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「自治体3.0」生駒市長・小紫雅史さんに聞く、自走するまちづくり

公務員が副業解禁! そんなセンセーショナルなニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。いちはやく、さまざまな改革に乗り出している生駒市。その小紫市長と、元公務員CEO角の対談が実現! 前編では、小紫市長のルーツとなる環境庁(環境省)時代のお話や、まちづくりの取り組みについてうかがいました。

自治体3.0を推進する小紫市長の「原点」

角:本日はよろしくお願いします。まずは簡単に僕の自己紹介からします。僕はもともと大阪市役所で公務員を20年間やっていて、最後に大阪イノベーションハブの立ち上げをやりました。

そこでイベントやコンテンツをどんどん作っていくことを経験し、これを一生の仕事にしたいと思って公務員を辞め、起業して今に至ります。

ですので、僕は行政のこともそれなりにわかるつもりですし、「公務員を辞めても通用する人間に」という市長のおっしゃることにすごく共感します。

小紫:大変光栄です。

角:市長は「自治体3.0」(市民が楽しみながら、主体となってまちづくりができる自治体)をはじめ、これからの時代を生き抜くためのビジョンをすごく明確に持っているというのが印象的で。まずは、なぜそういう考えに至ったのかをお聞きしたいです。

小紫: 僕が大学卒業後に入省した環境庁(現:環境省)は、企画を作る、制度を作る、法律を作るといった「攻める」仕事がとても多かったんです。
※編集注:環境庁は1971年に新設。2001年に環境省となった。

そして、当時の環境庁の幹部は、出来たばかりの環境庁で新しい仕事をどんどん作っていくというマインドで若い頃を過ごしていたから、部長になってもとても元気なんですよ。当時の幹部たちが若かった頃は、公害が大きな社会問題になっていて、なんとかしなければならないという空気があり、司法試験に受かった人や、大蔵省にも受かったけど環境庁を選んだとか、そういうエース級の人たちが沢山いました。そこで仕事ができたのはよかったと思っています。

角:環境庁では具体的にどのようなお仕事を?

小紫:僕が入省したのは、ちょうどプリウスが発売された年(1997年)だったんです。

そこでプリウスを始めとしたハイブリッド車の取得税を優遇しようという話が当時の大臣から出て、プロジェクトを発足しました。

しかし、当時の環境庁には税の専門家がいません。そこで僕が最低限の勉強をしたところ、庁内でちょっとした「税の専門家」みたいになったんです。「今日はハシリュウ(橋本龍太郎氏。第82、83代内閣総理大臣)のところに行くから、ついてきて。税の話は俺はわからないから小紫が説明して」みたいな。

角:ええっ? それは緊張しますね!

小紫:環境庁って本当にオープンだったんですよ。省庁によっては、係長以上でないと局長に説明できないところもありますが、環境庁にはありませんでした。それがすごく心地よくて、面白かった。

角:フラットな職場だったんですね。

小紫:そうですね。とにかく、霞が関にいたときは常に何か企画をしていたので、生駒に来てもそういう意識は自然にありますね。

角:面白いですね。フラットで、議論がさかんな職場。相手の意見を面白がり、否定しない。そうすることで他の人達もどんどん自然に意見を出して、自由なコミュニケーションが生まれる、アイデアソンに近いですね。

小紫:アイデアソンはいいですよね。本当は各課でそういうのをやってくれたらいいなと思います。予算を立てるときに、新規の提案は優先的に予算を取るからどんどん出してねって言ってるんですよ。でもそうすると、マネージャーだけががんばって提案を出してくる。

そうではなくて、1年目の職員や若手を入れてブレーンストーミングをして、各課でアイデアソンをやって出してくれたら一番いいんですよね。それが何よりの人材育成になるし。

どこでもそうだと思うんですが、マネージャー層の頑張りが一番の課題であり、キーポイントなんです。ただ、今は若手も意見を出して新規採用をがんばってくれたり、積極的な中途採用や、副業の応援をしていることもあり、自治体業界の中では、生駒市は「キてる」と感じています。

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(自身も名を連ねる書籍「霞ヶ関構造改革・プロジェクトK」を見せながら説明してくださった小紫市長)

まちづくりの人材を掘り起こすために

角:本当にそう思います。だって僕は以前、井川さん(生駒市役所 教育委員会生涯学習課 青少年係長 井川啓一郎氏)と一緒に大阪市役所で仕事をしていたんですが、気がついたら生駒市役所に転職されていて驚きました。

小紫:彼は超ビッグイベント、「IKOMAサマーセミナー」も担当しているんですよ。市民が生徒になって、生徒で来た市民が次は先生になって。先生の次は企画に回ったり。まちの活動を始めるきっかけにつながったりする、そんなイベントです。やっぱり人って、人に教えたいっていう気持ちがあるんですよね。

角:わかります!

