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SOOOOが抱く、圧倒的な自己嫌悪とその特異性について。


ロキノン系雑誌みたいな題名ですみません。
僕のリスニング範囲というのは少し広い気がします。しかし、風貌的にはボカロしか聞いてなさそうな僕はボカロをあまり聞きません。というよりかはボカロは本当に好き嫌いが激しいもんでして。
好きな物は本当に好きなのですが嫌いなものは嫌いです。しかし、そんな私のその垣根を越えて
未の境地にいるボカロPが存在します。
今回は長めに。そして非ボカロリスナーである私のボカロに対する感情とそれを踏まえた上でそんな彼の新作illlovedと今迄の曲とともに感想を述べていこうと思います。
見当違いだったり、不快に思われたりする表現があるかもしれません。そう思われた方には最大の懺悔を。それではそれでは。
(文章の最後の方に彼の曲のリンク乗せてます。あと、彼の曲を聞いて感想を述べるとき、
必ず sooooではなくSOOOOと大文字表記にしてください。wodではなくw.o.d. と記すのと同じくらい大事)

僕とボカロ

まぁこんな文句も垂れてる程でして。
数ヶ月前の愚文で申し訳ない気持ちでいっぱい。
だけど思うことはあまり変わってない。そもそもボカロ流行期と僕自身の成長期が乗っかったものだから切っても切り離せないものだ。この記事でも書いてるように僕にはボカロの苦手意識があった。姉のせいでね。でも好きなボカロPもいる。石風呂Pとか。
だが、昨今のボカロ曲はキャラとMVに依存しすぎている気もする。
曲よりも。それは悪いとしたことでは無い。
そもそもMVというインパクトがないと曲は再生はされない。そして音楽制作者だけでなくイラストレーターの影響力も加算される上で、MVというのは非常に曲を有名にさせるために必要なものだ。しかしそのアニメーションMVが絶対無いともう無理という環境になってしまっているのが悩ましい。海外からのリスナーを得るためには必要だろう……
これはボカロが大衆にまで広まった結果なのかとは思う。
しかし、今回紹介するこのボカロP、SOOOOはそんな今のボカロに
一石を投じるだとか、反旗を翻す、とかそういった
単なるプロテスタントを超えたとてつもない作品をリリースした。


もっと注目されるべき作品だと思う。
僕はこの作品を見てボカロに対しての価値観を
ハンマーというよりかは爆弾を落とされ、ぶち壊された感覚に陥った。


SOOOOというボカロP

僕が彼を知ったきっかけはこれだ。

OMORIというRPGゲームで流れる「my time」という元々の曲の破壊的、そして精神の歪みを体現したような音楽故に、カバーをする難易度がとても高いこの曲。OMORIをクリアした後に夢中になってコンテンツを検索しまくったゆえにおすすめに出てきたのだろう。1:30というこの短さで困惑と期待と感動それら全部がぐちゃぐちゃになった。
「これは一体どういうジャンル?」
「どうしたらこんなにむちゃくちゃで、だけど綺麗なものになるの?」
「てか誰だこの人」
みたいな感じで感想がぶわっと溢れ、彼の曲をチェックし始めた……という経緯だ。

彼の紹介文として
「自己嫌悪の捌け口を目的に作曲を始める。以降、一貫して少年時代のトラウマや心の痛みをテーマにしたボーカロイド楽曲の制作をし続ける。ノイズや金属音、自身の悲鳴さえもサンプリングした轟音の中でキャッチーで悲痛なメロディラインが際立つ独特な世界観が特徴。」(Tunecore japanの紹介からの引用)
説明だけでわかるものじゃないと思う。現に彼の音楽に根付くジャンルはたくさんある。
インダストリアル、エレクトロニカ、エクスペリメンタル、ダークアンビエント、ノイズミュージック、民族音楽、エクストリームメタル、そしてJPOPもある。
このアーティストをボカロという3文字で収めるにはあまりに惜しい。
その数多の音楽という媒体を用いて生まれる表現の幅。
自己嫌悪と他者への罪の告白をするかのようなリリック。
感情的かつ破壊的なサウンド。
その全部をかきあつめて生まれた絶望をドリップした歌たちは傑作だらけだ。



