本当に人を魅了するブランド体験とは何なのだろう──。

そんな疑問を個人的に持ちながらのぞんだ先週金曜日のイベントでは、Takramの渡邊さんとインサイトフォースの山口さんのお二人にお話を伺いました。

モデレーターをしながら、『これは大事なフレーズですよ!』と会場に向けてツイートを強要(?)したのが下記の2つのポイントでした。

①経済合理性のないことをやり続けた結果、経済合理性が生まれるパラドックス(by 山口さん)
②Feel First, Learn Later(by 渡邊さん)

今回イベントの中でAppleの話もちらっと出たのですが、Appleはまさにこの2つのポイントどちらも抑えているんですよね。

例えばAppleの店舗は、経済合理性を考えたら普通のブランドがやらないようなデザインの店舗ばかりです。

ちょうど今ワシントンD.C.の店舗も準備中ですが、これも売ることだけを考えたら歴史的建造物をリモデルするよりもゼロから建てた方が安いし早いはず。

でも彼らがそうしないのは、非合理を突き詰めることこそが真に合理的であると理解しているからだと思います。
(ちなみにワシントンD.C.の店舗デザインについては下記のVOGUE BUSINESSの記事がおすすめ)

そして製品についても、『Feel First』を徹底的に貫いたのがスティーブ・ジョブズの美学だったのだろうと個人的には思っています。

まず使いやすさや快適さ、美しさを感じさせる『いいもの』を作る。

商品体験こそがもっとも重要な『語りたくなる体験』だからです。

最近はいたるところでストーリーの重要性も語られていますが、人が何かを好きになったり欲しいと思う感情は積み上げ加点方式ではなく、第一印象でまず突き抜けた後の減点方式であることがほとんどです。

さらにストーリーによる感動は一瞬で消費されてしまうけれど、そのモノ自体のよさは使い込めば使い込むほど感動も使い手の思い出も積み重なっていくのです。

これは店舗体験でも同じことで、インスタをはじめとするSNS時代に生きる私たちはついどうすれば投稿してもらえるかを考えようとしてしまいます。

しかし本当に必要なのは語るに値するだけの価値を提供することであり、投稿しやすい環境づくりはそのアシストをするものでしかありません。

つまりパネルや映えスポットを作ったところで、そもそも人に共有したくなるような体験や商品そのものへの感動がなければ、人が何かを語ることはないのです。

さらに今回お二人の話を伺って感じたのは、人が他者に語りたくなるストーリーは往々にして経済合理性のない振る舞いへの感動に宿るのではないか、ということ。

『自分の利益にもならないのになんでそんなことを?』
『普通はこうするのになんでわざわざ面倒なことを?』

そんな小さな違和感をきっかけにブランドや商品に興味を持つこと。そしてその感動と自分なりの解釈を人に伝えたいと思うこと。

そうやって人の能動性を刺激することこそが、これからのブランドに必要なものなのかもしれません。

今回のイベントもまさに情報密度の高い内容だったからこそ、それぞれが自分なりの解釈を語りたくなったのだろうな、なんてことを思ったり(こんなに感想ツイートの量が多くて追いきれなかったのは初めてだった!)。

参加してくださったみなさんのそれぞれの解釈は、『#お店の未来』でnoteやtwitterを検索してみてくださいね。

まだまだ聞きたいことたくさんあったので、また続編的なものを企画したいな。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。

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