UFO

朝に恋人が、深夜喫茶で本を読もうと誘ってくれた。飲みの予定のあとで良ければいける、と返信した。
いつものごとくゆっくり準備をして、まったりとパソコンで就活の自己分析をした。

15時半くらいに、一緒に飲みに行く予定だった友人から「彼女さんがぷんぷんしてる」というラインがきた。どうやら彼は最近できた恋人に、私と会うのを止められたようだった。久しぶりに彼と話したかったのですこし残念だが、私も恋人に早く会えるため好都合だと思った。また今度でいいよ、と送った。

やることがなくて暇になり、自分の行ってみたい喫茶店リストの中から選んだ、すずきというブックカフェに1人で行った。

住宅街に位置するそのお店は、静かでとても素敵な雰囲気だった。点在する席でお客さん同士の距離感が確保されており、本に集中できるようになっている。のばら珈琲と似た感じがした。深夜喫茶でコーヒーを飲むだろうことを考え、アイスティーを注文した。そろりとミルクを入れると、透き通ったうすオレンジの中へ白が綺麗にひろがった。
座った席の棚にあった、吉田篤弘さんの『つむじ風食堂の夜』を読了した。日常の話なのに童話的で、かわいらしい世界観の本だった。

店内の本は購入できるらしいので、大きな棚で物色したが結局買わなかった。食べもの関係の本も多いように思えた。
帰り際、店員さんが戸口まで出て、ありがとうございましたと言ってくださったのが嬉しかった。

自転車を停めておいた同志社大学に戻った。お腹が減っていて、食堂を確認したけれど空いていなかった。地下のトイレを使ったとき、しんと静まり返っていて独特の凄みがあった。

それから、自転車で待ち合わせ場所の百万遍まで走った。途中、鴨川で花火をする若者の集団を横目に見た。本当は若者じゃないかもしれない。花火をするのは若者だけだと、私は思い込んでしまっている。
京大に自転車を停めたあと、近くのローソンでレーズンバターサンドを買って店前で食べ、小腹を満たした。恋人から着いたという連絡がきて、見ると横断歩道の先にいた。

深夜喫茶しんしんしんまで、ふたりで歩いて向かった。ここは私たちの最初のデートの場所だったりする。店内には大学生らしい3人組と2人組がいて、割と賑やかめだった。水出しアイスコーヒーを2つ頼んだ。彼はグラスの模様をUFOみたいだと指摘し、「グラスにUFOが飛んでいる」という文を小説で書けそうだねと言っていた。私はそれを残しておきたくて、スマホにメモした。
バンドエイドを貼った左手指を、どうしたの?と彼に訊かれた。包丁で切ったと私が答えてから、自炊の話になった。ご飯食べたくなったら作るからおいで、と彼が言ってくれ、なんて幸せな会話なんだ、と俯瞰した。

彼は研究に使う英語の論文を持ち込んでいた。私は最近寝る前に読んでいる、沼野恭子さんの『ロシア文学の食卓』をかばんにいれていた。話がひと段落すると、おのおの黙って読書した。

しんしんしんを出てから、鴨川デルタに行った。一緒に亀型の飛び石に座ってたそがれた。風があるためあまり暑くない夜だった。
せっかくなので靴をぬぎ、川に足をつけた。しばらくして彼も入ったが、思ったよりも水はぬるく、えもめの夏は感じられなかった。酔ってないしな、と彼は言っていた。かなしいことに大人はシラフで川遊びを楽しめないのかもしれない。
靴の中に入れておいた靴下が無くなっていた。まじか…と思ったが心配させたくないので、まあいいや、と声に出した。すると彼が隠し持っていた私の靴下を手にぶら下げて無言で見せた。なんだかシュールだった。

次の日は予定があるので帰宅しようかと思っていたけれど、一緒にいたくて結局彼の家に行った。シャワーも浴びずセックスしたが、ゴムを切らしていたので挿入しなかった。外に出すのはだめかと軽率なことを口走った私に対して、頑なに断ってくれる彼のまじめさに安心した。

はだかのまま、ふたりで死んだように寝た。

目を覚ますと5時半だった。なぜ寝落ちすると早起きできるのだろう。べたべたとした身体を実感して、一刻も早くお風呂に入りたいと思った。彼が起きてからしばらくベッドでうだうだと絡んで、8時くらいにお暇した。
帰り道では朝といえど暑く、絶対に日焼けするなあと考えながら自転車を漕いでいた。

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