彼の所持する特異性とは

正直、ボカロPというアーティストはいちばん、
他のボカロPとどう特異性を際立たせるかが難しい存在だと思う。
理由として、使ってるものが種類違えど基本的に同じ。
ギターでテレキャス、レスポール、ストラトキャスターなどのような感覚。でもギターという単品でバンドの特異性を出すなんて普通はしない。
だってバンドはそれぞれのベース、ドラム、キーボード、様々な楽器で織り成し、最終的にできるもので特異性が出てくる。
種類が多ければ多いほど
フローチャートの選択肢が増える。
バンドはそういうものだと思ってる。
しかしボカロはどうだろう。いくらギターに、ベースに、ドラムに本腰入れたとしても
まず第一に目を向けられるのはボカロ自体の声、歌い方、歌詞だと思う。
他の楽器は後回し。そもそもボカロ自体が音楽の世界ではなかなかの特異点でもある。存在が。「人が歌わない」のだから。
出てきた当初はやってた人も少ないし、
色物扱いされててそれだけで特異点、特異性はあった。
しかし今はどうだろう。
ボカロを使う人々も増え、ボカコレなどというコンテストがXのトレンドに入り話題になるほどのメジャーなジャンルになった。だからこそ
そもそもが特異だったものが普遍となり特異性が出しにくくなったと思う。
じゃあSOOOOの持つ特異性ってなんぞや?
となるわけで。

日本語訳
「皆さんもお気づきかもしれませんがこの新曲のクレジットに
「Voice」セクションを追加しました。鏡音レンの歌声を除いて
歌の中で聞こえる様々な奇妙な声はすべて私のものです」

一見すると ん?となる。
どういうことかと言うと彼はボーカロイドだけでなく自分の声も作品の中に取り入れている。一見、あぁ、作り手が参加するフューチャリング的なタイプのボカロね。特異性にしては少し弱くないか?となる。
そういう訳じゃない。わかりやすい例としてこちら
(激しいフラッシュが出ます。ご注意ください)

ここ、鏡音レンのボイスにしては出せない声である。つまり、これは彼の実際の声だと言うことになる。
自分のホイッスルボイスを曲の中に融合させてるのだ。
ホイッスルボイスとは?簡単に言うと人間が出せる最高の高音である。もうそれはほぼ奇声、モスキート音に近い場合もある。彼の場合男性なので相当な技術がいるにも関わらず、それを曲に自然に組み込んでいる。ピッチ操作をしているようにはとても聞こえない。
彼の特異性とはこれだ。
ボーカロイドに生身の人間のホイッスルボイスを組み込んだことだ。これはだれでも簡単に組み込もうと思ってもできない。そもそもホイッスルボイスの難易度が高い上、それを曲に合うように入れるのは至難の業だ。しかし彼はそれを上手くマッチさせている。
例えば、風変わりを狙ったり他のものとは違う要素を入れようとしたりすると大怪我をする。
「いや、これ要らなくね?」「蛇足だなぁ」
とリスナーに感じさせてしまう。
かといって普遍的なボカロとなってしまうと聞かれない。これはすべての曲作りにおいて重要な要素だが、ボカロはそれがとても難しいジャンルだと僕は考えている。先程も記したそもそもの特異性が薄まった今のボカロで特異性を出す難易度が高いからだ。しかしこの自我の出し方の組み込み方がSOOOOはとても上手にやってのけた。

彼の2020年のシングル惡王/裸装の、惡王にもこのホイッスルボイスが用いられてる。ぜひ聞いて欲しい。

SSS級の自己嫌悪

正直、自己嫌悪に満ちたボカロなんて有り余ってる。ただその多さにすら嫌悪を抱くことがある。最近は冷笑と将来への不安を無意識に抱きつつも、最終的にはもうどうでもいい!!と開き直って謎に踊らせたり、能天気に叫ばせたり、走らせたりしてくる感じの曲が多い。それを自己嫌悪の部類に入れることすら烏滸がましくなってくる。しかし、
SOOOOは決して開き直りをしない。
過去への後悔と他者への懺悔
背に抱えた消えない罪の告白
本音を仮面に隠したままの未来への歩み
そして愚かな己だけに向けた応援
とても重苦しく、息苦しいものがボーカロイドに詰まってる。


