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Forbes JAPAN・谷本有香さんに聞く、コロナ時代に人との距離を近づけるコミュニケーションのいろは ~雑談王~ (3/3)

コロナによって、ビジネスの面でも急速なオンライン化が進む中、オンラインでのファシリテーションやコミュニケーション、マネジメントの仕方に迷う場面も出てきているのではないでしょうか。そんな状況下における「人との関わり方」のコツや、多種多様なTipsをその道のスペシャリストに聞く、連続企画「雑談王」。第三回目のゲストにお越しいただいたのは、数多の著名人の方々と関わってこられたインタビューのプロ、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香さんです。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)

アフターコロナの時代に、経営者が持つべきマインド

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宮内:Forbesは経営者への取材や記事が多いと思うんですけど、これだけコロナで世界が変わって、今後の経営者の持つべきマインドはどのようなものだと思いますか?

谷本:私自身、金融業界にいた時代も長かったので、そこについてはすごく思うところがありますね。強欲的な資本主義の時代が終わって、みなさん、次に目指すべき姿を探しあぐねている気がします。多種多様なキーワードが出ている現代にありながら、みなさん、自分の会社が目指す姿を表すようなバズワードに、まだ出会えていないんですよね。
経済体制が資本主義がベースになっている以上、これからも、わかりやすく経済合理性や効率性を追求するようなことはしていかないといけないと思うんですけど、その中で「どう自分らしさを出していくか」が課題ですね。現代の多様な「正しさ」に対して、自分はどの「正しさ」の方向で行くのか。未だにしぶとく根付いた昭和・平成の資本主義的なやり方の中で、自分たちのストーリーと、合理性や効率性をどう組み合わせていくか、という。
みなさん、SDGsの理念などを念頭におきながらも、それとお金を生む部分とは乖離していると思ってるんですよね。だけどそこをうまく合致させないと、絶対に今の消費者はついてこないと思います。だから今は、自分たちのお客さんに選ばれることを目指すような新しいエコシステムを追求していく過渡期だと思いますね。資本主義の「勝ち負け」の時代ではなく、みんなで共生して「負け」を作らないような社会にしていくといいと思います。

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宮内:今までは、勝ち負けの世界でしたね。

谷本:「他者を意識しての」差別化ではなくて、「自分たちがオンリーワンであるための」差別化を心がけて、それを言語化していく作業が大事ですね。

宮内:一方で、角さんは大企業のイノベーション支援をしていますが、どう感じていますか?

角:昔の昭和の考え方だと、「消費が美徳」みたいなところがあったと思うんですけど、最近僕がサポートしてる会社のメンタリングにおいては、「世界観(ビジョン・ミッション)をちゃんと持っているチームにして欲しい」といったオーダーを受けることが多くなってきていますね。儲けに特化するんじゃなくて、「世の中をどうしたいか」の意識を持ったチームにしてくれ、という。
そういった形で、大きい会社でも、新しい事業をしようとしたとき、みんなが賛成したくなる部分がないとうまくいかないフェーズに来ているんだと思います。これからの若い人たちは、絶対にそういうのがないとダメで。逆に言うと、そういう動きをしていく会社を、これからどうやって増やすのかが、僕たちの世代の課題なんでしょうね。
僕たちのこのQUMZINEというメディアも、「世の中をよくしていきたい」と思う人たちが集うコミュニティとしてのメディアでありたいんですよ。「わたしはこうありたい、こうしたい」を持っている人たちは、それを言語化していくべきだと思うんですよね。だから、そういう文化が作れたらいいなと思っています。

谷本:これって本当にメディアの役割だと思うんですけど、今世の中に蔓延する表層の消費欲ではなく、もっと根本のところを探っていく必要があると思うんですよね。前時代から受け継いでいる、「これが価値」っていうわかりやすすぎるくらいに定説化されているものを、今の時代に見合う価値感に再定義していかないといけないと思います。先ほど「勝ち負けの時代ではない」と言っておきながらなんですけど、数字的ではない部分で、早く再定義を出来た者が勝っていく時代になると思います。

