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それは、ファンタジーなのかもしれないけれど。

花より男子、ミントな僕ら、グッドモーニングコール、イタズラなKiss。

中高生の頃、友達と貸し借りしあったり、少ないお小遣いをやりくりしながらたくさんの少女漫画を読んできた。

そして読みながら『自分にもいつかこんな物語が訪れるだろうか』と胸躍らせる光景はきっと、菅原孝標女が源氏物語を愛読していた時代からなんら変わっていないのだろうと思う。

きっと未来には素敵なことが起こるはず。少女漫画はいつも、そんな夢を与えてくれる。

あの頃夢中で漫画を読んでいた少女たちはあっというまに大人になり、最近はアラサー向けの漫画も増えてきた。

東京タラレバ娘、娚の一生、凪のお暇、あなたのことはそれほど──。

学生時代に読んだ夢いっぱいの作品とはまた違う、大人になったからこそわかるビターな作品にも私たちは共感できるようになった。

私もここ数年はそういった大人向けの作品ばかりを読んでいたのだけど、久しぶりに純愛ドラマを観たら漫画も青春時代を題材にしたものが読みたくなった。

高校生を主人公にした恋愛漫画は、どれも同じフォーマットでできている。

普通の女の子が王子様に恋をして、最終的に二人は結ばれる。

話の展開はだいたい予想がつくし、大人になった私たちはそんな話が現実にはないこともよくわかっている。

それでも私たちがこれらのファンタジーに惹かれてしまうのは、王道フォーマットの根底に『相手の本当の姿を受容する』というテーマが隠されているからなのかもしれない、と気づいた。

少女漫画における『王子様』は、大抵が学校でも有名なイケメンだったり、みんなの憧れの先輩だったり、クラスの人気者だったりする。

しかしその人気は単に外見がかっこいいとかスポーツがうまいといった要素への憧れでしかない。

そんな中で、ヒロインがひょんなことから彼の中身に触れ、惹かれていくことからほとんどの話は展開していく。

細かい設定は作品によって異なるけれど、すべてに共通しているのは『ステータスではなく相手そのものを好きになっていく』ということ。

ロマンチックなシチュエーションよりも歯の浮くような甘いセリフよりも、このまっすぐな愛し方こそが少女漫画を少女漫画たらしめているのだろうなと思う。

特に大人になればなるほど、私たちは人への評価にステータスを持ち込んでしまう。

年収や職業、学歴、ルックスなどの項目に照らし合わせ、他の選択肢と比較し、『いちばんいいもの』を選ぼうとする。

でも実は、あらゆる不安はそうやってステータスで選びあおうとするところにあるのではないか、と私は思う。

少女漫画を読んでいると、お互いの心が動く瞬間には必ず『向き合っている』ことに気づく。

『みんなの中にいる自分』ではなく『相手と向きあっている自分』を理解し、受け入れてもらうこと。 

漫画の中の王子様たちはその瞬間にヒロインに好意を持ち始めるのだけど、現実世界でも私たちが求めているのはただそれだけのことなんじゃないかと思う。

それはつまり、本当の意味で『肯定される』ということだからだ。

前に友人から『自己効力感と自己肯定感は似て非なるものなんだよ』と教えてもらったことがある。

何かができるから、何かを持っているからという理由で評価されるのは、自己効力感を上げる効果はあっても自己肯定感を上げることには寄与しないどころか、低下させることもある。

自己肯定感を上げるには自分が自分であるというだけで価値を感じてくれる人の存在が必要で、少女漫画のヒロインたちは実は王子様に自己肯定感を持たせる存在として描かれている。

大抵の場合ヒロインは平凡な女子高生という設定なのだけど、相手に自己肯定感を与えられるほどまっすぐに自分と自分の感情を信じられる強さこそが、王子様に選ばれる理由なのだろうなと思う。

少女漫画は、その設定や話の展開だけをみれば完全なるファンタジーだ。

でもその根底にある『相手そのものを理解し、受容する』というシンプルなあり方は、いくつになっても幸福を考える上で必要不可欠なものだと私は思う。

自分を物語のヒロインにするのは、いつだって自分自身なのだ。

***

ということで、以下は参考文献(?)です。

高嶺の蘭さん

個人的に一番ヒットだった作品。
設定としては『君に届け』の貞子が高嶺の花になった的な感じなので『君に届け』が好きな人はぜったい好きだと思います。
高嶺の花すぎて距離を取られがちな主人公と、『お花が好き』という学校のみんなには見せない一面を持つクラスの人気者がお互いの内面に向き合って惹かれていく描写が素晴らしい。
主人公が完璧超人っていう設定は少女漫画だと珍しいのですが、完璧すぎてちょっとズレてるというか天然なところが嫌味なく共感をもって読めるポイントだと思います。

ふしぎの国の有栖川さん

これも設定的には『君に届け』にかなり近いです。
主人公の雰囲気や行動も『君に届け』の貞子に似ているのですが、男の子の方は風早君よりもっと大人っぽい感じなのが違うポイントかも。
爽やかというよりはひたすら穏やかな王子様という感じで、ヒロインも世間知らずなお嬢様的な設定なので設定は高校生ですがファンタジーみがつよめ。

恋わずらいのエリー

『みんなの前では人気者を演じてるけど実は俺様キャラ』という少女漫画の王道のような設定なのですが、主人公が地味なだけではなくひたすら妄想をTwitterで垂れ流しているギャグっぽい設定なのが面白い。
『ヒロイン失格』あたりから、主人公がちょっと汚れ役というか単にピュアなだけじゃない設定が増えてきたような気がします。
ロマンチックなだけじゃないストーリーとオミくんの不器用さがかわいい。

たまのごほうび

これも主人公が妄想女子設定。『恋わずらいのエリー』よりも妄想パートがしっかり挟まってくるので、フィクションの中のフィクションを読むという謎の入れ子構造が体験できます(?)
男の子の設定としては、天才だけど天然ゆえに人付き合いが苦手で、ヒロインが彼の魅力を見出したことで少しずつ周囲に馴染んでいくようになる、というもの。
天才設定だけど嫌味がなくて、素直で一生懸命なキャラクターが今っぽい。スポーツはまったくできないという設定も斬新。
一昔前は少女漫画の王子様といえば勉強もスポーツも完璧、クールで上から目線でやや強引というのが定番だったけど、最近の少女漫画はちょっと抜けてたり、穏やかだけど掴み所がないみたいな設定が多い気がします。

理想的ボーイフレンド

これも男の子の設定が不思議くんな感じの作品。
ヒロインのタイプはまさに昔の少女漫画の王子様みたいな人なのだけど、ひょんなことから仲良くなった真逆のタイプの男の子に惹かれていく、というお話です。
男の子側が『好きとかよくわからない』という状態の設定も最近増えている気がしてるのですが、以前は王子様との恋愛によって成長していく主人公、という設定が主流だったのが、最近は『一緒に成長していく』という設定になりつつあるのかなと思います。

放課後、恋した。

これぞTHE・少女漫画!という要素が詰まりに詰まった作品。
もう一度高校生活ができるとしたら絶対マネージャーをやりたい…!と思わされます。(あれそういえば私一応男バスのマネージャーやってたのにおかしいな)

設定としても、つかみどころのない俺様男子&ひたすら優しい王子様男子の2人が素直でがんばりやさんな主人公をとりあうという王道展開なので、少女漫画を読みたい気分にぴったりハマる作品だと思います。

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