まさや君

俺は小2の4月に転校してきた。
まさやは5月に転校してきた。遠足の日に突然に。変だ、と思ったけど噂では家庭環境が複雑なせいらしいとの事だったので誰も何も言わない。

引っ越してきたのは俺と同じ都営住宅の隣の練で、8歳だったからそれだけで仲良くなる。

まさやは俺より少し頭が悪かった。その代わり柔道がすごく強い、らしい。(すでに市内の新聞に載るくらい)
俺は絵が描けたので、合計するとまさやと同じようなものだと思い一緒にいると気楽だった。

8歳ながら俺は思った。

(まさやとずっと一緒にいれば、大丈夫だろう)

その通りに小学校はずっとまさやと遊んで過ごした。 ふたりでいれば成績なんかも気にならなかった。

時は流れ中学へ進学。
家が近いので中学校も当然同じ。
そしてまさやは当然柔道部へ。

俺は美術部に入りたかったが親に「1年間運動部に所属する事」と言い付けられていたので、つられて柔道部に入ってしまった。(空手をやっていたのもあって、まあ出来るだろうと思っていたが全然出来なかった)

その柔道部で、俺は初めてまさやが柔道をしているのを見た。

まさやはすでに中3の先輩を、パイプ椅子でも投げるみたいに投げ飛ばしていた。もう全然違う人だった。「火」だ、まさやによく似た「火」だ、と思った。

「火」は俺の方を見ると、ふっとまさやに戻って「冷水機の水、飲みにいこうぜ!」と言うのだった。

俺は思い出す。

(まさやとずっと一緒にいれば、大丈夫だろう)

俺の絵は、まさやで言う柔道ほどレベルの高いものでは決して無い。
まさやは小学校の時から「今日は稽古だから〜」と遊びを断っていたような、身体中にテーピングをしてたような、爪を怪我してたような、俺は何もしてなかったような。

まさやのうそつき!
ずっと一緒にいようねって言ったのに!
(言ってはない)

孤独、数年に渡る自惚れ、相棒の喪失、中間テスト、全然好きじゃない今後1年間続く柔道。

はじめて目眩がした、13歳の春。

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