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新規事業開発で「需要のない事業」を作らないために行うべきこと 〜実例に学ぶ適切なユーザヒアリングの手法とは〜

2020年9月17日にYouTubeでIT&MARKETING EXPOの2日目が開催され、「新規事業最前線:交差するスタートアップと大企業、オープンイノベーションの今」と題されたセッションが行われました。モデレーターはTECHFUND代表取締役の松山雄太さん。スピーカーはビザスク執行役員の田中亮さん、NRIデジタルの林田敦さん、DNX Venturesの稲田雅彦さん、そしてフィラメント取締役の渡邊貴史が参加しました。本記事ではこのセッションで語られた新規事業開発におけるユーザヒアリングの重要性と、経験豊富な参加者が指南する適切なユーザヒアリングの手法について掲載します。

ユーザーとのヒヤリングは事業アイデアを思いついた当日でも

松山:NRIデジタルの林田さんは「N-Village」を設立されてCTOをなされたとのことですが、その中で他社と組んで生まれたサービス事例について教えていただけますか。また立ち上げた時の失敗談のようなものがもしありましたら、お伺いしてもよろしいでしょうか。

林田:N-Villageで「MyRate」というサービスのβ版をリリースしました。個人の信用情報は各サービスごとにまとまっていて、プラットホームをまたいで引き継げないという問題があると考えていました。そこで、シェアリングエコノミーサービスなどで培ったその人の信用情報をいろいろなサイトから集めてきて、「この人は総合的に見るとこういった信用情報がある」というのを表示してくれるのが「MyRate」です。

シェアリングエコノミーサービスがたくさん出始めて、乱立して困るというタイミングで作ったので、当然ユーザーのペインがあるものだと思ってつくり始めたのですが、リリース当時、実はシェアリングエコノミーサービスをまたいで使うようなユーザが少なくて、つまりユーザーのペインが存在しなかったんですよ。もっと早くユーザーにインタビューしていれば良かったんですけど、それができなかったのが反省ですね。

今はすごく気をつけているんですけど、なるべくサービスの新規事業をやる際は、サービスの初期段階で、小さいプロトタイプで良いのでユーザーに見せて「本当にこれ使いますか?これだったら使いますか?」と聞いて、フィードバックを受けながらやらないといけないなって身をもって知りました。

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松山:ありがとうございます。ちなみに「MyRate」では、ユーザーさんにそのサービスを見せるまでの期間、どのぐらいで見せるまでいったんでしょうか?

林田:プロトタイプをつくるのに、半年かかっていないと思いますね。

松山:非常に早いですね。半年で遅いとなると、大体新規事業アイデアベースで考えてからどのぐらいの速さでユーザーさんにその事業がいけるかどうか確かめるべきなんでしょうか。

林田:そういう意味だと先にプロトタイプを作るのではなく、「今どういう苦労をしていますか」というインタビューをするのでいいんですよね。そこまでだったらむしろ時間まったくかからないので、その思いついた当日でいいぐらいです。

松山:当日。いいですね。私はTECHFUNDでもよくリーンスタートアップの手法に基づいてターゲットとなる顧客を見つけたら、その課題が本当にあるかどうか、さっそくユーザーヒアリングして確かめようみたいな話をすぐするんですけども、やはりユーザーさんに聞くのって結構心理的ハードルもそうですし、実際そういうユーザーさんと繋がっていなかったりもするじゃないですか。そういうハードルを越えるためにできる工夫を、ご経験の中から何か教えていただいてもいいですか。

林田:自分たちだけでターゲットのセグメントのユーザーにお声がけするってなかなか大変なので、やっぱりそういった業者にお願いするのが、大企業側からするとやり易いのかなとは思いますね。

松山:そうですね。本日ご参加いただいているビザスクさんなんかが…(笑)。フリみたいになってしまいましたが。

田中:営業始めたらいいかなって今思ったんですけど(笑)。

松山:ありがとうございます。林田さん、特に大企業の社内だと、すぐにユーザーさんに聞きにいくことへのハードルが結構あるように感じるんですけれども、これまで遭遇したそういったハードルや、それを実際にどういうふうに超えてきたか、もしくは今後こういうふうに超えたいと思うってことがあれば教えていただいてもいいですか。

林田:そうですね。NRI本体の事業探索R&Dっていう、いわゆる新規事業制度みたいなもののアドバイザーをさせていただいているんですけど、そこに持ってきてくださる案件にユーザーインタビューが足りないケースが多いんですね。「ステージゲート方式」という、仮説の確からしさが分かったら次の段階に進むというやり方をとっているんですが、そこでアドバイスをする時に、「必ずユーザー何人ぐらいに聞いてくださいね」とか、聞き方ひとつとっても、「こういうふうな聞き方をしてくださいね」とか、「『これがあったらいいと思いますか』、みたいな聞き方をしちゃ駄目ですよ」といったアドバイスをしながら進めていきます。

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オープンイノベーションの高まりとともにインタビューの重要性の認識が広がった