ボーカロイドの必要性

彼の曲は、人の声でなく機械という無機質な声にあるからこそ、よりその作品の絶望感を引き立てていると思う。ただ、無機質な声だからこそというのはあくまで「素材が」無機質であるわけでして。
実際の曲を聴くとその無機質なものに感情が抱いたのかと思ってしまう
ほど、ボーカロイドの質が高い。
そしてあくまでボーカロイドが機械、道具であり、キャラクター性が全く加味されていないことが素晴らしい。
「初音ミク」「鏡音リン・レン」といったキャラクター性が
今は十分に根付いてしまい、もはや今のボーカロイドは
ただの機械としてしまうと、反感を買ってしまう。でもいくらそこにキャラ付けがされようと機械なのだ。道具なのだ
にもかかわらず、そのキャラクター性に依存している曲が
多くなってしまってるのが少し懸念してしまう。
だったら、他の歌手やアイドル、歌い手を起用しても良いのではないか?
わざわざボーカロイドを使う理由があるのか?となっちゃう。

しかし、
彼の曲はボーカロイドでなければいけない理由がふんだんに詰まってる。
先程も記したが、理由として SOOOOの曲にインダストリアルの要素があるからだ。Rate Your Music(アメリカ最大の音楽レビューコミュニティサイト)ではポストインダストリアルというジャンルの枠組みに括られている。
ほとんどが打ち込み、機械から音が作られる。とくに、インダストリアルというのは工場の重機の音などを使用して作られるものもある。(Nine Inch Nailsが良い例)
その音楽性を持って機械音声というボーカロイドを使用することで乗算となり、無機質さが前提となった曲になる。しかしそれはあくまで曲を聴く前としての枠組み。実際に聞いてみると無機質とはかけ離れた、怒りや苦しみだけでなく、人生で受ける全ての痛みを一瞬にまとめたかのようなボカロ曲である。そして、そこに詰め込まれたものによって生まれるのは
無機質にはない「感情」なのだ。
人間が出す肉声という感情によって曲に凄みが増すが、そこに更に生物とかけ離れた存在で、感情には円もゆかりもないはずのボーカロイドに感情が生まれたのかと思ってしまうほどさらに凄みが増す。それだけでは無い。無機質性に生命が宿ったかのようになる。そこで生まれるのは人間には持てない、表現出来ない未知数の感情が生まれるのだ。その感情の先は果たしてどうなるか。音楽をそれで表現していると僕は思う。
SOOOOの曲はまさに
シンギュラリティなボーカロイドソングと僕は思った。

己の成長を恨んだ彼の果てにあったもの

次に、SOOOOのリリックに切込みを入れて行く。
いつもは1曲にフォーカスを当てて、感想を言っていく感じだが今回は少し趣向を変えて、数年前から最新曲に進むにつれどのような変化があるのか着眼していく。

彼がリリースしてきた全ての曲のほとんどに共通することは
「この世に命を授かったことへの後悔」である。
他にもたくさんの共通点があるが、彼は特にこの後悔を重きに置いてるように見える。それはまるで今迄の罪や懺悔、そして与えられた苦しみや与えられたことへの怒り、それら全てがなぜ、誰によって産まれたのか。
それは自分が産んだもの。つまり自分が産まれなければこれらの鬱屈したものは産まれなかった。だから彼はずっと産まれたことを悔いているのでは?と考えている。それを踏まえた上で、歌詞を見る。
「今日も拭えない現在進行形の傷跡」(Empty dawn/2016年のアルバムminus in the sunより)
「真っ赤な命が垂れて負の連鎖が止まらない嗤笑と嗚咽の中 どす黒く溢れ出すカタルシス」(NORMAL HUMAN/2019年のEP Happppy songsより)
「燃えるように咽ぶように ただ生き爛れ赫う生命よ 
   僕を司る全てに終わりを下さい」
(桜雫、春燃ゆ/2021年のシングル桜雫、春燃ゆより)
「慈しみが苦痛の為に与えられるから死の恐怖を「愛」と名付けました(中略)明日も僕は笑顔で傷付いていくから」(illloved/2024年最新シングル illlovedより)
このように、時を重ねていくことに痛みの解像度がさらにさらに、とても新鮮な痛みへと変貌している。最初は「現在進行形の傷跡 」という生物的にも痛々しい上、精神的にも痛みが伝わる表現だ。しかしNORMAL HUMAN、桜雫、春燃ゆから伝わるのは命を継続していくことの苦しさ、もう全てを終わらせてという懇願。
生物的な痛みよりも、精神的な痛みに対して
重点的なフォーカスを当てることにより、
リスナーへの痛みの共有がより鋭くなり、そして広くなっていく。

