8時に起きて、昨日作った白菜炒めと納豆を食べた。恋人と会う予定の13時半までは暇を持て余した。最近見つけた、Video Daysのエモーショナルな曲を延々と聴いた。
『うみべの女の子』をアマプラで観た。恋愛のすれ違いや青さに胸がもやもやした。磯辺も小梅もどこか目を引く魅力があると思った。残り10分ちょいのところで外出した。

恋人との集合場所である、鴨川デルタ付近に着いた。朝から一向に連絡がないので心配していると、事故って遅れる、というラインが13時35分にきて、ますます不安になった。待たせてしまうので涼しいところにいて、と彼に言われ、少し歩いてコーヒーハウスマキに入店した。酸っぱいレモンスカッシュを我慢して飲みながら『うみべの女の子』を観終えたあとは、彼から連絡がくるのを気を揉んで待ち続けた。

14時半に電話があり、彼とデルタで待ち合わせた。彼は腕に赤い傷をつけていた。逆走する自転車と衝突したらしいが、彼自身はけろっとしていて、傷の痛みよりも新しく買った靴や服に血が付いたのを残念がっていた。
糺の森まで歩き、下鴨納涼古本まつりに行った。彼が私のワンピースを指しながら、赤いね、と言ったので、黒髪の乙女を気取ったのだと返した。別行動してそれぞれ本を探した。たまに鉢合わせたときは小さく手を振った。しかし、終了時間の16時になっても、ピンとくるものをふたりとも一冊も見つけられなかった。

彼に提案してもらい、休憩場所でラムネを飲んだ。そこで、お互いのスマホの暗証番号を当てよう、と戯れ合った。彼が私にスマホを渡す直前、急いでアプリをひとつ消しているのが目に入った。それはTinderだった。あっと思った私は、これは触れないほうが良いのではと一瞬考えたけれど、無視できないほどに気を落としてしまったのでおずおずと彼を問い詰めた。そして再インストールしてもらって確認すると、1人だけ繋がってやりとりしている人がいた。彼が言うには出来心らしく、この人とマッチ解除できる?と私が訊くと、彼は私の目の前で、自分のアカウントごと削除した。話の限りでは浮気してはいないのだろうが、ごまかせるだろうと思われたことが悲しい。どんなにやさしい人であっても、絶対に安心できることは無いんだな、と悟った。

京大近くにあるカフェコレクションまでふたりで歩き、早めの晩ご飯にした。アイスコーヒーふたつと、私は迷いに迷って、『四畳半神話体系』に登場するという明太子スパゲティを、彼はオムライスを注文した。スパゲティはSサイズにしたけれど結構なボリュームがあった。ふた口ずつ交換し合った。

食べ終わっても、お目当ての五山送り火まではじゅうぶんに時間があった。ふたりとも眠かったために家で寝るという選択肢が出たが、寝たらそのまま起きれず、送り火を見るのが面倒になると彼が言った。
京大前にある低い円形のベンチで静かにだらだらしたり、歩いたりしているとちょうどよい時間になった。ローソンでビールを買ってから吉田山へ向かった。彼は途中の住宅街で、シャンデリアのあるでかい家や面白い構造のアパートに軽く興奮していた。

彼のあとをついていき、かなりきつい急勾配の山を登った。入り口を間違えたと彼が笑ったので、きつい方が登ったときの達成感は大きいよ、と返してフォローしようとした。吉田山の上まで行くと、人がたくさんいた。買ったビールを開け、送り火の点灯まで20分間ほど待った。
大の字の輝きは、うつくしかった。彼と一緒に見れて幸せだと、しみじみ思った。ふたりとも今日まで死ななかった、という事実を私は噛み締めようとした。

好きな人を連れて月までバカンスするなら今日だな、と思っていたが、満月ではないうえに雲で陰っていた月はそこまで綺麗ではなかった。今年の夏のあいだになんとか、達成したい。

下山して、すぐ解散することになった。元気なので音楽でも聴きながら歩いて帰ろうかなと思っていたが、彼はバスで帰ることを強く勧め、自分がお金を出すからとまで言ってくれた。それは無論断ってバス停へ行った。
人気が多かったにもかかわらず、私がハグしたいと言ったのを叶える形で、彼はきつくバックハグをしてくれた。バスが来るまえに彼は再度、Tinderを入れていたことを私に謝った。

私がバスを降りたと伝えると彼は電話をかけてくれて、対面では伝えるのを躊躇ってしまったという、謝罪や、諸々の経緯や、自分の思いなどをぽつぽつと伝えてくれた。アプリの人と話すうち、私の方が趣味も合うし、やさしいし、魅力的だと思ったのだと彼は言った。照れくさくなったのと、褒め言葉で安易に丸め込まれてはだめだ!という思いから、泣き落としにかかってる?と彼をからかってしまった。

逆に私に不満はないか、と彼に訊いた。無いと最初は断言していたのに、いざ話し出すと「あ、あとこれは〜」と彼に打ち明けられて、おいおいどんどん出てくるやん、と思ってしまった。ただ、どれも私自身の非だったので反省した。
彼いわく、彼は私が自分から誘わない分、私に気を遣って会う日にちを提案している。来月旅行に行こうと彼が誘ってくれたのも気を遣ってのことだったと初めて知り、私は驚きとともに申し訳なさでいっぱいになった。私はもっと会いたい日を主張するべきなのだ。彼によると、どこへ行くかなどの詳細を決めるのは苦ではないけれど、大枠だけでも言ってもらうと助かるらしい。私は常々受け身な性格を実感している。今日指摘してもらえてようやく、彼との関係性を保つためにも直していかねば、と危機感を持った。
また、家で過ごすとなれば彼の家ばかりなので、私を客として受け入れる彼の負担が大きいのではないかと私は心配していた。しかし、彼にしてみれば私の住む女子寮に行くのは心理的に萎縮してしまういっぽうで、私が彼の家を訪れるのに関しては無問題なようだった。

頭になにも浮かばなくなるまでお互いが感じていることを言い合い、もやもやをちょっと解消できた気がする。人と繋がり続けるのは、難しい。相手の考えていることを、言葉にされずにわかるはずがないのだ。それでもなお、私は彼とは関係を続けていきたいと強く思っている。

電話を終えてから寮に戻った。明日の予定は何も無いし、飲み足りなかったので、バイト先の社員さんにいただいたシャンパンを開けた。友達も誘おうかと考えてやめた。不味いシャンパンをひとり、マグカップで飲みつつ、『風たちの午後』というすてきな雰囲気の映画をすこしだけ観た。これは近いうちにまとめて観たい、酔っていない状態で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?