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結果はいつも、自分のスイングをした先にある

『どんな気持ちであの場面を迎えましたか』と聞かれれば、いつも『ただ自分のスイングをしようと思って打席に入りました』と淡々と答える。

『今年は本塁打王、打点王も狙えそうですね?』と水を向けられれば、『個人の成績よりもチームを勝たせたい。それだけです』と飄々と語る。

そのたびにこの子は本当に19歳なのだろうか、と驚きと喜びがないまぜになったような気持ちになる。

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村上くんが打席に立つと、その存在感に圧倒される。

観客席から見ていても伝わってくるのだから、ピッチャーから見たらさぞや迫力のあるバッターだろう。

そしてその存在感は佇まいのみならず、数字にも表れている。

このままいけば30本塁打は超えるだろうし、現時点で打点はリーグトップ。昨日の二打席連続ホームランや先日のサヨナラホームラン含め、高卒2年目野手として次々に記録を打ち立てている。

村上くんは、ダントツ最下位をひた走るヤクルトファンにいつも明るいニュースを運んでくれる。

神宮に行くたび綺麗な放物線を描く村上くんのホームランを見ながら、私は今まさに新しい伝説の誕生に立ち会っているのだ、と思う。

ここぞの場面で打席が回ってくれば、誰もが一本を期待する。期待の表れとも言える応援歌の声量は、山田哲人に次いで大きくなってきた。

私たちは毎試合、村上くんに夢を見ている。

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ただ、プロ野球のセオリーでいえば活躍した次の年はガクッと成績が落ちることが多い。

オフシーズンの間に敵チームも入念に対策を練ってくるし、ピッチャーもレベルを上げてくる。

何より、一度期待が上がってしまった分『そこそこいい成績』では相対的に昨年より落ちて見えてしまう。

新人王を獲ったりフィーバーを巻き起こした選手が、翌年にはぱったりと名前を聞かなくなることも少なくない。

だから、村上くんの大躍進を嬉しく見つめながらも、来年もし今年ほどの成績が残せなくても必要以上に焦ったり自分を責めたりしないでほしいな、と思う。

彼の野球人生はこれから15年近く続くはずで、今はまだスタート地点に過ぎない。

高く跳ぶためには一度しゃがむ必要だってあるし、これから年下の選手もたくさん入ってくる。長い野球人生、評価される年もあればされない年もあるだろう。

もちろんずっと自己ベストを更新し続けてくれればそれに越したことはないけれど、人生はそううまくいくことばかりではないから、人の期待に応えようとしすぎずのびのび打って欲しい、と思うのだ。

たとえ打てない時期が訪れたって、これまでもらってきた夢と感動を糧にまた一打を信じて応援しつづけるのが、ファンという生き物なのだから。

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でも昨日のヒーローインタビューを聞いていたら、私のそんな心配なんて杞憂に終わりそうだな、と思った。

村上くんは何度も、『自分のスイングをしたい』と繰り返していた。

タイトルを意識してもおかしくない位置にいるし、『たくさんホームランを打ってチームを盛り上げたい』というコメントで場を盛り上げることだってできたはずだ。

でも村上くんがいつもお立ち台で語るのは、結果よりも自分らしいスイングができているかとか、チームに貢献できたかということばかりだ。

19歳でこれだけの成績を残しながらも、『自分のスイングをする』ということをこれだけ意識できているなんて、とんでもない大物だなといやが応にもまた期待が上がってしまう。

そう、何より大事なのは自分のスイングをすることだ。

結果を意識すると、どうしても自分以外の要素にまつわる情報を多く摂取し過ぎてしまう。

ピッチャーの傾向、試合展開、風の向きや球場の広さ。

もちろんそれらの情報を持って自分の頭で考えることは大事なのだけど、考えすぎて自分のスタイルが崩れると、一気にスランプに陥ってしまう。

何を修正すべきなのか、どこを変えるべきでなかったのか、考えれば考えるほどドツボにハマり、抜け出せなくなっていく。

だからこそ自分を持ち続けること、そのために結果に引っ張られすぎないことが、長く活躍する上で必要なことなのだと思う。

村上くんは、自分で学んだのかコーチに教えられたのかは定かではないけれど、10代にしてそのことを理解しているように見える。

10年後、彼はどれだけ偉大なバッターになっていることだろう。

私たちの未来への願望は尽きないけれど、先輩に水をかけてきゃっきゃと笑うあどけない姿を見ていると19歳のこの瞬間も目一杯楽しんでほしいと思わずにはいられない。

自分のスイングをゆっくりと重ねて、大木の年輪のように揺るぎない偉大なバッターに育ってくれますように。

今日もまた、神宮で会いましょう。

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