松山:社内のみなさんの反対とかってあったりしないですか?「いきなりユーザーのもとに行くなんて…」とか。

林田:心理的ハードルがまず高いのはあると思うんですよ。お客様との間にハレーションが起きたりだとか、段階によっては関係性が構築できていないとかということもあると思いますので、なかなかそこは難しいのかなとは思います。ただ、これは別に宣伝ではないんですが、例えばビザスクさんとかであれば全然関係のない、本業と関係のないところの人を引っ張ってこれて、そこでインタビューできたりするのですごくいいかなと。

田中:ありがとうございます。

渡邊:お客様のNTTコミュニケーションズ(以下、Nコム)さんもビザスクさんを多用していまして、何か分からないこと、検討する中でプロセス上困ったらとりあえずビザスクを使ってのユーザーインタビューにいきましょうと言っています。

今手伝わせてもらっているプロジェクトも、基本的に今林田さんが言われていたゲート審査制を採用しています。Nコムさんにも「仮説検証の時に最低10社は話を聞きに行きましょう」と言っていて、そのうちの4社はうちで紹介させていただいて、残りの6社は、専門のより詳しい人に聞くためにビザスクさんを使っています。それでNコムさんはビジネスプランですとかビジネスシードの正しさ、確からしさを検証しています。それで明確に事業が早く進むと考えています。

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田中:やっぱりインタビューってやってみないと分からないんですけど、やることの大事さが徐々に浸透してきているかなと思っています。やってみると世界観が結構変わってきて、みなさん「早く聞けばよかったな」っておっしゃられるんですね。

ただ5年前ぐらいって、やっぱり「外に話聞きに行くなんて」とか「自分たちの情報出すなんて」ってところがものすごく強かったです。我々もこういうサービスを開始して、最初は営業に行くと怪しいサービスだと見られていましたけど、徐々に経験値がみなさんの中で蓄積されてきている中で、相対的価値が高まってきていると思います。

このコロナの状況下で情報がとりづらくなってきているので、どうやって情報をとるのかが問題になっています。ネットの情報だけではうまくいかないので、今ものすごく使っていただくお客様が増えています。

でも、やっぱり林田さんしかり渡邊さんしかり、「こういうふうに聞いてあげたほうがいいよ」とか、「こういうことを確かめてきなよ」っていうことの手ほどきが最初大事だったりするので、そことセットでサポートができるといいと思います。オープンイノベーションはスタートアップと何かと手を組むだけじゃなくて、必要なリソースを必要なところから取ってくるということでもあると思うんですけど、事業開発の加速度は結構変わってくるのかなとは思っていますね。

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ユーザーヒアリングはどのように行うべきか

松山:ありがとうございます。ぜひ田中さんにお伺いしたいのが、ユーザーヒアリングをただ単純にすればいいかというと、そうでもないわけじゃないですか。例えばどんな人に聞くべきか、また何人に聞くべきか、そして聞いた結果がそれがいいのか悪いのかってどういうふうに考え、どういう判断していくべきなのか教えていただけますか。

田中:どこまで情報収集して進んできているのかや、なんの情報をとりたいのかにもよります。仮説を構築するタイミングで、まずざくっと情報がほしいのか、それとも実際仮説を持ったうえでそれを検証したいのかによっても当然ヒアリングすべき項目も違いますね。

例えば「50代男性の人に話聞きたい」だけだと、本当にいろいろな方がいらっしゃっるので、そこはしっかりとペルソナを定めていくべきです。toCの領域だと、いろんな方がしっかりとペルソナの考え方に根差して事業を展開されるものの、toBになってくると、なぜか急にペルソナというものがなくなってしまうことがあります。toBであっても、ペルソナを設定して壁打ちをし、そのうえで聞きに行ってみるということですね。そして、本当に自分たちの描いたペルソナが正しかったのか、正しくなかったのかっていうところで修正をはかっていく。これはやっぱり自分たちが売れると思ったものが売れるかどうかって聞いてみないと分からないわけですけど、試行錯誤のサイクルをとにかく早めていく。だから仮説検証するってことなんですけど、やっぱりそこの準備は必要かなと。

当然まったく準備せずにとりあえず聞きに行くだとまったく意味がないので、整理をしていくうえで、我々インタビューのトレーニングとかセミナーなんかも無料でやっていますので、ぜひ必要な方はご参加していただけたらなと。

松山:なるほどですね。ありがとうございます。

林田:オープンイノベーションって、これまで大企業とスタートアップが掛け算されるというところで語られることが多かったんですけど、今こうやってお話を聞いていくと、それだけじゃなくてユーザーもサービスを形作っていく上でのひとつのリソースと考えると、イノベーションって難しいことではなくて、「自分たちが考えているビジネスをなるべくオープンにしていって、それで早い段階で失敗しないようにやっていきましょう」というのがオープンイノベーションなのかなと思いました。

松山:間違いないですね。みなさん誠に非常に有益なお話をいただきましてありがとうございます。新規事業においてのよくある失敗をどのように防ぐかという点では、外部のサービスを使ったりですとか、今回ご参加いたいだいてるみなさん、こういった新規事業だったり、オープンイノベーションを支援されているみなさんにお話を伺いながら進めていくのが、まさにオープンイノベーションを成功させる秘訣なのかなと感じました。

本日ご参加いただきましたビザスク田中様、NRIデジタル林田様、フィラメント渡邊様、DNX Ventures稲田様、みなさまどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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