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始まりは1枚のスチレンボード! ソニー萩原氏が語る「MESH」の原点

ソニーが出した新規事業といえば、カラフルな四角のタグが並んだMESHを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。インターネット上でもMESHの事例が数多く投稿されており、まさに、「Make, Experience, Share」を体現した商品といえます。そんなMESHにかける想いを、ファウンダーの萩原丈博さんに聞きました。

【プロフィール】

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萩原 丈博(はぎわら・たけひろ)
ソニー株式会社 MESHプロジェクトリーダー 学生時代、コンピュータサイエンスとアート、デザインに関する分野で活動。2003年ソニー(株)入社、So-netなどでネットワークサービスの企画・開発に従事。2011年~2012年、スタンフォード大学訪問研究員。米国・西海岸シリコンバレーでの滞在経験を経て、2012年にMESHプロジェクトを立ち上げ。プログラミングや電子工作の知識がなくても誰でも簡単に楽しく「あったらいいな」を形にできる世界を目指している。

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角 勝(すみ・まさる)
大学で歴史を学んだ後、大阪市に入職。在職中にイノベーション創出を支援する施設「大阪イノベーションハブ」の設立・運営に携わったのちに2015年3月大阪市を退職。各地でオープンイノベーションの支援、ハッカソンの企画運営を行っている。


誰でもIoTを体験できる「MESH」

角:今日はよろしくお願いします。まず「MESH」について簡単に説明してもらえますか。

萩原:はい。MESHはソニーの新規事業創出プログラムのSeed Acceleration Programから生まれたプロジェクトで、LED、人感、動き、明るさ、温度・湿度といった、さまざまな機能を持ったブロック形状の電子タグを使って誰でも「あったらいいな」をつくることができる製品です。

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例えば、「動き」のタグをドアに貼り付けて、離れて暮らす家族の安否を知らせる仕組みを作る、「明るさ」タグをつけて、明るくなったら自動的に音楽を流す、「温度・湿度」のタグを使って赤ちゃんのオムツをチェックする、そういったアイデアを、難しいプログラミングの知識がなくても実際につくって試せるようになります。

教育の分野でもよく使われています。例えば、筑波大学附属小学校の研究授業でも導入いただき、理科の授業でMESHが使われたのですが、小学校6年生のこども達が、明るさや温度湿度のタグを使って、「明るさがこれくらいで、湿度がこれくらいなら、雨にしよう」と自分たちで基準を調べて決めて、最終的には、音声で「今日は雨です」と知らせるようなものを作っていました。

角:こどもたち、やりますね!


萩原:プログラミングの授業にも使われますが、「椅子に座った時に、この命令を送ろう」など、自分たちの生活と繋げながら作ることができるので、ものづくりを楽しみながら、概念や考え方を学ぶことができますね。

MESHが「やり切れた」ワケ

角:なるほど。ありがとうございます。

MESHは新規事業の成功事例の一つといえますね。しかし、世の中には、立ち上がる前になくなってしまう新規事業もたくさんあると思います。

MESHという非常に革新的な商品であっても、企画して、世に出すまでには「そんなの売れないよ」と言った人も、もしかしたらいるのではないかと思うのですが、萩原さんが新規事業として世に出すまでやり切れた、その秘訣をお聞きしたいです。

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萩原:そうですね。ハードウェアを扱うのって、大人でもすごくハードルが高いと思うんです。
僕はソフトウェアのエンジニアだったんで、ハードウェアについてもある程度知識はありますが、それでも大変。
でも、MESHだったら、ハードウェアの難しい知識がなくても、いろいろなことができるようになるんです。こどもでも、できるようになる。そんな世界を見てみたいというのが、僕の原動力なんです。

もちろん、リリースまでには紆余曲折がありました。実際に売れるのか、とも言われました。
ですので、まずはクラウドファンディングからチャレンジしました。
みんな欲しいって言ってくれるけど、本当に買う人がいるのかな? という不安もありました。でも信じてチャレンジし、そして目標金額を達成しました。これからIoTでみんなが繋がっていく社会は絶対くると思っています。そこできちんと世の中に貢献できるようなビジネスにしていきたいと思っています。

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角:クラウドファンディングを活用したわけですね。


萩原:そうです。最初からMESHはこうなるだろうと全部予測を立てるのではなく、展示会に出して、クラウドファンディングをやって。どういう人が買ってくれるんだろういうのを、一つ一つ仮説検証を繰り返してブラッシュアップしていきました。


角:他の大企業だと、100億の壁というか、ある程度売り上げが見込めないと事業化できない、ということもあります。そこをどう突き崩していけばいいかという問題はありますが、萩原さんみたいに、大きなビジョンがあって、将来はこういう社会になるだろうという確信を、まず自分自身が持っているというのは、とても大切なことだと思います。

ただ、自分が考える「こういう社会」というのは、一挙には到来しませんよね。だから、少しずつずつ階段を上っていく過程があって、その間モチベーションを維持し続けるのは大変だと思います。いろいろ言われる中で、信念が揺らいでしまう、といったことはなかったのでしょうか?


萩原:信念が揺らぐのはなかったですが、落ち込むことはありました(笑)でも、MESHを必要としてくれる方々がいるので、なんとかその期待に応えたい、という気持ちでしたね。


角:必要としてくれる人というのが、かなり早い段階でいた、いたということでしょうか? もちろん、MESHがリリースされてからは、たくさんいると思いますが、MESHができる前とか、企画の段階でも?