小紫:先生をやってみませんか? とお願いすると「しゃあないな」と言いながら、嬉々として教えてくれるんです。そういう人って、絶対まちづくりの貴重な人材になる人です。そんなまちづくりの人材を掘り起こすというのが僕のスタンス。生駒市には、すごい人がなんぼでもいますから。

角:いいですね。僕は人と会ったときに、その人が何のオタクかを探すんですよ。その人がオタクとして語れるものにぶち当たると、すごくいい話が聞けるんです。結局「理解されたい」というのが人間の本質なんですよね。理解してくれる人たちがいるコミュニティを探して、コミットする。昔はその受け皿が「会社」と「家」しかなかったけど、今はSNSがあって、発信して、場所をみつけて、コミュニティに加わって、自分の場所をつくることができる。ですので、地方自治体がコミュニティの受け皿を作る、という施策は、すごく人の心に響きやすくなっている気がします。

小紫:面白い考え方ですね。職員も良い意味で市民と交じる、そうなっていくととてもいいなと思いますが、今はその途中ですね。とにかく面白い市民を見つけたい。でもそのためには自分も地域にはいらないといけない。それが市町村職員の基本だと僕は思います。

角:昔の体質のままの自治体だと、人が育たないんですよね。民生委員とかも、一度後継の受け手がいないからと引き受けてしまうと、70歳になってもずっとやり続けなくちゃいけない。でもそれって自治体の問題なんですよ。やってくれる人を自分たちで育てて来ていない、関係性が作れていない。

そうじゃない形。この分野のこういうことなら、僕は興味があるからやりますとか、そういう人が分散して現れて、それが地域コミュニティになるはずなんです。

そのために、行政がまちに出ていって、雑談出来る相手を探す。まずは場所をつくって、そこに興味を持ってきた人とどんどん雑談をして、「それならこの部分をやってみてもらえませんか?」と、そういう誘いかけの仕方を本来するべきだと思います。

小紫:そうですね。市民には、自分のやりたいテーマを丁寧にやっている方がどんどん出てきているのですが、そういう方を自治会や民生委員・児童委員などの地域コミュニティにどう繋いでいくか、が課題ですね。
実際に、子ども食堂や地域食堂をやってもらったりと、テーマごとに活動されている方たちを自治会つなげていくことはちょっとずつ出来ていますが、テーマ軸と地域軸をタテヨコに組み合わせる、みたいなことをもっともっとやっていきたいです。

シニアも元気なまち、生駒

角:具体的な事例について聞かせていただけますでしょうか?

小紫:はい。まず、生駒には鹿ノ台という地域があります。昭和52年入居開始のかなり古いニュータウンです。ここに住むシニア世代の方たちを中心として、すごく活発に活動されているんですよ。

角:どんなことをやっているんですか?

小紫:鹿ノ台って、住宅地を囲む緑地の樹木が生い茂って、ごみも散乱していたんです。何か出てきそうな。それをシニアの方たちが、刈ったり手入れしたりして、散歩道を作ったんですよ。12ヘクタールを超える広大な緑地の整備を、住民が続けているんです。

角:ええっ!

小紫:それで、「ふるさとづくり大賞」で総務大臣賞をもらったんです。それで更に火がついた。自主防災会もありますし、老人会もすごく活発なんですよ。全国老人クラブ連合会から表彰もされて。ある取組みの成功が次の取組のスイッチとなって、勝手にまちづくりが進んでいるすさまじい所です。

角:まさに、人生100年をどう生きるか、という話ですね。シニアにいかにいきいきと過ごしてもらうか。

小紫:生駒市の高齢者福祉は全国トップだと思っています。保健師の田中(生駒市福祉健康部次長 地域包括ケア推進課長兼務 田中明美氏)が、介護予防のプロフェッショナルとして全国的に有名で、厚労省に頼りにされたり、委員会にも呼ばれたりしているんです。
そして高齢者を教室の担い手としてボランティア活動頂くことにも力を入れた結果、職員だけでは市内一ヶ所での開催しかできなかった体操教室が、南北のコミュニティセンターや自治会ごとに開催できるようになった。そうして、より多くの方に参加頂き元気になってもらう。元気になった方には、容赦なくボランティアとして活躍頂くという、最高の循環が出来ています。高齢者を単なるサービスの受け手としない。高齢者にもまちづくりに汗をかいて頂ければ、「高齢化」はネガティブワードではなくなる。体操教室の場所が自治会館では足りなくて、空き家の活用も考えてもらおうか、という声も出ているくらいです。