角:「これがいい!」と選ばれるための共感を得たり、必要性を会得することが大切ですよね。

宮内:僕たちもカルチャーイベントや、文化イベントをやるんですよ。余白の部分から何かが生まれてきたり、全然違う価値の掛け合わせでいろいろと新しいものが生まれていくことが面白いと感じていますね。

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谷本:「アート&サイエンス」という分野が、これからのキーワードになってくると思っています。アートやサイエンスって、「妄想が許される領域」なんですよね。私たちってどうしても、ノンフィクションや物理の世界に重きを置きがちだと思うんですけど、余白を持ったフィクションみたいなものをどれだけ作っていけるか。そういう部分にどれだけ価値を見出してあげられるかが要ですね。

角:うちの会社フィラメントでは、「教養とムダ知識」という言葉を大事にしているんですよね。会社のバリューにも入れている。「ムダ知識」と敢えて言うのは、教養までは至らないと思っていることの方が実は大事だと思っているからなんです。意外とそれを知っていることで、教養を超えていくような広がりが得られたりとか。そう考えると、どんな知識も無駄じゃないと感じますね。

宮内:フィラメントの文化系イベントにも、アート側の人間だけじゃなくて、ビジネスサイドの人間が来てくれるんですよね。これまでの感性じゃないひらめきを求めてくる人がいる。「Beyond the Biz」というイベントですが、コンセプトはまさに谷本さんがアーティスト のKiNGさんとやられていたイベント「オトナ嗜む」を参考にもさせていただいてて。ビジネスをやる方が、新しいものを作ろうとするときに、実は得るべき知識なんじゃないかと思ってます。

谷本:そう、無駄な知識がすごく重要なのに、みなさんやらないんですよね。取材でも、無駄話こそしてくるように言ってるんですけどね。

角:谷本さんの書かれてる記事とか読ませていただいても、めちゃめちゃ教養ある方だなと感じますね。あらゆる知識のベースの部分が、めちゃめちゃしっかりされてるんだろうなと思います。


社会を良くしていくための「偏愛力」

宮内:谷本さん、『世界のトップリーダーに学ぶ 一流の「偏愛」力』って書いてらっしゃいますよね。あの、「偏愛力」っていい言葉ですね。

角:谷本さんが偏愛しているものについても、伺いたいですね。

谷本:実は、私の偏愛は「金融経済」なんですよね。だけど、「偏愛」って一般論だと「すごく好きなもの」という文脈で語られがちだと思うんですけど、私の場合はそうではないんですよね。一番最初のキャリアが山一證券だったことに由来すると思うんですけど、そこで、大好きだった部長さんが亡くなったり、会社が潰れて私自身の財産がなくなったり、すごい人生のドラマをたくさん見てきてしまったんですよね。一緒に働いてた人のお子さんがいじめられたり、婚約破棄されたり。「こんなに人の人生を変えてしまうものって、なんなんだろう?」って思ったときに、金融経済こそが、バブルやその崩壊によって、人の人生を翻弄している原因だと気づいたんです。
だからこそ、金融経済の調整面をうまくやれば、人の人生はこんなにジェットコースターみたいにならないんじゃないかと、若き日の私は思ったんです。そこをきちんと調整できるまでは死ねない!っていう、ある種のこだわりや譲れない信念みたいな思いこそが、私の偏愛に繋がっているんですよね。それでも、金融経済のことをきちんと伝えられるようになるまでに、15年もの歳月がかかりました。

宮内:すごい原点ですね。

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角:そして、谷本さんの視点が、すごく優しいですよね。若い頃の目線や、経験からして優しい。人の痛みに寄り添うことを大切にされているんだろうなと感じます。