そして彼の最新曲そして僕の中で最高傑作に等しい作品「illloved」にメスを入れてみる。
いきなり音が堕落していく。3年越しの曲の開幕に相応しい最高のイントロだ。そして爆音で響き渡り鼓膜を劈くその悲鳴のようなノイズとビート、これだけでどれだけこの曲が悲愴と絶望と懇願と、
数え切れないマイナスのエモーションを混ぜきったのかよく分かる。SOOOOの曲の凄いところはボカロにしては珍しい、曲の長さだ。基本、ボカロPは耳に残って貰えるように、なおかつキャッチーになるようにと努力と削りを重ね、最近では特に2分半、長くても3分の曲が多い。ましてやバラードでは今頃売れる曲はあるのか怪しい。しかしそんな時代だろうが関係なく、彼の曲は5分というボカロにしては長い。
でもこの彼の最新曲は絶対に3分では収まりきらなかっただろう。
ましてや5分で伝わること自体が奇跡だと思ってもいい。
彼の凄まじいところは、この音と音がせめぎあい、
ぶつかり合う音楽のサビにキャッチーさをしっかり入れているところ。
不協和音に振り切ってリスナーを置いていかないのだ。
そしてリリックも誰かを慰めたり励ませたりもほとんどしてない。
すべて自分に向けた歌だ。
illlovedはSOOOOにしかない唯一無二の自己嫌悪を3年越しに表現した。
そして、音楽における静と動が完璧だ。
ボーカロイドの難しいところでもあり、問題点でもある、
打ち込み故に起こる普遍的なビート。
退屈さを感じてしまうような繰り返しのリズム。
もはやワンフレーズのリピートのような音程や歌詞の曲に陥ってしまう。
しかしilllovedでは微塵もそれを一瞬足りとも感じさせない。
むしろ常に更新され続ける、バグのようなサウンド、
そして顕にしたどす黒い感情がボーカロイドの喉を通り吐き出される歌声、殴打のようなビート、それらが頭の中を駆け巡る。麻薬のようにトリップする。しかし、それを一旦リセットし、キャッチーさを出しつつ
その麻薬の最高潮とも言えるサビこそ、この曲の全てだ。

「慈しみが苦痛の為に与えられるから
死の恐怖を「愛」と名付けました
貴方達がソレを嬉々と放り投げるから
僕も喜んで僕の命を脅かしました
大丈夫だよ明日も僕は
笑顔で傷付いていくから」

このリリックを聞き僕は、彼が追い求めた 「愛」についての答えをやっと出してくれた気がした。Loveの形を3年という時間をかけて解明したのだろうか。愛にはたくさんの形がある。解釈がある。
その中でも彼は愛を「死の恐怖」とした。
こんな形は予想外。まるで全人類の愛に対する 解釈のジグソーパズルに一つだけ、どこにも当てはまらないピースを見つけた気分だった。
愛を皮肉ったり、冷笑したりする者なんていくらでもいる。
かと言って正直に美しいものとする者もいくらでもいる。
しかし、それを死の恐怖と解釈するなんて、僕にとっては衝撃だった。
でもとても的を得ているのが凄まじい。
この唯一無二のピースはSOOOOの心にしか当てはまらない。
正直、「大丈夫だよ」というフレーズをSOOOOの曲で見るとは思わなかった。大丈夫という言葉ほど無責任なものは無い。ましてや曲で使うには注意が必要だ。使っていいのはAquaTimezくらいだと思ったけど、今はSOOOOとAquaTimezだけが大丈夫を使っていいと思ってる。丈夫な人間が丈夫じゃない人間にかける言葉でもある大丈夫。それは時に、「こっちは大丈夫じゃない」と反感を買うようになる可能性もある。それほどまでに 大丈夫というのは扱いが 曲を作る上で難しいのだ。しかし、SOOOOの大丈夫は 完全に無理強いの大丈夫なのだ。
大丈夫じゃない人ほどの「大丈夫」ほど不安定で危険なものは無い。
そしてその後に