音楽祭、マルシェ……市民が「プロデューサー」になる仕掛け

角:そうやって、高齢者のコミュニティがどんどん出来ていくことで、彼らより若い人にも「生駒おもろいやん」とポジティブにとらえるひとたちがどんどん増えてくるわけですね。

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(スポーツにも力をいれている生駒市。今年、関西初のFCバルセロナサッカースクール が生駒に開校)

小紫:そうですね、シニアだけでなく、例えば音楽祭なんかも市民がプロデュースしているので、バラエティ豊かで、すごく盛り上がっています。クラシックだけではなくて、ジャズもあるし、アフリカの民族音楽と和太鼓のコラボというのもあって、面白いんですよ。

生駒には、大阪で有名な楽団に入っている方も住んでいるんです。これまでは、彼らにとって、「大阪、東京、海外で仕事して、生駒は寝るところ」でした。それが音楽祭に来てくれたのをきっかけに、市役所や図書館で演奏してくれたり、空き家セミナーにも来てくれたんですよ。「バイオリンや音楽の力で、空き家問題に何かできることあるかな」っておっしゃるんです。これってすごいなって思って。

角:一回やればわかるんですが、お客さんになるより、実行者になるほうが、俄然面白いんですよね。

小紫:そうですね。ただ、 いきなり実行者になるのは難しい方もいますよね。その点、生駒にはお母さんたちがやっている「いこママまるしぇ 」というのがあって、僕はそれがすごくいいなと思っています。

まずはお客さんとして参加します。すると、「次は出店してみない?」って声を掛けられて、出店側にまわるんですね。そこで次のステージに上って盛り上がる。
佐村佐栄子さんという素敵な方がいるんですが、背中を押すのがすごく上手なんですよ。出店の常連の方には「次はプロデュースしてみて」って声をかけて、フォローをしながら企画者になってもらう。声をかけられた人は、おいしいパン屋さんやアクセサリーを作る方などを呼んできて、来場者が喜ぶと、「プロデュースも面白いな」ってなる。そしたらその人は、また次のステージに上がる。

市役所はほとんど何もしていないです。応援する意味で、ちょこちょこ顔を出して広報支援などはしますが、企画運営にはタッチしていない。以前はそういう人をマグネットのように繋ぐ場所を作ることが行政の仕事でしたが、もう次の段階にきています。市民が自主的に人が集まる場所を作り始めて、かつ人材育成までやっているんです。

角:すごいですね。市民が新しい場所をつくって、それを面白そうだと思う人が集まって、運営やってもらって、どんどん増殖していく。

小紫:そうそう。無限増殖。

角:そうやって輪がどんどん広がっていく。それが一番理想的ですよね。

(後編につづく)


【プロフィール】

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小紫雅史(こむらさき・まさし)
1974年生まれ、兵庫県出身。1997年一橋大学法学部卒業。2003年シラキュース大学院行政経営学部修了。1997年環境庁(現環境省)入庁。ハイブリッド自動車の税制優遇、廃棄物処理法・容器包装リサイクル法の改正や、事業者との環境自主協定制度(エコ・ファースト)の創設などに尽力。2011年退職(大臣官房秘書課課長補佐)。2011年8月、全国公募により生駒市副市長に就任。2015年4月、生駒市長に就任(現在1期目)。前立命館大学客員講師。NPO法人プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)創設メンバーで元副代表理事。著書に『さっと帰って仕事もできる!残業ゼロの公務員はここが違う!(学陽書房)』など。最新作は『公務員面接を勝ち抜く力(実務教育出版)』『公務員の未来予想図(学陽書房)』。

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角勝(すみ・まさる)
元公務員(大阪市職員)。前職では「大阪イノベーションハブ」の立上げと企画を担当し、西日本を代表するイノベーション拠点に育てた。 現在は、「共創の場をつくる」、「共創の場から生まれたものを育てる」をミッションとして、共創人材の育成や共創ベースでの新規事業創出を主導するオープンイノベーションオーガナイザーとして活躍。大手企業5社・ベンチャー企業1社と顧問契約を結ぶとともに、ハッカソンをはじめとするイノベーションイベントのスペシャリストとして年間で50件を超えるイベントに携わる日本でも有数の共創分野の実践者である。



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