谷本:自分自身の、性格みたいなところはあると思いますね。私はどん底の時に、どん底を味わい尽くしているんですよ。当時は若かったし、転職もできたと思うし、山一證券の痛みから目を背けることもできたと思うんですけど、それでも私は傷をしっかり見ることにしたんですよね。他の人の傷も。そうしないと、気が済まないタイプだったんです。
その後も、フリーランスになって、ありとあらゆるパワハラにあって、散々な嫌な目にも遭ってきました。そうしていろんなことがあった中で、どん底を味わい尽くすと、逆に人の優しさとか、自分自身の幸せな部分とか、いい面も顕在化されてきたんですよね。そこの部分は、誰かへの優しさに結びつくだけじゃなくて、社会的な弱者の方々に関する嗅覚にも結びついていると思います。

角:まさに理想の上司No.1ですね! 谷本さんの偏愛の根本は、人間への愛情なんだろうと思いますね。嫌な目に遭っても、そこにそういう形の偏愛を持ち続けているって、すごく芯の通った生き方だと感じます。

谷本:これまでのキャリアの中でも、会社の会議などで、下の人が絶対よくは思わなそうなおかしい意見が役員から出たときは、1人で役員とか上の人にたてつくようにしていたんですよ。すると、盾になってくれる人がいるから、周りからも意見が言いやすい状況になったりしますよね。それぞれの方の自身のクリエイティビティが発揮しやすいような環境を作っていきたいなと思うんです。

角:谷本さんが主人公の、小説とか読みたくなりますね。谷本さんのような方が、日本のForbesで文化を作られるところにいらっしゃることが、尊くて素晴らしいことです。

宮内:最後に、次世代のリーダーとか、30〜40代の人が、これからアフターコロナの時代でどうやって生きていくべきか、谷本さんのお考えをご指南ください。

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谷本:何よりもまず、「フリーランス志向を取り入れましょう!」ということが言いたいですね。そうしないと、食べていけない時代が来ると思います。どこか企業や社会に属する時代から個の自由な時代に変わっている反面で、何者かにならなきゃいけない、厳しい時代になっていると思うんですよね。
だからそんな中で自分を磨きながら、同時にコミュニティにも入っていくべき時代だと思いますね。コミュニティに入るには、自分が何者か知らなければならない。コミュニティとは組織や社会などの大枠ではなく、たとえば会社の中に自身で作っていく共同思想の仲間でもあります。ただ、それは時代や環境によって移ろいやすい。だから、自分が自分らしくいられるところで、安心・安全を感じられるセーフティーネットの中でぬくぬくするのではなく、切磋琢磨して自分の刃に磨きをかけていくイメージというか。

角:アンラーンとリラーンを繰り返し続けることなんでしょうね。時代が変わってるから、今までのものも役に立たなくなるじゃないですか。僕たちの頃って、「大人になったら勉強しなくていい」みたいな価値観があったと思うんですけど、それってなんかヘンだなって。時代が変わっていくんだから、僕たちだって、自分自身どんどん皮をめくっていかなくちゃいけないですよね。世の中全体が、そうならなきゃいけないと思っています。

谷本:他方で社会とのインターフェースは常に意識して、自分にとって一番濃いインターフェースを築いていくことが肝要だと思いますね。それは与えられるものだったり、レールに乗っていくものではなくて、自らの手でいろんなレイヤーを作っていくことですよね。

角:そういうことをするにも、子どもが新しいことをするのに夢中になるように、楽しく面白がっていけたらいいなと思います。

宮内:まさに「面白がり力」ですね。

谷本:面白がり力。本当に、そう思いますね。


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【プロフィール】

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谷本 有香(たにもと・ゆか)
Forbes JAPAN Web編集長

証券会社、 Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBAを取得。 その後、 日経CNBCキャスター、 同社初の女性コメンテーターとして従事。 これまでに、 トニー・ブレア元英首相、 アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、 ハワード・シュルツ スターバックス創業者はじめ、 3,000人を超える世界のVIPにインタビューした実績がある。
現在、 MX「モーニングCROSS」にレギュラーコメンテーターとして出演する他、多数の報道番組に出演。 経済系シンポジウムのモデレーター、 政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員等としても活動。

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