明日も僕は笑顔で傷ついていくから


というフレーズは、SOOOOのテーマである
「少年期のトラウマや心の痛み」つまり、小中高生という人間を形成していく中での重要な過程で受けたいじめへの苦しみを表していると思う。
このリリックは本当にすごいと思っている。
感想が稚拙な表現で申し訳ない。
いじめという行為において経験した側が最終的に陥るのは
「いじめをいじりに変換し、そいつらと"友達"になる」ことだ。
いじめを受ける子達は誰かをいじめるようなことは決してしない子が多い。だから虐められてしまう(これに関しては僕の見解です。)
故に周囲の平和と言うより、己の心の平穏を求めて自分が苦しみつつ虐められないなら自虐にしてしまおう……と割り切って「いじられキャラ」になる。苦しくて仕方が無いのに。無理をしているに決まってるのに。周りからの笑いを共に笑うようになり、それは積もりに積もってしまう。
その、傷つきながらも笑うその空元気を 「大丈夫」という言葉を用いて、
表現している。僕自身、いじめの経験がありこのいつ終わるか分からない
不快と雑言の嵐に苦しめられどうすればいいか分からなくなり、結果としてその嵐に飛び込み、体を任せることにしてしまった。だからこそ、
この終わりの見えない、死なない限り続く「明日」という存在への
恐怖混じりの笑顔で誤魔化す気持ちをサビの最後に叫んでくれること。
これほどの苦しみに溺れたリスナーへの救済はないと思った。


先程も書いたが、ボーカロイドの難しいところでもある抑揚のつけにくさ。だけどそれを克服どころか、完全に自分の個性にしてしまっている。
最近ではイントロを!歌よりも中毒性あるサウンドを!と追い求め、
1番大事であるはずのサビよりも他の箇所にインパクトを残そうとする
ボカロも少なくはない。そんな中、SOOOOはサビ以外の箇所を決して
疎かにせず、しかしサビに、曲における全ての要素に力を入れ、我々リスナーに、ボーカロイドを、音楽を、超越した凄まじい
人間における美と醜を表現している。僕はそれに酷く感動してしまった。アーティストにおける3年という空白はあまりに長い。だけど彼はその空白を埋めるどころか、彼の背負った過去も、そして彼も我々もこれから抱えていくであろう未来も、そして彼が映し出した苦しみの連鎖が続く今も、それら全てを抱え、音楽という形に残してくれたのだ。
そこに僕は最大限の尊敬と、感謝を示したい。

SOOOOはこれから、どうなるのだろうか。

僕の1番の不安はこれだ。別に、もう音楽辞めるのかだとか、これ以上の作品が作れるのか、とかそういうものじゃない。漠然とした不安だ。繊細で緻密、だけど少しでも手を加えれば壊れてしまいそうなこの曲はSOOOOの精神状態を体現しているような気がする。
作品を作る上で彼は、きくお氏(ボカロP)との対談記事ではこう語っている。
「もうちょっとマイルドな言い方をすれば「排泄」ですけど、溜めて溜めて日ごろのいろんなうっぷんをとにかく山のように詰め込んで、全部ばーっと出して、もう数か月間放心状態。僕、あんまり自分のことをアーティストだとか、表現してるっていう感覚でやってるつもりが全くなくて、自分の中にあるものをそのままの形でぶん投げたっていうかネットの海にぶん投げただけっていう。」
彼の曲を出すスパンは比較的長い。
でもそれは長い空白の間に蓄積されたものを放出する。
それを言わば彼は「排泄」「射精」と呼んでいる。
ここまで言い当て妙なものがあるかと思わず笑ってしまった。
そうか、創作は全てが射精なんだと僕も納得した。思わず。
このノートも、聞いてきたものを貯めて貯めて一気に解放するのだ。
僕は音楽に対する彼の態度がとても好きだ。
僕だったらきっと驕り高ぶってしまうだろうから。
この音楽に対する面持ちは僕がもし作る側になったら大切にしていきたい。