萩原:はい。最初はすごいライトな形で始めたんです。最初のMESHって、スチレンボードをカッターで切って、そこにアイコンとして、プリントアウトした紙をペタッと貼ったものだったんですよ。
本当に30分ぐらいでつくって、それを「こういうのがあったらどうかな?」とヒアリングをすることから始まったんです。
でも、それだけのものでも、「実はこういうのがあったら良いと思っていた」「自分の困りごとが、MESHがあれば解決できそう。欲しい」と言ってくれた人がいたんです。


角:これいいねとか、欲しいねと言ってくれる人がたくさんいて、そういう人たちの声が支えになった、ということですね。


萩原:そうです。


角:MESHとして今みたいなきちんとした物になっていない段階でも、すでに、仮説検証の繰り返しができていた、と。


萩原:はい。たとえば、デザインも仮説検証を繰り返す中で変わっていきました。
MESHって四角いじゃないですか。カクカクしていて。でも最初は丸みをつけたデザイン案もあったんです。
でもそうすると、向きによっては置きづらかったりとか、他のモノと組み合わせるのが大変だね、という話になって、それなら直方体にしよう、となった。デザイナーからは、「直方体だとデザインできる要素が少なくなって難しい」とは言われたんですが、MESHを作る、使うための一つの道具としてとらえたときに、やはり直方体だ、と。


MESHを世に出したソニーの取り組み

角:ソニーという会社がこういうことをしてくれていたからMESHを出せた、そんなソニーにいることでプラスになった、と感じることはありますか?

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萩原:大いにあります。ソニーという会社には、各領域でプロフェッショナルがいるので、わからないことを相談できる人はたくさんいますし、デザインも、最初のソニー公式のプロジェクトではなかった段階から、いろいろ手伝ってくれる人がいて。

ものづくりをやっている会社だからこそ、理解してくれる人がたくさんいた、というのは大きいです。


角:会社の仕組みというよりは、仲間が助けてくれた、という感じですね?


萩原:そうですね。もちろん会社の仕組みは大事ですが、それ以上に「人」がすごく大事だと考えています。

人がいなければ、そもそも会社って成り立たないですから。


角:会社は人、まさにそうですね。


萩原:いろんな人が集まって同じ目的に向かって進む、それがたまたま「会社」という組織だったのかな、と。

だから、目的が同じなら、社外の人間ともコミュニケーションもしますし、たまたま所属先が行政だったり、大学だったりと異なっていたとしても、最終的には人と人とのつながりで、新しいものが生まれるんだなということに、このMESHというプロジェクトをやりながら気づかされました。


角:そのつながりは、萩原さんの人柄もあるんだと思います。みんな誰でも彼でもサポートしよう、と動くわけではないでしょう。「こいつは本気で取り組んでいるから、サポートしてやりたい」「自分も忙しいけど、困っていそうだから助けてあげよう」と思わせるもの、「巻き込み能力」みたいなものが、萩原さんにある。

萩原さんって、なんか助けてあげたくなるんですよ(笑)周りの人たちもそうなんでしょうね。

それはなんでだろう? と思ったんですが、やはり真面目に自分の描いた未来を信じて取り組む姿とか、いろいろな人に教えてもらったことをきちんとやっているから、というのがあると思います。


萩原:ありがたいですね。


角:アイデアは面白いのに、人望がなくてつぶれる……という人もいますよね。


萩原:人望があるかはわかりませんが、ビジョンがないものには、人は集まりにくいとは思います。極論ですが、「お金儲け」だけが目的で、お金さえ儲かればなんでもいい、といわれると難しいでしょうね。


角:ソニーの製品には、「これができれば面白い」を具現化している、一言でいえば「粋」なものが多いですよね。おそらく、それは「自分がこれを作りたい」という想いがベースになっているからではないかと思います。「AROMASTIC」とかもそうですよね。こういうのがあれば、生活に少し潤いをもたらせるとか。

手伝ってあげて、「ソニーのあれ、実は俺も絡んでるんだぜ」って言いたくなる。


萩原:「アレオレ(あれ、俺)」ってやつですね(笑)


角:そうそう(笑)

ほかに、ソニーにこんなシステムや、こんな仕組みがあってよかった、というようなものは有りますか。


萩原:そうですね。社内外から提案される新たなビジネスコンセプトの事業化をスピーディに促す「Seed Acceleration Program」というプログラムがあり、またその枠組みの中にクラウドファンディングとeコマースを兼ねた「First Flight」があり、そこで実際に製品を売ることができる、会社全体で新規事業をサポートしていこう、という取り組みがあるのはありがたいです。

角:会社の中でクラウドファンディングを作る、本気度の高さを感じますね。きっとMESHや、FES Watch Uの成功も、大きく貢献しているのではないかと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

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 本日、萩原さんはちょうどTHE DECK でコーデンシ株式会社の高島さんと情報交換中でした。せっかくなので高島さんと3人でお写真を撮らせていただきました。

 コーデンシ(株)は、光センサを手がけるものづくりの会社です。ウォークマンの部品や、ソニー製品のリモコンにも、コーデンシの技術が使われています。これからコーデンシでもオープンコラボレーションの取り組みに挑戦すべく、先駆者である萩原さんにご面会されたということで、今後の活動に注目です!

コーデンシ(株): http://www.kodenshi.co.jp/

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