生きるという行為を続けるために

「音楽を始めたことで生きたいと思えてしまった。自分はこの世に生まれてきてよかった人間だと自分自身では思っていないけど、ここで死んでしまったら、自分自身が生きてきたことで生まれた感情だったりとか思いだとか、そういったものが全て無になってしまって、それを僕は全部まだ創作でやりきれていない。ここで死んでしまったら生まれてきた意味がほんとになくなってしまう。だからそれを成し遂げるまでは、成仏させてあげられるまではまだ死にたくないなというか、生きたいなというか、この世界に殺されたくないなっていう、そういう思いで今は続けているので、そういう死にたくないっていう思いが自分の中で芽生えたというか、発見できただけでも大きな収穫だったんじゃないのかなと思っています。」
SOOOOは幼少期の頃から胸の奥底に死にたいという感情がある。だけど、音楽を作ることに出会い、生きたいという情緒が生まれた。しかしそれは
「音楽で人を救いたい」「音楽で何かを伝えたい」
そんな、優しさに溢れたものでは無い。
ここで死んでしまっては自分が完成系を作れてもないのに、
生きていた意味がなくなってしまう。
僕はこの態度を美談にするつもりは無い。
なんて素晴らしい、だとか、音楽との向き合い方が凄い、だとかそんなちんけな表現で終わらせていいものでは無いと思う。
己が生まれた意味。俺の人生って何?
俺って何?そんなアイデンティティの喪失はザラにある。それをどう満たして、それをどう生み出していくべきなのか。人生の長い課題のひとつだ。そのひとつとして彼は創作を選んだ。その道を僕は全力で応援したい。だからあえて僕は彼の今迄の作品、そしてilllovedという作品を僕の中での最高傑作に"等しい"という。 彼の本当の最高の傑作はまだ生まれるには時間がいる。きっと。彼がこれからどう変化し、豹変していくか。
僕が彼に最大限の将来の期待という希望と
彼が僕にくれた過去の後悔という絶望。
それぞれを抱えてずっと待っておくことにする。

彼の作品を踏まえて、僕はボーカロイドに対してどう向き合うべきなのか。

最後に、彼の曲を聴いて価値観を壊された と僕は書いている。彼が色々なものに向き合い、排泄していったように、僕は何を摂取し、何を排泄していくべきなのか。それについてつらつら述べていこうと思う。
ボカロについてもっと触れ合うべきだなと思った。
何らかの音楽に対して苦手意識を持つこと。これを一概にいけない!というのは僕もしたくない。食べ物に好き嫌いがあるようにそれは至極真っ当な感性だからだ。だけど僕自身のモットーとして
「フラットな耳を持つこと」をベースにしている
それがないと音楽感想ブログなんてするもんじゃないだろう!
昔は誰も食べるようなもんじゃないと思った食べ物を食べた人がいた。
だからそれが現代世界で食材として流通している。
偏食という言葉があるように、食わず嫌いという言葉があるように、
聞いてなものを最初から嫌うこともある。しかしその態度を改め、ちゃんと向き合うことが必要なのだ。目の前の音楽に。そしてそれを広めていくべきなのだ。後世に残していかないといけないんだ。僕のような端くれのレビューなんて誰の目に届くかなんて考えてもなかった。どうせ残らないだろうと思っていた。
でも、たった一人の目に止まったなら
ぼくはこのnoteをやって良かったと思う。
知りうることの出来る全てを摂取し、その全てを排泄していくべきだ。
全てを知ることは不可能だけど全てを知ろうとすることはいつでも出来る。でもそのために好き嫌いをしてはいられないと思った。
そんな考えを持たせてくれたのがこの曲だった。
何度でも言う。
SOOOOというボカロPは僕のすべてを破壊し尽くしてくれた。
そんな彼に超弩級の感謝を、リスペクトを捧げたい。

長文でしたが読んでくださってありがとうございました。
レビューにて引用したSOOOOの曲やきくお氏との対談記事のリンクを貼っておきます。



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